⇒トピック往来

★「米粉 金時豆パン」の話

★「米粉 金時豆パン」の話

    金沢市内のスーパーで見つけた、最近お気に入りのパンがある。「米粉 金時豆パン」=写真=。金時豆はほの甘く、米粉のしっとり感となんともマッチしていて、つい、2、3個と買ってしまう。1個180円。還暦を過ぎて「豆パン」に入れ込むとは思ってもみなかった。では、これが米粉ではなく、小麦粉だったらどうだろうと考えてみる。

    小麦粉にはタンパク質のグルテンがあるので、出来上がりにはふっくら感がある。でも、金時豆との帳合い(バランス)を考えると米粉のしっとり感が味覚的にはあっているだろう。小麦粉パンだったら、レーズンの方が合っているような気がする。「米粉 金時豆パン」はあんパンほど甘くなく、金時豆の存在感を引き立てている。そんなストーリーを描いている。個人的な好みかもしれないが。

    米粉と言えば、以前、大学で講義をしていただいたパテシエの辻口博啓氏からこんな話を聞いたことがある。辻口氏の米粉を使ったスイーツは定評がある。当初、職人仲間から「スイーツは小麦粉でつくるもので、米粉は邪道だよ」と言われたそうだ。それでも米粉のスイーツにこだわったのは、小麦アレルギーのためにスイーツを食べたくても食べれない人が大勢いること気が付いたからだ。高齢者やあごに障害があり、噛むことができない人たちのためのスイーツもつくっている。辻口氏は能登半島の七尾市生まれ。実家はもともと和菓子屋を営んでいて、抵抗感もなくスイーツの業界に入った。

    辻口氏のエピソードと似た話をもう一つ。洋食のオムライスの発祥の地は大阪・浪速と言われる。1925年、通天閣が見える繁華街で洋食屋を開業した20代の料理人が、オムレツと白ご飯をよく注文する客がいることに気が付いた。客は胃の具合が悪いのだという。そこで、同じいつもメニューではかわいそうだと、マッシュルームと玉ねぎを炒めて、トマトケチャップライスにしたものを薄焼の卵でくるんで「特製料理」として提供した。すると客は喜んで「オムレツとライスを合わせて、オムライスでんな」と。これがきっかけで「オムライス」をメニュー化したのだという(「宝達志水町ホームページ」より)。料理人は北橋茂男氏(故人)、能登の人だった。生まれ故郷の宝達志水町では毎月23日を「オムライスの日」と定め、「オムライスの郷」プロジェクトを進めている。

   能登には人に気遣いをする文化風土があり、「能登はやさしや土までも」との言葉が江戸時代からある。ユネスコの無形文化遺産にも登録されている能登の農耕儀礼「あえのこと」は、目が不自由な田の神様を食でもてなす行事だ。そう考えると、食文化は「うまさ」というより、作り手の「やさしさ」から生まれるのかもしれない。

⇒21日(月)朝・金沢の天気     はれ

★「テレビ広告」終わりの始まりなのか

★「テレビ広告」終わりの始まりなのか

    「テレビ局は果たしていつまでもつのか」「護送船団方式と言われた時代が懐かしい」「テレビの広告収入はあと数年でネットに抜かれる」・・・。最近テレビ業界の関係者から、憂いなのか愚痴なのかこんな話をよく聞く。どうやらその「震源」は広告代理店「電通」が発表している調査リポート「2017年 日本の広告費」にあるようだ。

    遅ればせながら、2月に発表された調査リポートを読んでみる。日本の広告費は景気の上向きを反映して6年連続でプラス成長、総広告費は6兆3907億円(前年比101.6%)なのだ。ところが、テレビ業界の人たちが危惧するように、地上波テレビへの広告費は1兆8178億円と昨年比98.9%となっている。とくにスポット広告(同98.8%)は勢いはなく、一部の業種では増加したものの、全体としては低調。地域別では全32地区中27地区が前年実績を下回った。名古屋と福岡、長崎、熊本、大分の九州4地区の除けば、ローカル局の下落が顕著になっている。全体として「西高東低」の状況で、各地ばらつきはあるものの、長野県(民放4局)の場合は前年比マイナス5ポイント、当地の石川県(同)ではマイナス3.5ポイントだ。

    それに比べ、インターネット広告費は勢いがある。媒体費と広告制作費は1兆5094億円で前年比115.2%だ。調査リポートは「前年に続き、動画広告が拡大。生活者のモバイルシフトが進み、メディアやプラットフォーマー側で動画広告メニューの拡充が行われた結果、市場が順調に拡大した。特に、運用型広告領域においては、モバイル向け動画広告が活況を呈し、成長をけん引した」と分析している。つまり、スマホの普及で手元で動画が見れるようになったトレンドを背景に、特定のユーザーに絞って広告を配信する「ターゲティング広告」の機能が向上し、広告主は効率的な広告運用が可能になっている。最近では、AIを活用して自動入札を行う広告主や代理店もいる。テクノロジーの進化が、ネットの広告市場を押し上げているのだ。冒頭の「テレビの広告収入はあと数年でネットに抜かれる」も間近になってきた。

           地上波テレビへの広告費は1兆8000億円と、広告全体のシェア28%を誇る、ある意味で最強のマスメディアとも言える。視聴率が正確性や公平性を担保するカタチで各テレビ局への分配の目安を担ってきた。ところが、広告媒体としてネットによる動画配信サービスなどが急成長している。これまでの広告宣伝は、マス(視聴者全体)へのアピールだけで役割が事足りてきた。AIなどのイノベーションにより、ネットでは一人ひとりのユーザーの特性に応じた「ターゲティング広告」が普通になってきた。さらに最近では消費者行動がシップス(SIPS)と称される、Sympathize(共感する)、Identify(確認する)、Participate(参加する) Share&Spread(共有・拡散する)のSNS時代を象徴するような動きが広がっている。マス広告からターゲティング広告へと加速する中で、地上波テレビ、とくにローカル局の経営戦略はどこに向かっているのだろうか。

    ちなみに、マス広告のさきがけである新聞広告費は5147億円(前年比94.8%)。新聞社は最近、ニュースをいち早くWeb版にアップロードするなどデジタルコンテンツにシフトする「デジタルファースト」の動きを加速させている。テレビ局も放送とネットの同時配信を加速、深化させるのか。マスメディアは大転換の時代に入ってきた。

⇒16日(水)朝・金沢の天気    はれ

    

☆季節は移ろう、庭の花

☆季節は移ろう、庭の花

     庭先を眺めると、いまでも今年2月のあの大雪を思い出す。屋根から落ちてきた雪が軒下いっぱいに積もった。あれから3ヵ月、季節は移ろい自宅の庭は花盛りだ。

     イチリンソウ=写真・上=は「スプリング・エフェメラル(春の妖精)」と称されるように、早春に芽を出し、白い花をつけ結実させて、初夏には地上からさっと姿を消す。春の一瞬に姿を現わし、可憐な花をつける様子が「春の妖精」の由来ではないだろうか。1本の花茎に一つ花をつけるので「一輪草」の名だが、写真のように一群で植生する。ただ、可憐な姿とは裏腹に、有毒でむやみに摘んだりすると皮膚炎を起こしたり、間違って食べたりすると胃腸炎を引き起こすといわれる。手ごわい植物なのだ。

     タイツリソウ=写真・中=は「鯛釣り草」と書く。面白い名前だ。花が枝にぶら下がった姿が何匹もの鯛が釣り竿にぶら下がった様子に似ていることからその名が付いたようだ。姿だけではなく、花の形も面白く、ピンクのハート形。そのせいか、ネットで検索すると花言葉は「心」に関係するものが多く、「恋心」「従順」「あなたに従います」「冷め始めた恋」「失恋」などいろいろと出てくる。実にイメージを膨らませてくれる。

     大物も咲き始めた。天に向けて咲くオオヤマレンゲ=写真・下=は「ウケザキオオヤマレンゲ(受咲大山蓮華)」との名前がある。花径は12㌢から15㌢あり、甘く芳香性のある白い花だ。私はむしろ「つぼみ」に気品を感じる。「まもなくデビューします」と言わんばかりの凜とした立ち姿は、出番を待つバレリーナのような姿だろうか。

     政治や外交と違って、自然の花を見ながら膨らませるイメージに罪はない。だから、ちょっとした気休めになる。

⇒1日(火)朝・金沢の天気     はれ

★「ペンタゴン・ペーパーズ」と報道の自由

★「ペンタゴン・ペーパーズ」と報道の自由

    輪転工場での鉛のにおいが立ち込めるような、見覚えのある懐かしいシーンが随所に出てきて印象に残る映画だった。きょう27日鑑賞した『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(スティーブン・スピルバーグ監督)はエンターテイメントではなく、社会派、そして実録映画なので話の流れが硬い、しかし少し涙がうるんだ。

   映画は1971年の「ワシントン・ポスト」紙の編集現場。今と違って当時はローカル紙だった。映画では、冒頭に述べたように鉛を使った活版印刷の輪転工場の様子や、編集局で作成した原稿や写真を筒に入れて制作現場に送るエアシューターが出てくる。私は1978年入社の元新聞記者なので、その当時の新聞社の現場が映画でリアルに再現されていて、つい身を乗り出してしまった。このワシントン・ポストが社運をかけた取り組んだのが、「アメリカ合衆国のベトナムにおける政策決定の歴史 1945-1967年 」という調査報告書(最高機密文書)を記事として掲載するか、どうかの実録のドラマだった。最高機密文書はペンタゴン・ペーパーズとも呼ばれ、国防長官ロバート・マクナマラが指示してつくらせた歴代大統領トルーマン、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソンのベトナム戦争に関する所感などとまとめた調査報告書だが、歴代の大統領はアメリカの軍事行動について国民に虚偽の報告したとする内容が含まれていた。

    「ニューヨーク・タイムズ」紙が6月13日付でスク-プ記事を出し、それを追いかけるようにワシントン・ポストも最高機密文書を入手する。ただ、タイミングが悪かった。社主で発行人の女性経営者キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)が株式公開に動き出している最中だった。ニューヨーク・タイムズの記事は、6月15日にはニクソン政権によって国家機密文書の情報漏洩であり、国会の安全保障を脅かすとして連邦裁判所に記事の差し止め請求が出され、実際に法的な措置が取られた。

    後追いでペンタゴン・パーパーを入手したワシントン・ポストは6月18日付で記事にするか、しないかと決断に迫られた。ニューヨーク・タイムズと同様に記事が差し止めになれば株式公開、どころか経営が危うくなる。同社の顧問弁護士たちも記事掲載に反対した。そもそも4千ページにも及ぶ最高機密文書を入手からわずか一日で掲載することに、果たして精査された記事と言えるのかといった経営上層部からも懸念が発せられた。編集現場のトップ、ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は抵抗する。「We have to be the check on their power. If we don’t hold them accountable — my god, who will?」(権力を見張らなくてはならない。我々がその任を負わなければ誰がやす?)と。

    最終判断は、社主で発行人のキャサリン・グラハムが下した。「ワシントン・ポストは祖父の新聞だった。そして夫の新聞だった。今は私の新聞」と言い、「私が決める」と掲載を決断する。ニューヨーク・タイムズが差し止め命令を受けた後にペンタゴ・ペーパーズを報道した最初の新聞となった。連邦裁判所はワシントン・ポストに対して政権側の訴えを却下した。さらに、同紙が後追いしたことで、6月30日、最高裁判所はニューヨーク・タイムズの差し止め命令を無効と判断した。ペンタゴ・ペーパーズを公表したことは公益のためにであり、政府に対するメディアの監視は報道の自由にもとづく責務であるとの判決理由だった。

    鑑賞を終えて、ふと思った。ワシントン・ポストの社主で発行人が女性ではなく、男性だったらどう判断しただろうか、と。おそらく「7:3」で掲載却下となっていたのではないか。男性はどうしても経営リスクの回避を優先するのではないか。では、なぜキャサリン・グラハムは掲載を決断したのか。おそらく、女性として、母親として、アメリカの若者たちをこれ以上、戦況が悪化するベトナムに送り込めないとの本能的な思いと、ジャーナリズムの社会的な使命への思いが合致したのかも知れない。

    映画のシーンでも、キャサリン・グラハムが孫たちに寄り添う姿がある。スティーブン・スピルバーグ監督の映画制作の意図はひょっとしてここにあるのか、とも思った。キャサリン・グラハムの判断が、その後にワシントン・ポストを一流紙の座へと押し上げた。

⇒27日(金)夜・金沢の天気 はれ

☆逆境に咲く花

☆逆境に咲く花

         ことしの冬は北陸豪雪。1月と2月に強烈な寒波に3度襲われ、金沢でも交通インフラなどは一時ガタガタになり、自宅周辺でも積雪量が150㌢になった。自然界にとっては逆境と思える環境の中で、自然の生命は力強い。金沢地方気象台はきのう29日午前、「金沢市で桜が開花した」と発表した。金沢地方気象台の敷地内にあるソメイヨシノの標本木に5、6輪の花が咲いたことで開花宣言となった。

    今年の開花は平年よりも6日早く、去年より6日早いのだ。確かにここ数日は青空が広がり、気温が20度近く上がった。まさに陽気だ。気温が上がったことでソメイヨシノの開花も急テンポで進んだようだ。きょう30日午後、兼六園周辺に出かけたついでに桜を見に行った。すでに、「ぼんぼり」が飾られ、満開を迎えるだけになっていた=写真=。それにしても、金沢地方気象台の発表によると、統計がある1953年以降で6番目に早い開花の観測だという。

   逆境に花を咲かせたのは北陸の桜だけではない。北朝鮮の外交攻勢もなんとなく状況は似ている。核とミサイル開発に対する国連安保理の経済制裁で苦境に陥り、何とか打開しようと韓国・平昌冬季オリンピックの参加をきっかけに、5月にも開催が予定されるアメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩党委員長による米朝首脳会談が電撃的に決まり、そして、これも電撃的に金委員長の中国訪問と習近平国家主席の会談。そして来月27日には韓国の文在寅大統領との南北首脳会談がセットされた。

   北の外交のスピード感には舌を巻くが、一体どんなことが交渉に上っているのか、どこのメディアも明確に報じてはいない。当然「北朝鮮の非核化」に向けた会談でなければ意義がないのだが、それが聞こえてこない。こればかりは、徒(あだ)花であって欲しくはない。

   逆転という花もある。きょうの春の選抜高校野球大会(8日目)で、地元の航空石川は高知県の明徳義塾と対戦し、9回裏に劇的な逆転サヨナラ3ラン。センバツ初出場ながらベスト8入りを決めた。お見事、拍手を送りたい。

⇒30日(金)夜・金沢の天気    はれ

☆2年後のタイムラグ問題

☆2年後のタイムラグ問題

     平昌冬季オリンピックが韓国で開催されてよかったと思うことがある。それは時差がないことだ。17日に羽生結弦選手が金メダルを、宇野昌磨選手が銀メダルを獲得したフィギュアスケート男子シングルの生中継(NHK総合・午後0時15分‐同2時41分)の平均視聴率は関東地区33.9%、18日に小平奈緒選手が金メダルだったスピードスケート女子500㍍の生中継(TBS・午後8時00分‐同10時00分)は同地区21.4%(いずれもビデオリサーチ調べ)だったと報じられている。まともな時間に中継を視聴できている。

     2016年8月のリオデジャネイロのときは時差が11時間(サマータイム)、体操の男子個人総合で内村航平選手がロンドンに続く2連覇を果たす瞬間を見たかったが、朝6時台だったので不覚にも寝過ごした。

   「まともな時間」と冒頭で述べたが、それでもフィギャースケートのハイライトと、スピードスケートのハイライトの開始時間が8時間もあるのはなぜか。韓国が開催国なのだから同国のテレビ視聴のゴールデンタイム(午後7時‐同10時)にハイライトを中継できないのか。と言いながらも、私はかつてテレビ局で番組づくりに携わっていたので、裏事情を明かすことにする。

     フィギュアスケートの人気が高い国はアメリカだ。アメリカのゴールデンタイムに放送時間が合わせてある。同競技が始まったのは韓国の時間で17日午前10時、アメリカ・ニューヨークとの時差は14時間、つまりニューヨークで16日午後8時のゴールデンタイムなのだ。羽生選手の優勝が決まると、日本のメディアとほぼ同時にニューヨーク・タイムズなどは「Yuzuru Hanyu Writes Another Chapter in Figure Skating Legend」(電子版)と報じた。また、スピードスケート女子500㍍は韓国の李相花選手がオリンピック3連覇を目指していただけに韓国国内で注目度が高く、韓国のゴールデンタイムだった。

     実は競技時間はIOC(国際オリンピック委員会)と各国のテレビ局との駆け引きでもある。日本の新聞のテレビ欄を見て気付くように、競技開始は午後9時過ぎが多い。これは冬季オリンピックの注目度が高いヨーロッパ向けの時間設定なのだ。オリンピックは世界のテレビ局の放送権料金で成り立っていると言っても過言ではない。著作権ビジネスなのだ。そのテレビ局の最大手がアメリカNBCだろう。2014年冬のソチ、16年夏のリオデジャネイロ、18年冬の平昌、20年夏の東京の4大会のアメリカ国内での放送権料(テレビ、ラジオ、インターネットなど)を43.8億㌦(1㌦106円換算で4643億円)で契約している。

     日本でオリンピック番組を仕切るのはNHKと民放連で構成するジャパンコンソーシアム(JC)。JCは1984年夏のロサンゼルス以来この枠組みで取り仕切っているが、IOCとの契約は同じ4大会で1020億円の契約。NHK70%・民放30%の負担割合となる。日本はアメリカの4分の1程度なのだ。NBCは全放送権料の50%以上を占めているといわれる。つまり、放送時間の設定について日本がIOCと交渉しても、NBCには到底かなわない、勝てないのだ。「刑事コロンボ」や「大草原の小さな家」など名番組の数々を世に出してきた世界のテレビ業界のリーダーであり、オリンピックの大スポンサーとの自覚もあるだろう。

     ここで一つの心配がある。2年後の東京オリンピックだ。テレビ業界ではよい時間で放送し、CMスポンサーに高く売るというのが日本でもアメリカでもビジネスの鉄則だ。アメリカで人気が高い夏の競技(陸上、競泳、体操など)の決勝の開始時間をアメリカのゴールンタイム(午後8時)に持ってくるようにNBCがIOCにごり押ししたらどうなるか。日本とニューヨークの夏の時差は13時間だ。日本時間で午前9時、勤務時間帯だ。東京オリンピックなのに、「まともな時間」と国民は納得して見るのかどうか。(※写真はアメリカNBCテレビのオリンピック特集サイトから)

⇒20日(火)午後・金沢の天気   くもり

★荒ぶる神の見えざる手

★荒ぶる神の見えざる手

  経済学でよく知られたキーワードに「神の見えざる手」がある。市場経済で個々人の利益追求であっても、社会全体の利益となる。アダム・スミスが『国富論』で提唱 したの考察だ。市場原理に重きを置いたこの言葉は、政府が政策的な介入しなくても需要と供給のバランスは自然に調整されるという意味合いでも使われる。

    先日、金沢大学の元留学生と立ち話をした。実家が上海にあり、正月休みでしばらく中国に帰っていた。「中国はネット通販が盛んだね。NHKのニュース特集でも取り上げられていたよ」と水を向けると。彼女は「そう、父も母も必要なとき以外は外出せずに、ネットで野菜や肉など食材を取り寄せている」と。「食品スーパーもネットで宅配、中国はすごいね」と同調すると、彼女は首を横に振った。「ネット通販は利便性ではないんです。PM2.5がすごくて多くの市民が外出を控えている。健康上の問題なんです」「宅配の車がまたオンボロで排気ガスを出しながら走っている。悪循環ですよ」と。

   さらに「でも、それはまもなく解消するんではないですか。だって、中国はEV(電気自動車)の導入では世界をリードしているでしょう。中国の政府はEVなどを自動車メーカーに対して生産や販売台数の10%を義務づけると日本でもニュースになっている。明るい未来じゃないですか」と話すと、彼女は「煤煙を出しているのは自動車だけじゃないんですよ。工場や各家庭だってそう」「それより、EVが電池切れで止まって、交通渋滞を引き起こせば、さらに煤煙が出るじゃないかと思う。その方が心配」と。ちょっと彼女は考え過ぎかもしれないと話題を変えた。

   電子マネーの話にした。「中国では買い物は8割くらいはスマホ払いだってね。これも日本のニュース番組でやっていたよ。日本は現金主義だし、中国の足元にも及ばないよ」と切り出した。すると、「確かにね。一元コインや五元札を数えるのは面倒なので、スマホ支払いが便利。最近は屋台の焼き芋屋さんでもQRコードですよ」「個人的には、中国のお札は汚いし、ニセ札も多いのでスマホで払えるようになってよかったと思う。でも、私の祖母はスマホを持たないので困っている」と。確かに、スマホしか受け付けない時代になると、大量の支払い難民も出てくるだろう。

     需要と供給の絶妙なバランスが「神の見えざる手」とすれば、アダム・スミスのこの言葉は中国経済においては不都合な現象とイノベーション(技術革新)の絶妙なコラボレーション、これは「荒ぶる神の見えざる手」ではないか。少々乱暴な表現か。

⇒31日(水)午前・金沢の天気    ゆき

    

☆続・冬の電磁パルス攻撃

☆続・冬の電磁パルス攻撃

    放送法施行規則第125、157条では、放送中断が15分以上となった場合には重大な事故として電波監理を管轄する総務省に報告の義務がある。今回の石川テレビと北陸放送の通信障害は10日午後7時ごろから、げさ午前10時ごろまでの応急復旧まで実に15時間におよんだ。

    きょうの地元各紙は今回の雷による放送中断を一面で大きく伝えている。2局が共用している送信鉄塔(160㍍)の高さ130㍍から140㍍の場所で内部のケーブルとアンテナ一部が焦げていた。鉄塔には2系統の配信設備(ケーブル)があり、1系統に問題が生じても、もう1系統を使って放送ができる仕組みになっているが、今回は落雷によって両方とも使用が不能になっていた。きょう午前中、石川テレビは緊急用の仮設アンテナを設置して応急復旧した。しかし、復旧したとは言え、確認のためテレビをつけてみると、画質がザラメ状態で見れたものではなかった=写真・上=。すぐにチャンネルを変えた。

            石川テレビの公式ツイッターでは「【視聴者の皆様へ】この度は、長時間にわたり放送が中断する事態となり、深くお詫び申し上げます。本日の午前10時30分ごろ、仮設アンテナの設置が完了し、地上波放送を再開しましたが、出力の関係で受信環境によっては依然視聴できないことも想定され、完全復旧をめざして全力を挙げております。」と釈明している。

    確かに地元各紙などでは大きく扱われた=写真・下=。問題は視聴者の反応だ。私の仲間内で今回の放送中断のことを話しても、関心度が低い。「そう言えば映ってなかったね」程度なのだ。「あの番組が見れなくて残念」とか「テレビの公共性を考えて、もっとしっかり対応を」などといった声は聞かれなかった。2局同時に放送が15時間も中断したにもかかわらず、である。テレビ局の存在感は一体どこにいってしまったのだろうか。むしろ、放送中断で別の問題が見えてきたようだ。

    それよりも周囲の関心事は今回の大雪だ。上空に強い寒気が来ていて、13日までは降り続くと予報が出ている。一方で、両局は総務省への報告に追われるだろう。また、CMスポンサーに対しどのように弁償するかといった対応もあるはずだ。シンシンと雪は積もっている。焼け焦げたケーブルの復旧作業はこの雪の中、進むのだろうか。他人事ながら、あれやこれやと考えてしまう。

⇒11日(木)夜・金沢の天気      ゆき   

    

     

    

★冬の電磁パルス攻撃

★冬の電磁パルス攻撃

   それにしても冬の雷は怖い。空が光ったとたんにバキバキ、ドンと落ちる。よく聞かされてきたことは、冬の落雷のエネルギーは夏のそれより数百倍も強い。また、雷雲は冬の方が夏より低く、必ずしもタテに落ちるのではなくヨコ、ナナメに落ちるものだ、と。幼いころから雷が落ちる様子を見ているが、「慣れる」ということはない。この歳になっても怖いものだ。

    その雷がテレビ局を襲った。10日午後8時ごろ、帰宅してテレビをつけたが、石川テレビ(フジ系)と北陸放送(TBS系)の2局が映らないのだ。ブラックアウトの状態になってる=写真=。エラー表示が出ていて、「放送が受診できません。リモコンで放送切替や選局を確認ください。またはアンテナの調整・接続を確認ください。雨や雪んどの影響で一時的に受診できない場合もあります」。このエラー表示は、雪が降る日にBS放送が視聴できなくなる場合に表示されることがままある。ただし、地上波では見たことがない。

   この日の夕方から雷音が鳴り響いていたので直感した。「ひょっとして雷の電磁パルスが送信鉄塔を襲ったか」と。理由があった。この2局が同時に映らないということは、2局が共用している金沢市観音町の送信鉄塔に異変が起きたとしか考えられなかったからだ。その異変とはやはり雷だろう。送信鉄塔には避雷針は当然ついているだろうが、冒頭述べたように冬の雷は必ずしも垂直に落ちる訳ではない。ヨコ、ナナメに落ちるケースもある。

   そのことが確認できたのは、北陸放送の公式ツイッターだった。「この度は、送信機器の不具合により長時間にわたり県内の広い範囲で放送が中断する事態となり、誠に申し訳ありません。原因は送信鉄塔への雷の直撃が原因と見られますが、調査しているところです。現在、復旧に向け全力で作業に当たっております。」と伝えている。さらに驚いたのは、金沢市消防局の災害情報(ネット)には「19:36 観音堂町[チ]地内で建物火災が発生しています。」と。落雷で送信鉄塔に火災が発生したとなれば、復旧には当然時間がかかるだろう。

   いまでも断続的に雷が鳴っている。現場検証のため、鉄塔に上れば再度雷による二次災害も出る可能性もある。雷が止むまでは停波が状態が続くのか。まさに、冬の電磁パルス攻撃だ。

⇒10日(水)夜・金沢の天気   ゆき

★白濁りの幸福感

★白濁りの幸福感

  「どぶろく」という言葉を見聞きして脳裏に何が浮かぶだろうか。私は「岐阜・白川郷のどぶろく祭り」と「どぶろく裁判」の2つのキーワードを思い浮かべる。

   もう6年前になるが、2011年10月、白川郷の鳩谷八幡神社の「どぶろく祭り」に参加した。杯を400円で購入し、9杯飲んだところで酔いがぐらりと回ってきたことを覚えている。「どぶろく裁判」は、社会運動家の前田俊彦氏(故人)が公然とどぶろくを造り、仲間に飲ませて酒税法違反容疑で起訴され、「憲法で保障された幸福追求の権利だ」と反論し争った。1989年12月、最高裁は「自家生産の禁止は税収確保の見地より行政の裁量内」との判断を示し、前田氏の上告を棄却した。世の中は移り変わり、農業者が自家産米で仕込み、自ら経営する民宿などで提供することを条件に酒造りの免許を取得できる「どぶろく特区」制度が2003年に始まり、今では地域起こしの食文化資源になっている。

    前書きが長くなった。きょう能登半島の中ほどにある中能登町の天日陰比咩(あまひかげひめ)神社で「どぶろく祭り」が初めて開催されると誘いを受けて出かけた。もちろん、ノーカーで。午後6時、神社拝殿では創作の舞や雅楽「越天楽(えてんらく)」など生演奏で始まり、同40分からは三尺玉の花火が冬の夜空に10発上がり、ムードが盛り上がった。拝殿ではどぶろくが振る舞われ、列についた。禰宜(ねぎ)の方は「50年前は全国で43の神社がどぶろくの醸造免許を持っていたが、現在では30社ほどに減りました。造るには手間はかかるのですが、これは神社の伝統ですからね」と語った。ここで小さな紙コップで3杯いただいた。

   社務所に特設された「どぶろくミュージアム」では、醸造方法や江戸時代から続く歴史を示す古文書の内容について解説があった。神社の酒蔵(みくりや)で造られる=写真=。冬場に蒸した酒米に麹、水を混ぜ、熟成するのを待つ。ろ過はしないため白く濁る。「濁り酒」とも呼ばれる。その年の気温によって味やアルコール度数に違いが生じる。暖冬だとアルコール度数が落ち、酸っぱさが増すそうだ。毎年12月5日の新嘗祭で参拝客に振る舞われる。今年はこれまで最高の333㍑を造った。初詣にかけて「どぶろく参拝」が年々増えているそうだ。

   一つ質問をした。「天日陰比咩神社は2千年余りの歴史をもつ延喜式内社ですが、どぶろくは江戸時代から造られていると説明がありました。どぶろくの歴史は浅いような感じがするのですが」と。すると、解説を担当した禰宜の船木清祟さんは「文書の記録として残っているのは江戸期なんです。天正年(1574)の上杉謙信による能登侵攻で社殿は焼失しており、江戸期以前のどぶろく関連の文書がないのです」と。

   神社境内で、農家民宿を経営する田中良夫さんが、自家製のどぶろくを振る舞っていた。「どぶろく 太郎右衛門」というボトルが販売されていたので買い求めた。農薬も化学肥料も使わない自然農法で栽培した酒米「五百万石」で酒麹をつくり、コシヒカリ、酵母、ミネラル分が豊かな井戸水を使用して醸造している。神社のどぶろくより甘味があった。田中さんは「コシヒカリを入れると甘みがつくんです」と。ここで6杯飲んだ。白川郷での経験から9杯で酔いがぐらりと回ってくるので、ここで自ら「お開き」とした。泊まった民宿では白濁りの幸福感に包まれながら爆睡した。

⇒16日(土)夜・中能登町の天気   くもりのち雨