⇒トピック往来

★イフガオにて‐下

★イフガオにて‐下

  イフガオの現地入りに先立ち、11月12日、JICAフィリピン事務所を訪ね、丹羽憲昭所長、小豆澤英豪次長に、JICA草の根技術協力(地域経済活性化特別枠)事業「世界農業遺産(GIAHS)イフガオの棚田の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援事業」の進捗状況を説明した。プロジェクトの実施責任者である中村浩二特任教授が昨年11月の事業採択内定から、現地パートナーとのミニッツ(合意文書)の締結、現地説明会、イフガオGIAHS持続発展協議会とイフガオ支援協議会(能登)の設立、カリキュラム作成、受講生募集、現地調整員の赴任、ワークショップ開催、講義の開始、能登研修などの流れを説明。「ソフト事業はカタチが見えにくいが、人材養成は大学ならでは試み」と述べたのに対し、丹羽所長からは「モデル事業として成功させてほしい」と期待が寄せられた。

      イフガオ州大学長「イフガオ棚田を今後2000年持続していく」

  14日、イフガオ里山マイスター養成プログラムの第6回の講義がイフガオ州大学で行われた。今回日本からのイフガオに訪れた講師陣は多彩な顔ぶれだった。能登里山里海マイスター育成プログラムの教員、小路晋作特任准教授とシュクル・ラフマン教務補佐員、国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)のイヴォーン・ユー研究員の3人が講義を行った。

  小路氏は「“Noto Satoyama Satoumi Meister” Training Program: an outline」と「Ecosystem approach for Noto’s Satoyama Satoumi」の2つをテーマに能登里山里海マイスター育成プログラムの取り組みの現状と自然と共生する農林水産業について解説。シュクル氏は「Intangible Cultural Heritage」と「My Experience of Meister Program in Noto」と題して、能登の「アエノコト」などユネスコ無形文化遺産について説明し、能登里山里海マイスター育成プログラムの修了生たちの取り組みを紹介した。イヴォーン氏は「GIAHS monitoring and role of OUIK in GIAHS Twinnig Program」のテーマで世界農業遺産の発展させるためのモニタリング調査の重要性と国連大学の役割、今後の連携を説明した。

  ゴハヨン・イフガオ州大学長はイフガオ里山マイスター養成プログラムの意義についてこう述べた。「私たちは、能登マイスターと同じだけの情熱とエネルギーでイフガオ里山マイスターに取り組んでゆく。このプログラムが、FAOによって認定されたGIAHSイフガオ棚田を保全し、活性化することを信じます。イフガオ棚田は、私たちの祖先が、2000年かけて築き上げてきた遺産であります。私たちは、これをこれからの2000年にわたり持続してゆく」。学長のこの言葉にイフガオ再生を成し遂げる決意を感じた。

⇒15日(土)イフガオの夜   はれ  

  

  

☆イフガオにて‐中

☆イフガオにて‐中

  イフガオに入って2日目。イフガオ里山マイスター養成プログラムを現地で支援する「イフガオGIAHS持続発展協議会(IGDC=Ifugao GIAHS Sustainable Development Committee)が11月14日開催された。イフガオGIAHS持続発展協議会はことし3月25日に設立され、イフオガ州のアティ・デニス・ハバウエル知事が会長に就任した。今回の会合はイフガオ里山マイスター養成プログラムの活動状況を報告する目的で、州知事はじめ、バナウエ、ホンデュワン、マユヤオの3自治体関係者が参加した。

        州知事をうならせた受講生の課題研究プレゼン           

  開会挨拶のなかで、イフガオ州大学のセラフィン・ゴハヨン学長が、イフガオの棚田を保全する人材養成を支援するための学内組織「GIAHS支援センター(仮)」の設置を表明した。続いて、JICA事業「世界農業遺産(GIAHS)イフガオの棚田の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援事業」の日本側実施責任である金沢大学の中村浩二特任教授が能登里山里海マイスター育成プログラムの取り組みの進捗状況を説明。イフガオ州大学のダイナ・リチヤヨ教授がイフガオ里山マイスター養成プログラムこれまでの活動状況(6回の講義、能登研修など)を報告した。その後、受講生の中から選ばれた5人が課題研究の中間報告をプレゼンし、イフガオに伝わる農耕や文化資源の価値を再評価し、現代の視点で活かす試みを披露しました。この協議会のハイライトは前回のコラムでも掲載したように受講生たちの課題研究のプレゼンだ。

  アマラ・ダーエンさん=民間事務職員=の研究テーマは「伝統的な薬用植物」。イフガオの集落の多くは人里離れており、伝統的な薬用植物を自前で調達してきた。咳止めや糖尿病に効くといわれる薬用植物を10種類採取し、専門家の意見を聞きデータ収集。市販も視野に。ジェネリン・リモングさん=自治体職員(農業)=の研究テーマ「市販飼料と有機飼料による養豚の比較」。市販の飼料による養豚より、伝統の有機飼料の養豚の方がコストも発育も優れていることをデータにより示した。マリヤ・ナユサンさん=保育士=の研究テーマは「離乳食に活用する伝統のコメ品種」。保育士の立場から、離乳食の歴史を調べる。乳児の発育によいイフガオ伝統コメ品種を比較調査している。マイラ・ワチャイナさん=家事手伝い・主婦=の研究テーマは「伝統品種米の醸造加工」。親族が遺した伝統のライス・ワイン製造器を活用し、イネ品種や、イースト菌の違いによる酒味やコクを調査。売上の一部を棚田保全に役立てる販売システムを検討している。

  受講生たちの発表を受けて今後のイフガオGIAHS持続発展協議会の取り組みの方向性などが話し合われた。まず、議長を務めたハバウエル知事は、「かつて先ほどの発表のような伝統資源のビジネス化をテー マとした事業化を計ったことがあったがうまくいかなかった。今回のプレゼンを聞いて、研究調査計画がよく練られており、たとえばライス・ワインなどは市場価値が高いと感じている。州政府として今後予算化も含めて、イフガオ里山マイスター養成プログラムの受講生たちを支援する取り組みを始めなければならないと考えている」と高く評価した=写真・下=。

  ゴハヨン・イフガオ州大学長は「受講生たちはこれまでのマイスター授業(6回)で里山概論、土地利用、生態学的な視点、伝統的なコメづくり、地元食材の料理法などを学んでいる。その上で、イフガオ棚田を保全し、活性化することを自らのテーマとして選び、調査し、議論を重ねた上でプレゼンしている。これらの課題研究はイフガオにとって非常に有用で、可能性がある」と述べた。

⇒14日(金)夜・イフガオの天気    はれ
        

★イフガオにて‐上

★イフガオにて‐上

  今月11日に成田空港、マニラ空港を経由してフィリピンに入った。13日と14日に開催されるイフガオ里山マイスター養成プログラムの授業とワークショプに参加するためだ。イフガオ里山マイスター養成プログラムでは月1回(1泊2日)、イフガオ州大学を拠点に現地の若者(社会人)20人がフィリピン大学やイフガオ州大学の教員の指導で地域資源の活用や生物多様性と環境、持続可能な地域づくり、ビジネス創出について学んでいる。

         イフガオの文化・伝統資源を価値として活かす地域の若者たち

  イフガオの棚田は1995年にユネスコの世界文化遺産、2005年には国連食糧農業遺産に認定されている、壮大な棚田だ。その面積はざっと1万7000㌶、東京ディズニーランドとディズニーシーを合せた面積が100㌶なので、その170倍も広がる広大な棚田だ。さて、そのイフガオの棚田で起きている現実はこれまで何度かこのコラムで述べてきたように、若者の農業離れだ。現地の人が言うには、最近は若者だけでなく、中高年の田んぼ離れも広がっている、と。世界遺産でもある地域の文化を今度どう守って、継続的に発展させていけばよいのか、まったく日本と同じような、いや世界で起きているこの若者の農業離れという問題に向き合えばよいのか。そこで、金沢大学が国際協力機構(JICA)草の根技術協力事業で実施しているが、「世界農業遺産(GIAHS)イフガオの棚田の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援事業」、別称「イフガオ里山マイスター養成プログラム」。フィリピンでのカンターパートナーはイフガオ州大学、フィリピン大学オープン・ユニバーシティだ。

  13日はイフガオ里山マイスター養成プログラムの受講生20人による研究課題の中間発表会が開かれた。いつくか受講生たちの研究課題を紹介したい。ヴィッキー・マダンゲングさん(41)はイフガオ大学の教員で、研究テーマは「イフガオの民俗資料と写真展示」だ。本人の大学における研究テーマでもあるのだが、イフガオ里山マイスター養成プログラムの受講生の仲間を通じてさらに情報を収集したいとプログラムに応募した。実際にヴィッキーさんが大学で収集してる民俗資料を見せてもらい、少々驚いた。一部は日本、あるいは能登のそれとそっくりなのだ。

  たとえば、現地で今でも使用されているストーン・ミルだ。米などを挽いて粉に昔ながらのものだが、これが日本の石臼(いしうす)にそっくりなのだ。しかもサイズや石臼も回す取っての棒の配置なども、である。このほか、蓑(みの)やザル、カゴなど、懐かしさがこみ上げてくるようなものがさまざまに。1万年ほど前、中国の長江流域で稲作を中心とした農耕が始まったといわれる。その農耕文化が南に伝播してイフガオに、そして北に伝わり能登など日本に。そんな農耕文化のダイナミックな広がりを感じさせるのだ。ヴィッキーさんは「イフガオの民俗資料をまとめて文化遺産の価値や誇りを未来に伝えたい」と意欲を持っている。

  もう一つ気になる発表を紹介する。家業手伝いのマイラ・ワチャイナさん(29)の研究はライス・ワイン。当地では伝統的な酒づくり。大鍋を使って米を火で炒(い)る。こんがりきつね色になるまで炒って、水を入れて炊きく。そこに昔から伝わるイースト菌を入れてバナナの葉でくるみ、5日間発酵させれば出来上がり。イフガオ伝統のティブンと呼ばれるライスワイン。酸味が効いて、甘味があり、確かに日本酒よりもワインに似た味だ。マイラさんをこれを地酒としてだけではなく、海外にも広めたいと考えている。どの品種の米が醸造に向いているのか、どのような販促活動をしていくのか研究する課題は多い。が、本人は「イフガオの米はすばらしいと思う。そこからすばらしいライン・ワインを世に出したい」と研究に余念がない。

  地元であるイフガオの文化資源や伝統的な価値をもう一度見直して、地域を再生させたい、思いはまったく日本の現状と通じるのだ。

※写真説明:写真・上はイフガオの伝統的な高床式の茅葺家屋を説明するヴィッキー・マダンゲングさん(右)、写真・下はマイラ・ワチャイナさん(左から2人目)がつくったライス・ワインの試飲会

⇒13日夜・イフガオの天気  はれ

☆イフガオ州大学長からのメッセージ

☆イフガオ州大学長からのメッセージ

 先月(10月)11日、金沢大学が石川県能登半島の4自治体(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)などと連携して実施している、社会人の人材養成講座「能登里山里海マイスター育成プログラム」(実施代表・中村浩二特任教授)の第三期生入講式が、珠洲市の金沢大学能登学舎で執り行われた。この入講式は通算で7回目となるが、今回初めて海外からの参加があった。フィリピンのイフガオ州大学、セラフィン・ゴハヨン学長だ。イフガオ州大学は、先日このコラムで紹介したイフガオ里山マイスター養成プログラムを実施するにあたっての、金沢大学のカウンターパートでもある。入講式ではゴハヨン学長から祝辞をいただいた。イフガオからの心のこもったメッセージだった。

I am deeply honoured and privileged to be invited here again and be a witness to the enrolment of a new batch of trainees under the Noto Satoyama Satoumi Meister Training Project being spearheaded by Kanazawa University. We are always awed and inspired by your extraordinary commitment and passion towards sustaining your GIAHS. Since the launching of the Ifugao Satoyama Meister Training Program in March 25, 2014 various activities were already conducted. Our trainees attended various lectures such as overview of the satoyama landscapes in Japan and Philippines, land utilization, ecological concepts and practices, Natural farming system, management of heirloom rice production and training in native delicacy preparation. They also visited successful small scale industries in Ifugao such as taro production facility and traditional and modern rice wine facilities. But it is their visit and interaction with their counterpart trainees here in Japan that really opened their eyes and helped them internalize the objectives of the program that we are trying to achieve.Now, the 17 trainees in Ifugao have started their GIAHS conservation projects in their field of interests. These study projects were presented and shared with their counterparts/ experts here in Japan 3 weeks ago.

The Ifugao State University considers the Meister Program as one of its banner program. We commit to work with the same passion, commitment and indefatigable energy that you have in your meister program here. We are convinced that the program will surely help conserve and revitalize our Ifugao Rice Terraces, declared by FAO as a GIAHS site. This is a heritage developed by our forefathers for us. If it sustained them in the last 2000 years, surely, when harnessed, it can also sustain us in the next 2000 years to come.

Allow me to manifest our sincerest invitation to all of you, our partners here in Japan, to visit our place and see for yourself the various life changing initiatives of our trainees that is starting to unfold. Our university and province will be most happy to accord you with the same friendship and hospitality you have accorded us here.

 金沢大学が主導されている能登里山里海マイスター育成プログラムの三期生入講式に招待いただき、たいへん光栄です。能登GIAHSの持続的発展に向けた、金沢大学の日頃からの格別の取組と熱意に心から敬意を表します。本年3月25日にイフガオ里山マイスター養成プログラムが設立され、すでにいろいろな活動がスタートしています。受講者は、いろいろな講義を受けています。たとえば、日本とフィリピンの里山概論、土地利用、生態学的なものの見方、伝統的なコメつくり、地元食材の料理法などです。また、タロイモやライスワインの作業場も見学しました。しかし、能登訪問や能登里山マイスター達との交流こそが、かれらの目を開かせ、課題をグローバルに考えることに役立ちました。現在、17名のイフガオ受講生がそれぞれの関心分野において、GIAHS課題に取り組みはじめました。3週間前の能登訪問では、課題発表会とともに能登マイスター受講生やスタッフ、関係者と意見交換の場をつくっていただきました。

 イフガオ州大学では、マイスター・プログラムを、特別プログラムとして全学の旗印としています。私たちは、能登マイスターと同じだけの情熱とエネルギーでイフガオ里山マイスターに取り組んでゆく決意です。このプログラムが、FAOによって認定されたGIAHSイフガオ棚田を保全し、活性化することを信じます。イフガオ棚田は、私たちの祖先が、2000年かけて築き上げてきた遺産であります。私たちは、これをこれからの2000年にわたり持続してゆく決意です。

 私は、パートナーである皆さまをイフガオへ招待したく思っています。イフガオ・マイスターの活動が、イフガオの生活を変えつつあることを、ぜひ、ご自分の目で確かめて下さい。イフガオ州大学、イフガオ州政府は、いまこの能登において、皆さまが私にくださっている友情と歓待でもって皆さまをお迎えいたします。

⇒1日(土)朝・金沢の天気    くもり

★能登キャンパス-下

★能登キャンパス-下

   2日目の続き。東洋大学の 川澄厚志特任講師と学生が登壇=写真・上=。同大学が実施している能登の里山保全や祭り参加をする「能登ゼミ」について、「能登ゼミ・SFS(学生の短期滞在型実習) による、現場主義的な地域づくり」と題して事例報告した。学生にとって、過疎化は能登の魅力になりうる、人が少ないからこそ一人ひとりの存在が大きく、人同士の強い結びつきが生まれる点がメリットと述べた。

       地域の「多様な価値」を知る機会に

   北陸学院大学の田中純一准教授が、2007年3月の能登半島地震で学生たちを能登に引率して、ボランティア活動などを積極的に行い、現在も東日本大震災の被災地へ学生を引率し、ボランティア活動をしている。テーマは「 地域防災と学生教育」と題して事例報告。参加する学生たちに「ひとつの命、ひとりのかけがえのない存在に寄り添う、最後のひとりを見逃さない、取りこぼさない」と教えている。金沢美術工芸大学の真鍋淳朗教授は、「珠洲でアートによる地域おこし」と題して報告。奥能登の里山里海の自然•風土•歴史を活かしたこの地域でしか出来ないアートプロジェクトを展開していくと現在実施しているアート展の意義を説明した。

   石川県立看護大学の川島和代教授は学生とともに、「過疎地の暮らしと健康づくりを民泊型実習で学ぶ」と題して報告。能登町を中心に学生が民家に泊まりながら、一人暮らしのお年寄りの看護や健康づくりを学ぶ教育を指導している。地域の人が培ってきた健康を保つ暮らし方を教わり、地域の持つ多様な力を知る機会となっていると、その成果を述べた。

   総括討論は締まった内容だった。「学生が地域に学ぶ価値とは何か」という問いが会場からあった。対馬市の川口幹子氏の回答は明確だった。「これまで人間が克服型の技術を使って発展して来たように、これからは生態系の法則を人間社会に取り入れるようにして、新たな持続可能なシステムを構築して行く必要があると思う。このシステムの確立に向けて、学生たちに地域を学びの場として提供していくことだ」と述べた。また、過疎化と地域の在り様を尋ねられた、長野県木島平村「農村文明塾」の井原満明氏は「数人の高齢者が一人の若者を育てる地域社会であり、車いすや寝たきりになっても支えられる地域社会であり、乳幼児や子どもの感性を育てる農山村漁村の環境がムラであり、価値観を変えることだ」と。逆転の発想だ。

   シンポジウムに参加した国連大学のスタッフから「地域のグローバル展開があってもよいのではないか」と問題提起があった。2日目の金沢美大の真鍋淳朗氏の講演はそれに答えるものだった。「奥能登の里山里海の自然•風土•歴史を活かした、この地域でしか出来ないアートプロジェクトで国際芸術祭を開催する計画だ。アートによる地域社会の活性化、環日本海のアジアとのアートネットワーク、アジアから世界への発信を奥能登が拠点となる」。

     学生たちが地域活動に参加するのもよい、地域おこしもよい、要は学生たちが地域の価値を見出す仕掛けづくりを丹念に設計すること、そして、その仕掛ける人材を育てるのは地域だ。総括討論の議論を聞いてそう考えた。

   2日目の午後からのエクスカーションには18人が参加した。穴水町新崎(にんざき)・志ヶ浦地区の里山里海の保全活動を聞き、「ボラ待ち櫓(やぐら)」=写真・下=を実際に上って見学。能登ワイン株式会社ではブドウ畑やワイナリーの説明を受けた。穴水湾で養殖されているカキ貝の殻を天日干しして、酸性土壌の赤土の畑の入れてブドウを栽培している。晴天に恵まれ、里山と里海の景観が映えた。

⇒28日(火)朝・金沢の天気     くもり

☆能登キャンパス-中

☆能登キャンパス-中

   事例報告で4組が報告。最初に、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンターの加藤基樹助教が、学生2人と演壇に立ち「学生の地域活動の教育効果」と題して述べた=写真・上=。同センターは、「社会貢献」と「体験的学習」をキーワードに、昨年度実績で13600人の学生たちが地域活動に参加。東京からバスと電車で9時間かかる岩手県田野畑村へ50年間、年4回の合宿を通して育林作業を中心に活動しているサークルもある。学生のボランティアセンターでは日本最大で最古かもしれない。

      地域は学生の感性を磨く「学びの場」

   地域に密着した鳥獣管理技術者を養成 宇都宮大学の 高橋俊守准教授が、全国的に問題となっているイノシシやクマなどの獣害の問題について、地域と連携した取り組みを「野生鳥獣と人間の軋轢問題」と題して報告。同大学が獣害対策の人材を育成する「里山野生鳥獣管理技術者養成プログラム」(平成21‐25年度)の修了生も発表した。高橋氏は「獣害の所轄官庁が一般化された対応しているが、細分化された土地所有、集落の事情、対策すべき動物の相違、非農家の増加で、集落機能が低下しており、そのギャップが大きいと問題提起。同大学では引き続き一般社団法人鳥獣管理技術協会を設立、地域に密着した鳥獣管理技術者の養成のため、「鳥獣管理士」資格認定を実施している。

   金沢大学の小路晋作特任准教授は、能登半島で展開している「能登里山里海マイスター育成プログラム」の教員スタッフとして7 年間能登に駐在し、これまで107人のマイスターを育ててきた経緯を、「地域とともに育む人材養成プログラム」と題して報告。長崎県対馬市で学生の受け入れを中心とした地域づくりを行っている一般社団法人MITの吉野元統括マネージャーは「地域づくりコーディネーターの役割」と題して報告。対馬では市をあげて大学との連携を図ろうとしており、コーディネーターの役割は地域と大学の双方のメリットを生み出す潤滑油であると述べた。

   学生や講師陣、地元の関係者ら60人余りが参加した意見交換会は地元・鹿波獅子太鼓の披露されるなど=写真・下=、和やかな雰囲気での懇親の場となった。

   2日目のシンポジウムは「地域の資源を学びに活かす~能登の事例から」と題して事例報告と総括討論が行われた。金沢星稜大学の池田幸應教授が、穴水町において長年にわたり、学生と地域の交流・連携を推進してきた成果を「穴水町における学生と地域との交流・連携、この10年」と題して事例報告した。廃校舎を拠点とした地域資源活用による体験型コミュニティづくりを目指して、「能登シーズンキャンパス」や「かぶと塾」など開設している。他方で、祭りなど一時的な参加交流だけで、本当の地域貢献に繋がるのかは疑問と、問題提起をした。

⇒27日(月)夜・金沢の天気     はれ

   

★能登キャンパス-上

★能登キャンパス-上

   「能登キャンパス」を掲げ、能登の地域自治体と大学が連携して4年になる。その成果として、先日開催したシンポジウムでは地域と大学の位置取り、学生たちと地域のあるべき姿、地域創生と大学の役割などが浮かび上がった内容となった。

       地域と大学 連携メリットを相互に活かす

   金沢大学と石川県、奥能登4市町(輪島、珠洲、穴水、能登)、県立大学、看護大学、星稜大学で構成する能登キャンパス構想推進協議会(会長・福森義宏金沢大学理事・副学長)は10月17、18日の両日、「地域・大学連携サミット2014㏌穴水」を開催した。協議会では、平成23年度「地域再生人材大学サミット」(輪島市)、同24年度「域学連携サミットin能登」(珠洲市)、同25年度「地域・大学連携サミット」(能登町)を開いており、今回4回目となった。学生・研究者との交流を拡大して地域再生を目指すシンポジウムで初日170人が訪れた=写真=。

  開会式では、福森会長が「大学と地域が連携することはそう簡単なことではないが、地域再生のために、地域に必要な人材を育てるために、大学と地域がどう連携していけばよいのか、大学は研究と教育の成果をどう地域に役立てればよいのか、大学と地域はいまこそ、未来の可能性に向けて、しっかりとしたパートナーシップを築き上げていかなければならない」と主催者あいさつ。続いて、石川宣雄穴水町長が「地域再生を目指した議論と同時に、能登の魅力も穴水で実感してほしい」と開催地を代表して挨拶、藤雄⼆郎 ⽯川県企画振興部⻑のあいさつ文を寺坂公佑同部課長が代読した。

  続いて、中村浩二能登キャンパス構想推進協議会幹事長(金沢大学特任教授)がシンポジウムの趣旨説明を以下行った。能登半島は、自然と伝統文化に恵まれているが、同時にきびしい過疎・高齢化にさらされている。一方、2011年に「能登の里山里海」が国連食糧農業機関から世界農業遺産(GIAHS)に認定されたこともあり、国内外の大学・研究機関から注目を集め、県内はもとより、全国、海外からの研究者や学生の来訪が増えている。能登における教育・研究交流の拡大は、来訪者と地域の双方にとって大きなメリットがあると考える。こうした状況を踏まえて、シンポジウムは「地域に学び、地域を元気にする」をテーマに、能登地域の再生に向けた学生・研究者の交流人口拡大を目指す。活動の成果や課題を明らかにしていくことで情報が共有され、各主体の横の連携を促進し、能登の活性化に向けた新たな取り組みにつなげていくことを期待する。

  基調講演で、一般社団法人MIT(長崎県対馬市)の川口幹子専務理事が「対馬で学生たちが学んでいること、そして島民はどう変わったのか」と題して講演。2011 年に総務省地域おこし協力隊として対馬市に移住し、学生と地域をつなぐ活動や、グリーンツーリズム、環境保全に関する仕事に携わっている。同市では、自然豊かな農村を「学びの場」として、地域振興を学びたい学生や研究者に提供。耕作放棄地や空き家を実習で使ってもらい、実際に移住者を獲得している。川口氏は「地域を学びの場として活用すれば人がやってくると実感した」と述べた。また、長野県 木島平村農村文明塾の総合コーディネーター井原満明氏は「地域の資源を活かし学生たちの学びを創造する」と題して講演。2010 年から農村文明の創生に向けた農村文明塾の運営に関わり、大学生と地域の域学連携を実践している。井原氏は「若者たちの感性を研ぎ澄ますことが大切で、農村の暮らしと生業は豊かな感性による生活技術であり、その暮らしの技術に若者たちは感動する。また、交流は地域の感性を呼び戻す」と述べた。

⇒26日(日)朝・金沢の天気    はれ

☆今ある能登の未来

☆今ある能登の未来

  先月9月27日、金沢大学が能登2市2町と連携して展開している、若者の人材養成プロジェクト「能登里山里海マイスター育成プログラム」の修了式(修了生23名)があった=写真=。このプログラムは2007年にスタートし、7年間で延べ107名のマイスターを輩出している。能登里山里海マイスター育成プログラムは、自治体と大学が共同で出資する独自の予算で運営され、輪島市の「里山里海塾」、能登町の「ふるさと未来塾」とも連携するという、これまでにない地域と大学の密接なネットワークを築いている。授業内容も、従来の環境に配慮した農林水産業をベースとした地域活性化だけではなく、全国各地の先進的な動きや事例に学ぶなど新たな時代のニーズを取り込んだカリキュラムに工夫されている。

  1年間に凝縮されたカリキュラムで、受講生たちは月2回の土曜日、能登学舎(珠洲市三崎町小泊)でこれからの能登の里山里海をどのように活かしてゆくべきかについて、多彩な講師陣の指導を受けながら、熱心に議論を積み重ねてきた。その間、様々な戸惑いや悩みもあった。受講生たちは、それを乗り越え、自らの課題研究をまとめ上げて、審査と評価を得て、この日の修了式を迎えた。

  卒業の課題研究の概要をいくつか紹介する。東京から移住して、七尾市の能登島でまったく新しいタイプの農家レストランを起業する女性の受講生は、地元の農家との交わりや農作業をとおして、食材とメニューを開発するなど地産地消を徹底することから生まれるレストランの経営のプランをつくりあげた。この論文に「日本版スローライフ、スローフード」の可能性を感じた。また、能登の海で獲れるトラフグやゴマフグを「能登ふぐ」としてブランド化して売り出すビジネスプランや、能登の豊かな自然を幼児教育の場として生かす「森のようちえん」の開設に向けた取り組みなど、実に興味深い。

  修了生の代表はこう感謝の言葉を述べた。「能登は過疎化・高齢化といわれますが、ここにはたくさんの個性的な人が息づき、自然の豊かな恵みをうけて、ともに命を輝かせて生きています。これから未来のために何ができるのでしょうか。みんなで取り組んでいきましょう。能登がもっと元気になって、能登がもっと多様性にあふれることを願って、私たちは、考えながら、感じながら、動きながら、歩んでいきたいと思います」

  新たな視点、独創的な発想、先進的な取り組みなど、人々の考えの「多様性」こそ地域社会を切り開く源(みなもと)だと思う。「能登里山里海マイスター」の称号は伊達ではない。個人の取り組みが点であるかもしれないが、マイスターのネットワークを通じて線になり、さらに地域的な広がりを持って面となることを期待したい。その意味で、能登里山里海マイスター育成プログラムの取り組みは能登半島に新しい息吹を吹き込む仕組みであると、修了式に臨んで改めて感銘を受けた。

  金沢大学はキャンパスの中だけでなく、能登、加賀、金沢の地域に学ぶ教育や研究を進めている。それは、地域の学びのニーズに応えていくことだと考える。修了生(マイスター)には、地域と大学を結ぶ懸け橋として、後に続く若者達のリーダーになってほしいと期待してる。能登にとっても、大学にとっても、能登里山里海マイスター育成プログラムを修了した若者たちはある意味での「財産」であり、この修了式の光景こそ、今ある能登の未来だと頼もしく思った。

⇒5日(日)午後・金沢の天気      あめ

  

★イフガオから能登に‐下

★イフガオから能登に‐下

 ここで金沢大学がイフガオで取り組んでいる概要について説明する。イフガオ州はマニラから北に約380㌖。コルディレラ山脈の中腹にイフガオ族が耕す棚田が広がる。「イフガオの棚田」は国連食糧農業機関(FAO)により世界農業遺産(GIAHS)に認定されているが、近年、若者の農業離れや都市部への流出により、耕作放棄地の増加が懸念されるほか、地域の生活・文化を守り、継承していく人材の養成が急務となっている。

     能登とイフガオ、SATOYAMA課題の相互理解を深める

 そのため同様の課題を有する、日本の2つの世界農業遺産認定地域(能登・佐渡)との結びつきを強化し、金沢大学が能登で培った里山里海をテ-マとした人材育成のノウハウを移転し、同地において魅力ある農業を実践し、地域を持続的に発展させる若手人材養成のプログラムの構築を支援するというもの。また、GIAHSの理念の普及を通じた国際交流・支援を実施することにより、能登および佐渡地域において、国際的な視点を持ちながら地域の課題解決に取り組み、国際社会と連携するグローバル人材の育成につなげていく。少々欲張った取り組みではある。

 能登ツアーの後半のハイライトは、能登のマイスター受講生やOBとの交流である。20日と21日は能登里山里海マイスター育成プログラムの2期生の修了課題発表会(22人発表、通訳・早川芳子氏)に参加し、能登マイスターの受講生の環境に配慮した米作りや、土地の食材を活かしたフレンチレストラン、古民家の活用などついて耳を傾けた。21日午後からはイフガオ里山マイスターの受講生5人が現在取り組んでいる「ドジョウの水田養殖」や「外来の巨大ミミズの駆除・管理」などについて発表した。これに能登の受講生やOBがコメントするなど、研究課題の突き合わせを通じて、相互の理解を深めた。

 受講生のヴィッキー・マダンゲングさん(41歳・大学教員)=写真・上=が取り組んでいる研究テーマ「イフガオの民俗資料と写真展示」はいわばイフガオ民族資料館の取り組みである。イフガオは世界文化遺産に認定されているものの、体系立てられた農耕の歴史資料や伝統芸能を紹介する資料館が少ない。そこで、写真と農耕道具の中心とした展示館をつくりたいと願っている。ジェネヴィーヴ・フカサンさん(41歳・農業)=写真・下=の研究テーマ「伝統的な野草茶の栽培と普及」は棚田周辺の野草を乾燥させて野草茶をつくり、副収入にしたいと小さなビジネスを考えている。

 今回の能登研修を通じて、能登とイフガオの受講生30人余りが研究課題の発表を通じて直接・間接的に交流したことになる。21日午後からの課題発表会と懇親会では受講生同士が直接対話し、理解をさらに深めた。イフガオも能登も、若者の土地離れ、農業離れという共通の課題を有している。今回の相互理解で、地域の自然や文化を再度見直し、これを持続的に未来につなげていこうとする思いは通じ合えたのではないだろうか。

 23日の研修ツアーの成果発表会では「過疎の課題を背負いながら地域の再生に知恵を出す能登の受講生の姿がとても印象的で、我々の思いと通じ合えた」との感想があった。

⇒28日(日)金沢の天気  はれ

 

☆イフガオから能登に‐上

☆イフガオから能登に‐上

 金沢大学がフィリピン・ルソン島イフガオで実施している国際協力機構(JICA)草の根技術協力事業「世界農業遺産(GIAHS)イフガオの棚田の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援事業」(通称:イフガオ里山マイスター養成プログラム)の能登研修が9月13日から24日の日程で実施された。プログラム受講20人のうち10人が研修ツアーに参加、学びと交流の輪を広げた。その様子をリポートする。

    イフガオの民族衣装で輪島・千枚田の稲刈り

 イフガオ里山マイスター養成プログラムでは月1回(1泊2日)、イフガオ州大学を拠点に現地の若者20人がフィリピン大学やイフガオ州大学の教員の指導で地域資源の活用や生物多様性と環境、持続可能な地域づくり、ビジネス創出について学んでいる。能登研修を通じて、GIAHSサイト間の交流を深める。今回参加した受講生10人は教員スタッフ3人とともに12日にイフガオ現地からマニラを経由し、13日深夜金沢に到着した。

 能登入りに先立って、イフガオの受講生たちは16日に谷本正憲知事、17日には山崎光悦金沢大学長を表敬訪問した。知事は「地域活性化のヒントが得られることを期待する」と述べ、輪島の千枚田の取り組みを紹介。山崎学長も「能登での研修が実りあることを期待したい」と、引率のダイナ・リチヤヨ教授(イフガオ州大学)を励ました。このほか、16日にJICA北陸支部を訪ね、堀内好夫支部長に挨拶。また同日、能登GIAHS推進協議会の会長、山辺芳宣羽咋市長を訪問、18日にはイフガオGIAHS支援協議会の会長、泉谷満寿裕珠洲市長を訪ね、世界農業遺産のサイト同士の連携に向けて、行政と草の根レベルでの交流を深めることを話し合った。

 ツアー前半のハイライトは能登見学だった。輪島市の千枚田では、棚田のオーナー田を管理する白米千枚田愛耕会の堂前助之新さんがオーナー制度の仕組みを説明。イフガオ受講生は愛耕会のメンバーの手ほどきで稲刈りを体験した。イフガオの稲は背丈が高く、カミソリのような道具で稲穂の部分のみ刈り取っており、カマを使って根元から刈る伝統的な日本式の稲刈り初めて=写真=、また、はざ掛けも体験した。イフガオの民族衣装を着た受講生たちは、収穫に感謝する歌と踊りを披露した。イフガオで自らも農業を営むマリージェーン・アバガンさんは「能登の棚田はとても手入れが行き届いている」と感想を話した。

 イフガオの受講生の多くは日本における米の加工品に関心を寄せており、日本酒の造り酒屋も見学コースに組み込まれた(18日)。能登町の松波酒造では、季節的に製造時期ではないももの、女将の金七聖子さんから酒の製造工程を分りやすく説明してもらった。試飲した日本酒がすっかり気に入り、宿泊所で飲みたいとせっせと買い込む姿も。

⇒27日(土)能登の天気   はれ