⇒トピック往来

☆秋と冬のスクランブル

☆秋と冬のスクランブル

  きのう(3日)、金沢では午前3時前にみぞれがあり、輪島では午前7時ごろに雪が降ったと金沢地方気象台が発表した。これが石川県地方の初雪となった。積雪はなく、平年より6日遅い初雪だ。

   ところがきょう(4日)は左の写真のように一転して青空が広がった。北陸特有の「猫の目天気」、くるくると気圧配置が変わり天候は一定しない。それにしても、天を突く雪つりの風景が青空に映えて、アートの輝きを放っている。

   天気も行き交っているが、季節も交錯している。下の写真は金沢大学の回廊から見える遅い紅葉の風景だ。季節が紅葉を追い立てるかのように風も吹き、雨も降るが、木々の方はゆっくりと紅葉を楽しんでいるかのようだ。秋と冬のスクルンブル、初冬の金沢の風景である。

⇒4日(日)午前・金沢の天気   はれ

☆雪つりの値打ち

☆雪つりの値打ち

  北陸にいよいよ寒波がやってきた。金沢の冬の風情と言えば「雪つり」だ。市民も兼六園や街路樹で雪つりが始まると冬の訪れを実感するのではないだろうか。

  この雪つりは自分でやるとなると結構技術がいる。造園業者に任せると金がかかる。暖冬が続き雪が降らないと、「庭税」のように忌々しく思えてきて、風情を楽しむどころではない。

  ところが、2004年の冬のように、50㌢を超す大雪となると、が然と雪つりはその威力を発揮する。上の写真は雪つりが施されたもの。同じ場所での下の写真をご覧いただければ分かるように、こんなに雪が積もると、何代にもわたって育ててきた五葉松(東日本では姫小松とも呼ぶ)も枝が折れてしまう。何しろ金沢の雪はパウダースノーではなく、たっぷりと湿気を含んだベタ雪なので重い。松の枝を一本一本支えている縄のおかげで、枝が折れずに済んでいる。

  「庭税だ」云々と言ってはみても、ドカ雪がやってくるか予想できないから雪つりはやめられない。金沢に住んでいる以上は仕方がない。これはもうスタッドレスタイヤやスコップと同じように「雪国の住民税」と考えるしかないのである。

  でも、こうして写真を眺めていると、金沢の先人の知恵というものが伝わってくる。一説にリンゴつりの応用で兼六園で使われた手法が広く伝わったともいわれるが、雪つりのルーツについては定かではない。

  ともあれ、ことしの冬は雪つりの値打ちを実感できるほど雪が降るのか、あるいは「庭税」と思ってしまうのか。

⇒30日(水)朝・金沢の天気   あめ

★松井、NYの存在感

★松井、NYの存在感

  日本のどんな小さなローカル局でも、アメリカ大リーグ(MLB)の映像を使おうとするとシーズン契約の映像使用料として150万円以上は覚悟しなければならない。これが日本全体のテレビ放映権料となると330億円にも積み上がる。そして、ヤンキースタジアムには建設機械メーカー「コマツ」など日本企業の広告が目立つ。こうした経済効果はニューヨークに拠点を構える松井秀喜選手の影響が大きいのは言うまでもない。

   ここ数日、テレビも新聞もヤンキースと4年で総額5200万㌦(61億8800万円)で再契約した松井選手の話題で持ちきりだ。16日、ヤンキースタジアムでの記者会見に日米70人もの報道陣が詰めかけた。会見内容を報じた新聞記事によると、会見に同席したブライアン・キャッシュマン・ゼネラルマネジャー(GM)は「彼は、チームの勝利に貢献するだけではない。日本からの関心を呼んで、ビジネス面でもニューヨークに貢献した」と好条件で契約した理由を述べた。要は、多大なジャパンマネーをもたらしてくれる松井選手を4年間囲い込んだ、と説明したようなものだ。

   およそ100年前、同じニューヨークで存在感をアピールした、松井選手と同じ北陸ゆかりの人物を思い浮かべる。高峰譲吉博士だ。加賀藩典医の長男として生まれ、長崎をへてイギリスに留学、1890年 に渡米した。高峰博士は世界の常備薬ともいえる「タカジア-スタゼ胃腸薬」の発明者であり、アドレナリン(副腎髄質ホルモン)の発見者として知られる。

   ただの化学者ではなかった。世界的な発明と発見で財を成した高峰博士は1905年、ニューヨークに日本人クラブを創設して初代会長に。外交官的なセンスも持っていて、当時のウィリアム・タフト大統領の夫人がポトマック川に桜の植樹をする計画を公表したのを知り、東京市長(尾崎行雄)から桜の苗木3000本を贈ってもらい、自らニューヨークで桜の植樹運動の中心となった。その桜が育ち、今では、全米各地の「桜の女王」が集いフェスティバルが開かれるなど日米親善のシンボルとなっている。

   いまの松井選手の業績は高峰博士に届いているか。否である。ヤンキース在籍3年間の成績は487試合に出場し、70本塁打、330打点、打率2割9分7厘をマークしているが、物足りない。しかも、上記のGMのコメントのように、彼の球団での存在意義は日本人と日本企業がもたらす経済効果によるものなのだ。自らのバットでワールドシリーズ制覇という金字塔を打ち立てなければ確たる存在感は示せない。それを実現して日米野球のシンボルとなれ、と。応援したい。

⇒18日(金)朝・金沢の天気  くもり

★ウォームビスと「青いドレス」

★ウォームビスと「青いドレス」

   ウォームビズの実践を始めた。郊外の丘陵にある金沢大学ではこの春、築280年の古民家を再生し、ここで勤務する我々はなるべく省エネや化石燃料を使わない生活様式を工夫している。この夏は扇風機で十分しのぐことができた。土間が天然のクラーラーになった。そして北陸の冬。体感温度は金沢の街より1度か2度低い。そこでセーターや厚手のズボンを早々と着込んだ。しかし、冬本番はこれからである。折に触れて、ウォームビスの実践記はこのコラムで報告したい。

                 ◇

   11月2日付の「ショート・ショートな話」では、第三次小泉改造内閣の認証式で少子化の担当になった猪口邦子氏の「青いドレス」を話題にした。なぜ「青」だったのかという理由が、「小泉内閣メールマガジン」(10日配信)で分かった。以下、本人の弁である。「・・・長い不況のトンネルの先に見える青い空。小泉構造改革とは、苦労の多いプロセスを一歩一歩推し進めながら、経済のグローバル化という世界共通の試練のなかで、日本が再び青空に出会えるようにするためのものと改めて思い、その閣僚チームに入る喜びがこみ上げてきました。改造内閣発足では、新任の閣僚は皇居にて認証式に臨みますが、そのときの直感で、礼服の色は青空の色!と思ったのです。」

   回りくどい言い方ではある。アメリカやヨーロッパでは青色は公式な場では認められた色だ。亡きダイアナ妃は青のドレスが一番似合っていた。国連の軍縮大使などで活躍しレセプションを数多くこなした猪口氏にとっては青の礼服は常識なのである。おそらく青は好きな色でもあるのだろう。だから、「突然の指名」でとっておきの青のドレスをとっさに選んだ。しかし、認証式では周囲に「黒」が多く、ちょっと浮いて見えたというだけの話である。

   ただ、ドレスの広がりがちょっと目立つ仕立てだったので、とくに、こうして並んで立つとステージ上の「オペラ歌手」にも見えたということだ。マスメディアが騒ぐ話ではない。

 ⇒12日(土)朝・金沢の天気   くもり

☆ショート、ショートな話

☆ショート、ショートな話

  最近街角で拾った、ちょっとした話を続けて。題して、「ショート、ショートな話」ー。

   石川県能登半島にある旅館のご主人の話。この人は地元で「キノコ採りの名人」として知られる。そのご主人が言うには、秋になって山に入ると、同じ石川県でも遠く離れた加賀地方の人たちがジネンジョ(山芋)を掘りに来ている。先日、「なぜわざわざ奥能登に」と尋ねると、小松市から来たという人は「小松の山は最近クマやイノシシが出るんですわ。能登の山はクマが出ないので安心して…」と。

    第三次小泉改造内閣が発足した翌日のきのう、通勤バスの中で耳にはさんだ話。前の席で女子大生2人がおしゃべりしている。(A子)「猪口邦子って人、知ってた」、(B子)「ソレ何っ」、(A子)「新しい内閣で少子化の担当の大臣になった女の人」、(B子)「・・・?」、(A子)「その人、小泉さんと並んで記念写真を撮ってたんだけど、青いドレス来て、なんかオペラ歌手みたいで、浮いとったよ」、(B子)「オペラ歌手?」、(A子)「・・・!」 

    毎日新聞北陸版で金沢医療センター(旧国立金沢病院)の吉村光弘医師(内科)が書いている医療コラムを楽しみにしている。10月18日付の出だしで、「中世のヨーロッパでは散髪屋さんが使い慣れた刃物で皮膚のできものを切開して膿(うみ)を出していた。理髪店のくるくると回転する筒状の看板はそのなごりで、赤が動脈、青が静脈、白はリンパ(あるいは包帯)を表している。」と。納得というより、ちょっとリアリティーのある話だ。

    季節はちょっとずれるが、ヒガンバナ(彼岸花)は割と好きな花だ。植物に詳しい友人はこんな話をしてくれた。ヒガンバナは茎にアルカロイド(リコリン)という毒性がある。昔の人は死体を焼かずに埋葬した。そして、犬が近づいて掘り返さないようにと毒性のあるヒガンバナを周囲に植えたのだという。犬よけの花、知らなかった、こんな話…。

 ⇒2日(水)朝・金沢の天気   はれ   

★「ネット選挙」の読み方

★「ネット選挙」の読み方

  この政治家のブログは実に分かりやすい。世耕弘成・参議員のことである。この人との面識はない。ただ、ブログの書き方がいかにも誠実で、信頼がおける。時々ブログ「世耕日記」をのぞくと、珍しい鉱物の原石にでもめぐりあったような発見がある。

  以下、世耕氏のブログの10月26日付の抜粋である。「…選挙制度調査会へ移動。鳩山邦夫会長からインターネットを使った選挙運動に関するワーキングチームの設立について諮られ、了承。私が座長を務めることになった。いよいよ自民党として本格的な選挙運動でのネット解禁検討に入ることになる。・・・」

   9月14日に最高裁が判断した「在外選挙権訴訟」の違憲判決を受けて、2007年の参院選では、インターネットの選挙利用が解禁になる見通し。自民党はすでに最高裁判決前の9月9日の党選挙制度調査会で「選挙におけるインタ-ネット利用に関する小委員会」(仮称)の設置を決めている。また、民主党も以前からインターネットの選挙利用解禁に積極的で、早ければ来年の通常国会にも公選法改正案が議員立法で提出される。07年夏の参院選は「ネット選挙」あるいは「ブログ選挙」となることは想像に難くない。

    前述の世耕氏のブログは、「ネット選挙」のかなり具体的なところまで話が進んでいることを窺わせる。そして、自民党の選挙制度調査会ですでにワーキングチームがつくられ、その座長に世耕氏が就任したこと自体が興味深い。彼は先の総選挙では自民党の広報本部長代理として「コミュニケーション戦略チーム」を率いた、メディア対策の中心人物だ。その彼が注目されたのは、選挙公示前の8月25日にメールマガジンの発行者やブログのユーザー(ブロガー)33人と党幹部との懇親会を開いたことだった。新聞やテレビの既存メディアと同等に、ブロガーにも政党幹部との懇談の場を設けた。これは画期的だった。彼の視野にはインターネットはすでにメディアであるという位置づけができているのだ。

    世耕氏はその柔軟な発想で07年参院選の「切り込み隊長」になるのは間違いない。その切り込みの「武器」がインターネットであり、ブログなのだ。きのう第三次小泉改造内閣が発足した。この顔ぶれを見ると、大方の予想では、「次ぎ」は安倍晋三だ。「党の新しい顔」と「新しい選挙対策の顔」がそれぞれ見えてきた。次回の国政選挙をこのような筋目で読んでみるもの面白い。

 ⇒1日(火)朝・金沢の天気   はれ

☆人生7掛け、地球8分の1

☆人生7掛け、地球8分の1

   「人生7掛け、地球8分の1ですよ」。先日、金沢市内のある上場企業の会長と懇談のチャンスに恵まれた。会長との会話で印象に残ったのが、この言葉だった。医療や情報社会の進化で今の50歳は昔で言えば35歳、そして航空網の発達で地球は8分の1ほどのスケールになった。いわば人生と移動空間のダウンサイジングとでも…。会長の言葉はそれ以降ちゃっかりと使わさせてもらっている。

   この8分の1になった地球の限りある資源の争奪戦のあおりで、石油は高騰し、鉄骨など資材などもジワリと相場が上がっている。先日、オヤっと思わせる新聞記事があった。中国・上海で電線やマンホールのふたなど金属の盗難が頻発していて、公共のインフラに大きな障害を与えているという内容だ。もっと詳しく読むと、盗難被害は変圧器や街路灯、送電用の鉄塔、公衆電話ボックス、ガードレール、道路標識、電話ケーブルなど。電話ケーブルが100㍍盗まれて1000戸の電話が不通になり、あるマンションでは103箇所の消火栓の金属部分がはがされた。上海市ではこうした被害がことし666件も発生している、と。おそらく金属盗難は上海市に限ったことではなく、中国各地で発生している社会現象に違いない。

    それだけ中国では建設ラッシュで金属需給がひっ迫していて、逆に言えば高く売れるのである。意地悪な言い方をすれば、「タコが自分の足を食べている」ような光景を思い出す。日本でも数年前の「どん底」経済のとき、農家の野菜や果物が大量盗難に遭うといったニュースが載ったから、笑えない。

    最近、地球検索ブラウザ「グーグル・アース」が面白い。アメリカのグーグル社が無料で提供している衛星写真を合成した地理検索システム。画面表示された地球をゆっくり回すこともできる。これをプロジェクターで大写しにすると、まるで宇宙から地球を眺めているような気分になり、癒される。そして、地球上で繰り広げられる人間の理不尽な行いを思うと、情けなくなり涙が出てくることもある。

⇒26日(水)朝・金沢の天気   くもり   

☆アケビの開いた口

☆アケビの開いた口

   金沢大学の角間丘陵の谷あいに角間川が流れていて、川に沿って幅2㍍ほどの遊歩道がある。散歩がてらブラブラ歩いていると、アケビが口を開けているのを見つけた。真ん中の白いタネの部分を取り出し、しばらく口に含んで飲み込む。トロリとして甘い。幼いころ、病気で臥(ふ)せっていると、母親が片栗粉にお湯と砂糖を入れて溶いたものを飲ませてくれた。その時の食感を思い出した。

                     ◇

   友人たちとの忌憚(きたん)のない議論の中で最近「参院はもういらん」というテーマが出てくるようになった。9月11日の総選挙で連立与党が3分2以上を占め、たとえ参院で与党案が否決されても、その数で衆院単独でも法案を通すことができるからだ。参院無用論はこれだけではない。良識の府であるべき参院が、「特定の業界・団体のダミーと化しているのでは…」と皆が疑問を持ち始めているからだ。

    けさの新聞各紙でそのことを考えさせる記事が載った。特定郵便局長のOBらでつくる政治団体「大樹」が20日、都道府県支部長会議を開き、2007年の参院選では旧郵政省出身者などの独自候補を擁立することを確認した、という。郵政民営化法案が衆参で可決したにもかかわらず、法案に反対した現職議員をあくまで支持し、来る参院選では独自候補を擁立すると気勢を上げた。

    実際、大樹会の集票力は群を抜く。今回の衆院選で、民営化反対の旗頭・綿貫民輔氏(富山3区)は自民党候補に2万票の差をつけ再選を果たした。その原動力となったのは「大樹会」富山県本部だ。会員2600人。特定郵便局は、明治政府が郵便制度を創設した際、地域の名士や資産家に業務委託したのが始まりで、県内の郵便局297局のうち特定局は192局と6割を占める。選挙になると、いまでも地域の名士である会員が地縁血縁の幅広い裾野をフルに活用し票を集める。

   しかし、富山の友人はこう嘆く。「綿貫さんが勝ったのはこれまでの功績があったからこそ。ところが、富山が郵政民営反対の牙城で、時代の流れに逆行しているとのイメージで他から見られているかと思うと正直つらい」と。

    業界団体が全面的に出て、気勢を上げるのは自由だ。確かにアメリカでも、ロビーストと呼ばれる団体や業界の利益代表が上院や下院のロビーに陣取って、政治家に盛んに圧力をかけている。業界のダミーのような議員も大勢いる。日本ではどうだろう。先の選挙では、地縁血縁もないいわゆる「落下傘候補」が健闘し、地場の候補者に勝った選挙区(静岡7区、東京10区など)もあった。政党の政策やポリシーが重視され、利益誘導型の政治家に有権者は期待しなくってきている。来る参院選では、インターネットの活用が「解禁」され、その傾向はさらに強まるだろう。そしてこの議論の行き着く先が参院無用論なのである。「機能しなくなった政治制度をリストラせよ。衆院だけでよい」と。

                                   ◇

        金沢大角間キャンパスの遊歩道でアケビを手にして、ある俳句を思い出した。高名な俳人だったか、学校の恩師だったか、作者は思い出せない。脳裏に浮かんだままを記す。

口を開け 手招き揺れる アケビかな
                       ~詠み人知らず~

⇒21日(金)午後・金沢の天気     くもり

★「ミモレット」を検証する

★「ミモレット」を検証する

  チーズのミモレットを初めて食した。チーズ独特のにおいがツンとくるものの、歯応えは決して硬くはない、むしろ「しなやか」と表現したい。実にきめ細やかな食感である。「硬くて食えない、かびたチーズ」と森喜朗氏が評して一躍有名になったチーズだ。ヨーロッパの高級品というのは得てしてそんなものだという先入観を私も持っていたが、それが「濡れ衣」であることが分かった。

   フランス産のミモレット(mimolette)を食する至ったいきさつをちょっと説明したい。郵政民営化法案否決で日本に激震が走った8月8日の2日前、小泉総理に衆院解散を思いとどまらせようと森氏が官邸を訪ねた。しかし「殺されてもいい」と小泉総理に拒否された。その会談で出たのが缶ビールと「かびた」チーズだった。会談後、森氏はわざわざ握りつぶした缶ビールとチーズを取り囲んだ記者団に見せ、「寿司でも取ってくれるのかと思ったらこのチーズだ」「硬くて歯が痛くなったよ」と憮(ぶ)然とした。映像を見た有権者は逆に「小泉は郵政改革に命をかけている、本気だ」との印象を持った。歴史的となった9月11日の選挙ドラマのプロローグはまさに森氏が記者団にチーズを見せるシーンから始まったのだ。チーズは後にフランス産高級チーズの「ミモレット」と判った。

   選挙後、ミモレットの味を検証したと思い、金沢市内の食品店を探したがない。金沢大学近くのフランス料理店でも注文したが、「東京の食材店に注文すれば1ヵ月ほどかかるが…」とニベもない。たまたま、自宅近くの大手リカーショップに問い合わせると「近く入荷する」との返事があり、注文しておいた。先日店から電話があり、いそいそと取りに行った。オレンジ色は見ようによっては確かに「かびた」ように見えるが、歯応えや食感は冒頭に記した通りである。

   森氏の味覚がおかしいと言っているわけでない。政治の駆け引きの場面では、どんな料理も賞味はできる雰囲気ではないだろう。8月6日夜、森氏がもし小泉総理の先輩としての余裕を見せて「小泉さんは『殺されてもいいから解散をやる』と言ったよ。しかたないな。でも、あのミモレットは実にうまかったよ」などと記者団に説明していたら、選挙の結果は自民大勝にはならなかったはずだ。むしろ国民から「高級チーズなんか食いやがって」と総スカンをくらっていたに違いない。森氏の苦りきった表情、握りつぶした缶ビール、そして「かびた」チーズから見えてきた政治の緊迫感がテレビを通して有権者に伝わったからこそ歴史は動いた。

   年末の「ことしの重大ニュース」のテレビ番組はこのシーンから入るのではないかと、つらつらと想い描いている。

⇒20日(木)午前・金沢の天気   くもり時々はれ

☆失恋海岸の指輪物語

☆失恋海岸の指輪物語

  昨夜、午後7時ごろだったろうか。日本銀行金沢支店前の大通りでちょっとしたトラブルがあった。福井ナンバーの軽自動車がバス停のまん前に停めてありバスが近づけない。車にはドライバーがいない。バスの運転手が激しくクラクションを鳴らしても、ドライバーが現れないのである。帰りのラッシュで日銀前はごった返した。

  で、ドライバーはというと日銀の入り口で女性ともめていた。二人とも若い。さりげなく近づき耳をそばだてると、どうやら「別れる」(女)「別れたくない」(男)の会話である。「こんなところで車を停めたらダメやろう」と注意した人がいて、二人はようやく車に戻り、去った。非常識と言えば非常識な話なのだが、二人にとっては周囲の状況がまったく見えないほど深刻な別れ話なのだ。夏に燃えるような恋をして、秋風が吹くころに失恋する。国や時代を超えて繰りかえされる人生の儀式みたいなものだ。

  その人生の儀式のメッカのようなところが石川県にもある。内灘海岸だ。先日、友人と話をしていたら、失恋しプレゼントしようと買った指輪を内灘海岸に投げ捨てたという。25年ほども前の話である。実は私の弟も20年前にこの海岸で指輪を投げている。さらにかつての会社の後輩も13年前に社内恋愛をして失恋、そして内灘海岸に指輪を投げ捨てたと聞いた。ちなみにこの3人に共通することは、夕日に向かって「バカヤロー」と叫びながら投げていることである。

   しかし、よく考えると、周囲に3人も同じ行動をしているということは、相当な確率である。ひょっとして何千という指輪が内灘海岸に投げ捨てられたのではないか、とも想像する。ここでちょっと現実的な話を。捨てられた指輪が落下した海は海岸べりからせいぜいが数十メートルの範囲だろう。引き潮のときを狙って、アサリを採る越し網で海底をさらえば指輪がアサリ以上にザクザクと出てくるのではないか。現に内灘海岸の波打ち際で指輪を拾ったという知人もいる。

   恋愛の数だけ失恋もある。内灘海岸でこうだから、サザンオールスターズの「チャコの海岸物語」で有名な茅ヶ崎海岸ではエボシ岩に向かって何万という指輪が投げられたに違いない。指輪1個が平均20万円として一体何億円になるのか。そしてきょうもまたどこかで月収分くらいの指輪を海に向かって投げている男がいるかと思うと、妄想する男の脳の滑稽さや切なさを感じる。結論の出ない、締まりのない話題なってしまった。

⇒1日(木)午後・金沢の天気  はれ