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☆2021 バズった人、コト~その3

☆2021 バズった人、コト~その3

   来年2月の北京オリンピックについて、アメリカが問題を提起した「外交的なボイコット」。中国・ウイグル族への強制労働や、女子プロテニスの選手が前の副首相から性的関係を迫られたと告白した後に行方がわからなくなった問題、香港における政治的自由や民主化デモへの弾圧など、中国の人権状況に対して国際的な批判は強い。オーストラリア、イギリス、カナダが同じように政府関係者を送らないと表明し、アメリカに同調している。

       ~北京オリ・パラの外交的ボイコットには日本流で参加~

   日本政府はどうなのか。岸田総理は第2次内閣の発足に合わせて新たに国際人権問題担当の総理補佐官を置き、中谷元・元防衛大臣を起用。また、来年から外務省に国際的な人権問題を担当する企画官を設置することを決めている。中国を念頭に、政府として人権問題に厳しい対応をとる方向性を示したと言える。北京オリンピックについて、岸田総理は「国益の観点からみずから判断していきたい」と繰り返すだけだった。が、ようやく態度を決めたようだ。

   総理官邸公式ホームページに松野官房長官のきょうの記者会見(24日)の動画が掲載されている。それによると、来年の北京オリンピック・パラリンピックへの対応については、閣僚など政府関係者の派遣を見送り、オリンピックには東京大会の組織委員会の橋本聖子会長とJOCの山下泰裕会長、そしてパラリンピックにはJPCの森和之会長がそれぞれ出席すると述べている。事実上の外交的ボイコットだ。

   記者団から質問が浴びせられる。「アメリカなどが行う外交的ボイコットに当たるのか」と。これに対し、松野官房長官は「政府として日本からの出席の在り方について特定の名称を用いることは考えていない」と述べ、別の質問でも、「アメリカ政府も外交的ボイコットという言葉は用いていない」と答えていた。
 
   記者団から中国の人権問題を問われ、松野官房長官は「わが国としては国際社会における普遍的価値である、自由、基本的人権の尊重、法の支配が、中国でも保障されることが重要だと考えており、わが国の立場については、さまざまなレベルで中国側に直接働きかけている。オリンピック・パラリンピックは世界に勇気を与える平和・スポーツの祭典だ。北京冬季大会への日本政府の対応はこれらの点も総合的に勘案してみずから判断を行った」と述べていた。北京オリンピックを外交的にボイコットするまっとうな理由だろう。

   このニュースを海外メディアも伝えている。CNNニュースWeb版は「Japan says it won’t send government officials to Beijing 2022 Winter Olympics」との見出し=写真=で、官房長官による日本政府の方針を報じている。本文では、岸田総理は与党内で中国に対してより厳しい姿勢を取る圧力の高まりに直面しており、アメリカの緊密なパートナーであるが、アジアの隣国とも強い経済的関係を持つ日本にとってデリケートな問題だと日本メディアの論調として伝えている。また、韓国の中央日報Web版日本語も「中国の北京オリンピックに対する米国・英国などの『外交的ボイコット』が広がる中、日本もこれに加わった」と報道している。

   2024年夏にパリオリンピックを開催するフランスは外交的ボイコットには同調しないとし、韓国も検討しないとしている。来年は日中国交正常化50周年に当たるが、ようやく日本は中国に「No」を言える国になったのか。

⇒24日(金)夜・金沢の天気    くもり

★2021 バズった人、コト~その2

★2021 バズった人、コト~その2

       この一年でもっともバズった「人、コト」と言えば秋篠宮家の眞子さんの結婚問題ではないだろうか。眞子さんは10月26日に婚姻届を出し、同日午後2時から「小室眞子」として圭氏ともに記者会見に臨んだ。その様子をテレビで視聴していたが、二人が結婚の気持ちを述べた後、質疑応答の時間はなく会見は10分余りで終わった。メディア各社の報道によると、当初は二人が記者側が事前に提出した質問と関連質問を受ける予定だったが、前日になって急きょ、質疑応答には口頭で答えないことに変更に。事前質問は文書回答となった。これでは記者会見の意義がない。(※写真は、10月26日のNHK総合の記者会見の中継番組より)

    ~宮内庁が「誹謗中傷」と言い、国民が納税者意識をぶつけた結婚問題~ 

   宮内庁の説明では、文書回答とする理由について、事前質問の中に誤った情報が事実であるかのような印象を与えかねないものが含まれていることに眞子さんが強い衝撃を受け、強い不安を感じたため、医師とも相談して文書回答にすることを決めた。また、眞子さんは一時、会見を取りやめることも考えたが、ギリギリまで悩み、直接話したいという強い気持ちから、会見に臨んだという(10月26日付・NHKニュースWeb版)。宮内庁の説明に、メディアに対する恩着せがましさというものを感じた。それだったら、宮内庁は記者会見の中止を眞子さんに進言すべきではなかったのか。   

   二人の結婚の正式発表は、宮内庁が10月1日に会見で行っていた。そのとき、「眞子さまは、ご自身やご家族、それに小室さんとその家族への誹謗中傷と感じられる出来事が続いたことで、『複雑性PTSD』(=複雑性心的外傷後ストレス障害)と診断される状態になられている」と説明した。会見には医師も同席し、「結婚について周囲が温かく見守ることで回復が進むものと考えられる」などと述べた(10月2日付・同)。自身の認識不足かもしれいなが、このとき「誹謗中傷」という言葉を宮内庁が初めて使ったのではないだろうか。

   宮内庁はこの言葉を持ち出すタイミングを見計らっていた。と言うのも、9月16日に法務省は法制審議会に刑法の「侮辱罪」に懲役刑を導入する刑法改正を諮問している。現行「30日未満の拘留か1万円未満の科料」の法定刑を、「1年以下の懲役・禁固音または30万円以下の罰金」とする。厳罰化にともない、公訴時効も現行の1年から3年に延長する。公然と人を侮辱した行為に適用される侮辱罪の厳罰化が動き出していた。

   とくに、ネット上の誹謗中傷での対策が求められていて、法務省はことし4月、匿名の投稿者を迅速に特定できるように改正プロバイダー責任制限法を成立させ、裁判所が被害者からの申し立てを受けて、SNSなどプラットフォーム事業者に投稿者の氏名や住所などの情報開示を命じることができるようにするなど、侮辱罪の厳罰化について着々と準備を進めていた。法務省が厳罰化に乗り出したきっかけは、リアリティ番組『テラスハウス』(2020年5月19日放送)に出演していた女子プロレスラーがSNSの誹謗中傷を苦に自死した事件(同5月23日)だったといわれている。

   宮内庁は法務省の動きと連動して、眞子さんのPTSDの原因を誹謗中傷によるものとすることによって、SNSなどの批判意見を封じ込めようとした。眞子さんの結婚問題に異議や批判意見を唱える国民の声を「誹謗中傷」とみなして、宮内庁が「黙れ、訴えるぞ」と言っているようなものだ。これを機に、国民の皇室に対する目線や想いは複雑化し、そして先鋭化した。

   憲法第88条では「すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない」と定めている。令和3年度の皇族費の総額は2億6900万円(宮内庁公式ホームページより)だ。国民の皇室に対する気持ちが複雑化すると、国民の間では納税者意識が頭をもたげてきた。「皇室は血税で賄われている。だったら国民の声を素直に聞くべき」といったSNSなどでの書き込みが目立つようになった。

   きのう22日、皇位継承のあり方などを議論してきた政府の有識者会議が最終的な報告書をまとめた。皇位継承の議論は機が熟していないとしたうえで、皇族数を確保する方策として▽女性皇族が結婚後も皇室に残る案と▽旧皇族の男系男子を養子に迎える案の2つが盛り込まれた(12月22日付・同)。おそらく、国民の皇室への意識はますます複雑化し、そしてかけ離れていく。皇位継承のあり方よりも、皇室そもののあり方や存続について議論すべき時が来ているのではないか。眞子さんの結婚問題の波紋は大きい。

⇒23日(木)夜・金沢の天気      こさめ

☆2021 バズった人、コト~その1

☆2021 バズった人、コト~その1

  「人の噂(うわさ)も七十五日」という言葉はかつて使ったが最近は使わないし、聞くこともなくなった。時代が変わって、「人の噂」はネットやSNS、メールが本流になり、「バズる」という言葉が使われている。「バズってますね」などと自身もやりとりしている。ことしも残り9日。このブログで取り上げた話題を振り返る。題して「2021 バズった人、コト」。

          ~東京オリンピック、トヨタのテレビCMストップはなぜ~

  ことしはオリンピックイヤーだった。東京五輪(7月23日-8月8日)は地元石川県では何といっても、レスリング女子57㌔級の津幡町出身の川井梨沙子選手と、62㌔級の妹・友香子選手がともに金メダルを獲得したことが話題になった。地元紙は姉妹で「金」は日本勢初の快挙と讃えた。北國新聞は連日の特別紙面で「最強の姉 約束の金lと、本紙では「梨沙子連覇 川井姉妹そろって金」と。北陸中日新聞は「川井 姉妹で金 梨沙子連覇」とそれぞれ一面の通し見出しだった=写真=。東京オリンピックの日本勢で、姉妹による金メダルは初めてだったので、日本のオリンピックの歴史に新たなレジェンドをつくったのではないだろうか。     

   コロナ禍でのオリンピックの開催をめぐっては反対意見が盛り上がっていた。東京五輪の中止を求めるオンライン署名サイト「Change.org」の署名は45万筆を超えていた。署名の発信者は弁護士の宇都宮健児氏で、相手はIOCのバッハ会長だった。そして、強烈なメッセ-ジを発したのはトヨタだった。東京オリンピックの大口スポンサーでもあるが、新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない中での開催の是非について世論が割れていることを理由に、オリンピック関連のテレビCMをいっさい見送ると発表した。実際、五輪番組をテレビを見ていてもトヨタのCMを見ることはなかった。

   いまごろになって思うことだが、トヨタはなぜテレビCMを見送ったのだろうか。ワールドワイドな企業であるトヨタにとっては、オリンピックパートナーとしてメディアを通じてブランドイメージさらにアップさせるチャンスだった。そうした広告・ブランディング戦略にたけているはずだ。

   トヨタがCM中止を表明したのは開催4日前の7月19日だった。テレビと新聞による五輪開催へのマイナスな論調を見極めての決定だったのだろう。おそらく、この批判的な論調が開催期間中も続き、そうした論調のマスメディアにCMを出すのは企業にとってマイナスイメージとなると判断したのではないだろうか。ところが、オリンピックが始まると、開催に疑念を呈していたテレビも新聞もまるで「手のひら返し」をしたかのように、「ガンバレ日本」と選手たちの活躍を中心に報道を繰り広げた。トヨタはマスメディアの動向を見誤った。

   コロナ禍でのオリンピックは是か非かという論調は読者や視聴者に分かりやすいので、先頭だってマスメディアはそうした話題を提供する。身を張って五輪を阻止するというスタンスはもともとない。だから、オリンピックが始まってしまえば、マスメディアは五輪一色になる。別の視点から見れば、トヨタは「トヨタイムズ」という、タレントの香川照之が編集長となった自社メディアをホームページや「YouTubeチャンネル」で展開している。マスメディアの動向を観察しながら、自社メディアをどうカタチづくるか試行錯誤しているようだ。

   オリンピック競技を17日間視聴して、印象に残っているのはもちろんアスリートたちの姿だが、番組での解説やコメントなどスタジオのバックで流れていた桑田佳祐の『波乗りジョニー』だった。オリンピック競技場の無観客の状態は当初さみしいとも感じたが、毎日違和感なく視聴できたのもこの曲の高揚感のおかげだったのかもしれない。

⇒22日(水)夜・金沢の天気     くもり

☆横行するフィッシング詐欺メール

☆横行するフィッシング詐欺メール

   このところパソコンに金融機関などを装ったEメールが頻繁に届く。金融機関とは全く関係のないページに誘導し、暗証番号などを入力させることにより個人情報を不正に取得するという、いわゆる「フィッシング詐欺」のメール。「VISAカード」や「三井住友カード」など多くの人が持っていそうなカード名を使っていて、キャッシュレス社会に対応した詐欺だ。

   きょうのEメールで「VISAカード 重要なお知らせ」が届いた=写真=。「VISAカード利用いただき、ありがとうございます。このたび、ご本人様のご利用かどうかを確認させていただきたいお取引がありましたので、誠に勝手ながら、カードのご利用を一部制限させていただき、ご連絡させていただきました」と。さらに、「ご回答をいただけない場合、カードのご利用制限が継続されることもございますので、予めご了承下さい」。お願いと脅しの文言を織りまぜて、暗証番号などを入力させる魂胆だ。手が込んでいる。

   ショートメールでは一時期、宅配業者を装った詐欺メールがよく届いた。スマホのSMSに「お荷物のお届けにあがりましたが不在のため持ち帰りました。ご確認ください」と、宅配業者の不在通知のようなショートメールが届いた。これも実に巧妙だった。荷物を送る際は送り先の電話番号を記すので、不在の場合はスマホにショートメールが入っていても違和感がない。この盲点をついた詐欺メールだ。「スミッシング詐欺」とも呼ばれている。

   県内に住む知人はスミッシング詐欺に引っかかった。ある携帯キャリアから、「ご利用中のキャリア決済が不正利用されています。至急こちらのURLから確認してください」とのメールがスマホに届いた。メールにあったURLからサイトを開き、IDとパスワードを入力した。たまたまその様子を見ていた家族から指摘を受けて、携帯キャリアのショップに行きパスワードを変更して難を免れた。

   あの手この手でEメールやSMSに詐欺メールが相次ぐ背景にはキャッシュレス決済が多様化、複雑化していることがあるのではないか。とくに、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった昨年4月7日に東京、神奈川、埼玉など7都府県に緊急事態宣言が初めて出され、緊張感が高まった。他人も触れる現金(紙幣・硬貨)を手にすることに警戒感が増し、シニア世代もキャッシュレス決済へと動いた。そのことからさらにキャッシュレス決済にからむ犯罪やトラブルが増加した。シニア世代は焦りや危機感で、つい次の行動に出てしまうものだ。自戒の念を込めたい。

⇒20日(土)夜・金沢の天気       くもり

★「ブリ起こし」の雷鳴とどろく 北陸に冬の訪れ

★「ブリ起こし」の雷鳴とどろく 北陸に冬の訪れ

   きのう(11日)から雷鳴がとどろいている。北陸ではこの時節の雷を「雪出し」や「ブリ起こし」などと言う。いよいよ冬の訪れである。とくに金沢は雷が多い。気象庁の雷日数(雷を観測した日の合計)の平年値(1991-2020年)によると、全国で年間の雷日数がもっとも多いは金沢の45.1日だ。雷がとどろけば、落雷も発生する。石川県の消防防災年報によると、県内の落雷による火災発生件数は年4、5件だが、多い年(2002年)で12件も発生している。とくに12月から1月の冬場に集中する。

   雷が人々の恐怖心を煽るのはその音だけではなく、落雷はどこに落ちるか予想がつかないという点だ。これが怖いので、自身のパソコンは常に雷ガードのコンセントを使用している。雷が直接落ちなくても、近くで落ちた場合でも「雷サージ」と呼ばれる現象が広範囲に起きる。いわゆる電気の津波だ。この雷サージがパソコンの電源ケーブルから機器内に侵入した場合、部品やデータを破壊することになる。いわゆる「雷害」からパソコンを守るためにガードコンセントは不可欠なのだ。このコンセントは金沢市に本社があるメーカーが製造したもの。北陸で雷害のケースと実情を研究し耐雷対策に取り組んできた企業の製品なので信頼を寄せている。

   落雷から自宅を守るために金沢では避雷針を付けている家庭が多い。ただ厄介なのは、雷は空から地上に落ちる際、まれに横から落ちてくるケースもある。2018年1月に金沢のテレビ局の送信鉄塔で落雷による火災が発生し、石川県内の一部地域を除く38万世帯で15時間も電波が止まるという放送事故があった。鉄塔にはてっぺんに避雷針は設置されていたが、雷が横から落ちて、鉄塔内で気中放電(スパ-ク)が発生、ケーブルが発火して電波が停止した。

   ところが、落雷があった送信鉄塔の近くには別のテレビ局の送信鉄塔があったが、ここには落雷はなかった。同じ域内にあるテレビ鉄塔で落雷があった、なかったの違いはどこにあったのか。業界関係者から聞いた話だが、落雷がなかった鉄塔には「消雷装置」が設置されていたのだという。「消雷装置」は初めて聞いた言葉だった。電気を通さない数十㌢の特殊なガラス管を避雷針に設置し、雷の原因となる大気中の電子の移動を打ち消す装置。金沢工業大学の教授が開発し、実証実験を経て製品化されている。雷ガードのコンセントにしても、消雷装置にしても「必要は発明の母」である。

   雷だけでなく、金沢は年間を通して雨の日が多く、年間の降水日数は170日余りと全国でもトップクラスだ(総務省「統計でみる都道府県のすがた」) 。天気も変わりやすく、朝晴れていても、午後には雨、ときには雷雨もある。そのような気象の特徴から 金沢では「弁当忘れても傘忘れるな」という言葉がある。「必要は言葉の母」でもある。ただ、新型コロナウイルス感染が続くこのご時世では「弁当忘れてもマスク忘れるな」かもしれないが。

(※写真は、北陸電力公式ホームページ「雷情報」より)

⇒12日(金)午後・金沢の天気    あめ

☆「カニの宿」漁業6次化 北陸のトップランナーは

☆「カニの宿」漁業6次化 北陸のトップランナーは

   前回のブログで福井県民のカニへの愛着の話を書いた。すると、ブログを読んでくれた金沢の知人から、「愛着だけじゃない、カニビジネスも石川よりずっと進んでいる。漁業の6次化では北陸ではダントツだよ。6日付の日経を参考に」とメールが届いた。

   そこで日経をチェックする。「漁業『6次化」で価値創造」の大きな一面見出しで特集「データで読む 地域再生」が組まれていた。記事によると、消費者の「魚離れ」や資源減少などで漁業算出額が減少している中、1次産業の漁業者が「捕ったものを売る」から「売れるものを創る」へと転換し、いわゆる漁業の6次産業化を進める動きが進んでいるというのだ。北陸経済面にその6次化は「北信越    福井県1位」との見出しで詳細な内容が紹介されている。

   以下、本文からの引用。福井県は漁業者の6次化が19.9%と高い。そのベースは漁師が経営する民宿が県内に350件以上あることだ。これは県内の漁師の4人に1人が民宿を経営していることになる。「漁師の宿」ではカニやフグ、カワハギなどの魚料理を提供している。県行政はPRだけでなく、古くなった宿の補修なども支援している。北信越の漁業の6次化は福井に次いで石川12.2%、新潟11.1%、富山2.9%と続く(出所:農林水産省)。

   確かに、かつて福井の漁港近くを歩いたことがあるが。「カニの宿」の看板が目立つ。料理も「ゆで・焼き・刺し・鍋」といった様々な料理が味わえると看板が出ていた。漁業はしけなど天候などに左右されやすい。そこで、メインのカニなどを食材に民宿や直営食堂、加工品を手掛けることで、安定的な収入を得ることができる。こうしたサービス産業に進出することで、逆に消費者のニーズを捉えることができる。6次化の2番目は石川。能登半島の富来漁港では、漁師たちが経営する回転ずしが人気だ。

   「板子一枚、下は地獄」と言われるように、漁業は常に危険が伴う労働環境だ。そのため、日本でも慢性的な人手不足に陥っている。そのリスクを分散するために6次化への道を急いでいる。北陸では福井が「カニの宿」「漁師の宿」をフラッグに掲げてトップランナーを走る。越前ガニのブランドは強し。(※写真は「福井県観光連盟」ホームページより)

⇒9日(火)夜・金沢の天気     くもり時々あめ

★「カニ見十年、カニ炊き一生」のエピソード

★「カニ見十年、カニ炊き一生」のエピソード

   前回のブログで書いたカニの話の続き。ズワイガニにはご当地の呼び方があって、島根など山陰地方では松葉ガニ、福井では越前ガニと呼ぶ。石川では「加能(かのう)ガニ」と称している。加能とは、加賀と能登の略称で、加賀と能登の沖合で獲れたズワイガニという意味だ。カニには「加能ガニ」の青いタグが付けられ、タグには「輪島港」など水揚げ地も記されている=写真、7日に近江町市場で=。

   カニを食べると寡黙になる、とよく言われる。にぎやかな会食の場もカニが出て来ると、なぜか皆がカニ食べることに集中して静かになるものだ。カニの脚を関節近くで折り、身を吸って出す。会食の場はパキパキ、ズーズーと音だけが聞こえる。ただ、食べる姿はまるでカニとの格闘のようにも思える。これを外国人が見たらどう思うだろうか。「おいしいもの食べているのに、なぜ寡黙なのか、そして闘争心を燃やしているのか。やはり日本人は不思議」と感じるのではないか。

   さらに深堀りする。自身は北陸出身なので、カニとは幼い頃から格闘してきた。東京や大阪、名古屋などの出身者はカニとの縁が薄いせいか、会食するとその「初心者ぶり」が分かる。まず、食べ方が慣れないせいか、「カニは好きだが食べにくい」「身をほじり出すのが面倒だ」という話になる。料理屋で出されたカニには包丁が入っていて、すでに食べやすくしてある。これを「食べにくい」と言っている。初心者ぶりがその言葉から見える。

   そんなカニの宴席でつい話してしまうのが、「カニ食い競争」のエピソードだ。「私の友人で丸ごと一匹を5分間で食べる名人がいるんです」と。ずっと以前の話だ。福井市内の居酒屋で包丁が入っていない越前カニを福井の友人とそれぞれ食べた。意識したわけではないが、お互いがその食べ方を見合っていると、いつの間にか福井と石川のカニ食い競争の様相になってきた。パキパキと脚を折り、ズボッと身を口で一気に吸い込み、カシャカシャと箸で甲羅の身を剥がす。福井の彼はタイムで言えば5分間で食べた。そのとき、自身はまだ甲羅に手をかけた状態で、食べ上げるのに7分近くかかった。さすが越前ガニの本場の人はカニを食べ慣れていると妙に感服した、という話だ。

   福井の人々のカニに対する執着心は、石川では考えられないほど強い。福井では「カニ見十年、カニ炊き一生」という言葉がある。カニ料理のポイントは塩加減や茹で加減と言われる。単に茹でてカニが赤くなればよいのではない。カニの目利きが上手にできるには十年かかり、カニを満足に茹で上げるには一生かかるという意味だそうだ。さらに驚くのは、独特の技術を持っている。金沢の近江町市場などでは、脚の折れたカニは商品価値が低く、「わけあり商品」の部類に入っている。ところが、福井の漁協では、水揚げした段階で折れたカニの脚を集めて、脚折れカニに接合するプロがいる。カニという商品をそれだけ大切に扱っているという証(あかし)でもある。

   前述の福井の友人はカニを堪能し、地酒をこころゆくまで飲んで、最後にそばを食べて仕上げる。カニとそばの食文化は越前の人にはかなわない、と思っている。

⇒8日(月)夜・金沢の天気       くもり

☆カニ、雪吊り、紅葉 金沢の立冬の風景

☆カニ、雪吊り、紅葉 金沢の立冬の風景

   きょうは二十四節気の「立冬」にあたる。冬の気配が山や里だけでなく、街にも感じられるころだ。ただ、金沢は快晴で気温も昼過ぎには20度近くあった。それでも、金沢の街の景色は着実に冬に向かっている。

   きのう(6日)冬の味覚、ズワイガニの漁が解禁された。けさの地元紙の朝刊一面を飾っていたのが「最高級の加能ガニ初物 『輝』1号 500万円」(北國新聞)や「加能ガニ 最高級ブランド デビュー 金沢の初競り、ギネス記録並ぶ」と派手な見出しだ。それぞれに写真も大きく掲載されている。オスのズワイガニは鳥取では「松葉ガニ」、福井では「越前ガニ」、石川では「加能ガニ」と称され、地域ブランドのシンボルにもなっている。ただ、石川の加能ガニの知名度はいま一つ。そこで県漁業協同組合では重さ1.5㌔以上、甲羅の幅14.5㌢以上、甲羅が硬く身が詰まっているものをことしから最高級品「輝(かがやき)」として認定することで全体の底上げを狙っている。その「輝」の第一号が昨夜の初競りで500万円の値がついた。記事によると、重さ1.88㌔、甲羅の幅15.6㌢だった。

   ちなみに、松葉ガニの最高級ブランド「五輝星(いつきぼし)」は2019年に500万円で落札され、ギネスの世界記録にも認定されている。上記の「ギネス記録並ぶ」の意味はそれと同額で並んだとの意味だ。きょう午後、金沢市民の台所、近江町市場に行ってきた。店頭に並ぶカニは庶民の食卓に上るものだ。それでも、1匹7万5000円の値札のものが数匹並んでいた=写真・上=。店員が「輝の一歩手前のヤツですがどうですか」と声をかけきた。よく見ると、値札には重さが1.4㌔、甲羅の幅14.5㌢と書かれている。甲羅の幅はセーフだが、体重が100㌘足りないため、「輝」の認定には漏れたようだ。それでも1匹7万5000円は庶民にとっては高根の花だ。県内のズワイガニの漁期は、メスの香箱ガニが12月29日まで、オスの加能ガニは来年3月20日まで。いまは「ご祝儀相場」もあるだろうから、もう少し値段が落ち着いてから買い求めることにした。

   近江町市場からの帰りに兼六園近くを車で通った。コロナ禍も収まりつつあり、日曜日ということで観光客でかなりのにぎわいだった。とくに、金沢21世紀美術館と交差点の対角線上に位置する真弓坂口は混雑していた。入り口の左右のマツの木に雪吊りが施されている=写真・中=。

   金沢の雪はさらさら感のパウダースノーではなく、湿っていて重い。このため、庭木に雪が積もると「雪圧」「雪倒」「雪折れ」「雪曲」といった雪害が起きる。金沢の庭師は樹木の姿を見て、「雪吊り」「雪棚」「雪囲い」の雪害対策の判断をする。この季節にテレビのニュースで放映される雪吊りは「りんご吊り」という作業だ。五葉松などの高木に施される。松の幹の横にモウソウチクの柱を立てて、柱の先頭から縄を17本たらして枝を吊る。パラソル状になっているところが、アートでもある。兼六園の800ヵ所で雪吊りが施される。

   ついでに、兼六園近くの紅葉の名所も走行した。金沢市役所近くにある「しいのき迎賓館」(旧県庁)と「四高記念館」に挟まれた通りで、「アメリカ楓(ふう)通り」と呼ばれている=写真・下=。紅葉が青空に映えてこの季節の人気スポットだ。樹木のアメリカ楓は別名で、正式には「モミジバフウ」。原産地がアメリカだったことからアメリカ楓と呼ばれている。空を見上げると赤と青のコントラスが目に映える。そして、下の道路を見ると落ち葉がたまっている。まもなく始まる道路の落ち葉かきがアメリカ楓通りの冬支度でもある。

⇒7日(日)夜・金沢の天気      はれ

★名残惜しむ「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~下~

★名残惜しむ「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~下~

   「奥能登国際芸術祭2020+」はきのう5日で63日間の会期を終了した。芸術祭実行委員会のまとめによると、来場者は4万8973人(速報値)だった。新型コロナウイルスのパンデミックで開催が1年延期され、さらに石川県にはまん延防止等重点措置が出され、開会の9月4日から30日までは原則として屋外の作品のみの公開だった。さらに、9月16日には震度5弱の地震に見舞われた。幸い人や作品へ影響はなかったものの多難な幕開けだった。後半の10月以降は屋内外の作品が公開され、24日までの会期が11月5日まで延長となった。

    アートもSDGsも「ごちゃまぜ」 風通しのよさが地域を創る

   芸術祭のほかに珠洲市は、SDGsの取り組みにも熱心だ。内閣府が認定する「SDGs未来都市」に名乗りを上げ、2018年6月に採択された。同市の提案「能登の尖端“未来都市”への挑戦」はSDGsが社会課題の解決目標として掲げる「誰一人取り残さない」という考え方をベースとしている。少子高齢化が進み、地域の課題が顕著になる中、同市ではこの考え方こそが丁寧な地域づくり、そして地方創生に必要であると賛同して、内閣府に応募した。

   採択された後、同市は「能登SDGsラボ」を開設した。市民や企業の参加を得て、経済・社会・環境の3つの側面の課題を解決しながら、統合的な取り組みで相乗効果と好循環を生み出す工夫を重ねるというもの。簡単に言えば、経済・社会・環境をミックス(=ごちゃまぜ)しながら手厚い地域づくりをしていく。そのために、金沢大学、国連大学サスティナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわ・オペレーティングユニット(OUIK)、石川県立大学、石川県産業創出支援機構(ISICO)、地元の経済界や環境団体(NPOなど)、地域づくり団体などがラボに参画している。

   こうしたごちゃまぜの風通しのよさは行政や地域の経済人、それに地域の人々と触れることで感じることができる。ことし6月に東証一部上場の「アステナHD」が本社機能の一部を同市に移転したものその雰囲気を経営者が察知したことがきっかだった。そして、社会動態も好転している。今年度の上半期(4-9月)は転入が131人、転出が120人と転入がプラスに転じた。多くが若い移住者だ。

   芸術祭実行委員長である珠洲市長の泉谷満寿裕氏は「芸術祭は『さいはて』の珠洲から人の時代を流れを変える運動であり、芸術祭とともに新たな動きを産み出していきたい」ときのうの閉会式で述べていた。能登半島の尖端のこうした動きこそアートだと感じている。(※写真は『私たちの乗りもの(アース・スタンピング・マシーン)』フェルナンド・フォグリ氏=ウルグアイ)

⇒6日(土)夜・金沢の天気     はれ

☆名残惜しむ「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~上~

☆名残惜しむ「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~上~

   能登半島の尖端、珠洲市で開催されている奥能登国際芸術祭(9月4日-11月5日)の最終日に鑑賞してきた。名残惜しさと芸術の秋が相まって楽しむことができた。

   代々の生活がにじむアート

   芸術祭で8組のアーティストが作品を創作しているのがスズ・シアター・ミュージアム「光の方舟」。日本海を見下ろす高台の旧小学校の体育館を活用している。その入口にこれも作品かと思うほどに人目をひくのが樹木だ。強風に吹かれて曲がっているのだ=写真・上=。能登の厳しい自然環境を感じさせる。

   このミュージアムのコンセプトは「大蔵ざらえプロジェクト」。珠洲は古来より農業や漁業、商いが盛んだったが、道具や用具=写真・中=などは時代とともに使われる機会が減り、多くが家の蔵や納屋に眠ったまま忘れ去れていた。市民の協力を得て蔵ざらえしたこれらの道具や用具を用いて、アーティストと専門家が関わり、民族博物館と劇場が一体化したシアター・ミュージアムが創られた。芸術祭終了後も常設施設として残される。   

   市内の旧家もアートの展示会場になっている。古民家の家財道具を寄せ集め、天井から生える木のように見せる作品「いえの木」=写真・下=。金沢美術工芸大学アートプロジェクトチーム「スズプロ」が制作した。作品をよく見ると、旧式の扇風機やテレビに混じって「小作米領収帳」が見えた。その土地で何代にも渡り生きてきた人々の生活がにじみでている。

   美大の学生たちは一年を通して珠洲の祭りや伝統行事に参加しながら地域交流を深め、地道なフィールドワークを行っている。日本海を見渡すこの地で、奥能登でしか表現し得ないアートとは何か、実に壮大なテーマではある。

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