⇒トピック往来

☆ブリ起こしの雷

☆ブリ起こしの雷

    きのう20日の天気は落雷や突風、急な強い雨が降るとても不安定な天気だった。何しろ、天気予報では能登半島の先端、輪島の上空5千㍍でマイナス30℃以下の真冬並みの寒気が入り込んで、まさに大荒れの天気だった。荒れ模様の天気の中を車で走りながら、ある言葉が思い浮かんだ。「ブリ起こしの雷」。石川や富山など北陸ではこの時期、雷が鳴ると「寒ブリ」が揚がるとの言い伝えがある。

    その言い伝えは的中した。きょう21日朝、能登町沖の定置網で寒ブリ550本が水揚げされ、金沢市中央卸売市場では仲買人たちの威勢のいい声が飛び交い、次々と競り落とされたと昼のニュースで。体長90㌢、重さ10㌔の大物などが揚がっていて、シーズンの先駆けとなったようだ。この時期に能登半島沿岸で水揚げされた重さ7㌔以上のブリを「のと寒ぶり」のブランド名を付けて売られている。10㌔以上ともなると特上品だ。

では、なぜこの時期「ブリ起こしの雷」と言うのか。よく誤解されるのは、雷鳴に驚いて、ブリが能登沖や富山湾に逃げ込んで来るという説。むしろ、時化(しけ)で日本海も荒れるので、イワシといった魚が沿岸に寄って来る。それをブリが追いかけて網にかかるという説の方が納得がいく。

    タイミングよく、「かぶら鮨」の予約販売の案内が郵送で自宅に届いた。このかぶら鮨は、青カブに寒ブリの切り身をはさんで甘糀(あまこうじ)で漬け込む。漬け込みは2週間余り。金沢の冬の味覚の代名詞にもなっている。保存料などの添加物を使っていない手造り限定品なので、「桶上げ」という発送の日が決まっている。価格は簡易箱詰めの3枚入りが5400円、贈答用の化粧木樽詰めの3枚入りが5940円となっている。金沢に住んでいるとこれを食さないと正月が来ない。

    九谷焼の皿にかぶら鮨を盛って、辛口の吟醸酒でも飲めば、天下でも取ったような高揚感に満たされる。最近気ぜわしい浮世のニュースが目に余る。大相撲の横綱・日馬富士が幕内の貴ノ岩に暴行を加えたといわれる問題でテレビの報道番組のキャスターがああでもない、こうでもないと口をとがらせている。「良きに計らえ」とおおらかな心になりたいものだ。正月を楽しみに「12月27日発送分、簡易箱詰めの3枚入り5400円」の注文書をFAXにかけた。

⇒21日(火)夜・金沢の天気    はれ

☆豊穣の海、国難の海

☆豊穣の海、国難の海

   今月6日午前0時を期して日本海側でズワイガニ漁が解禁された。香箱(こうばこ)ガニと呼ばれるメスは来月12月29日まで、オスは来年3月20日までの漁期。きょう8日夕方、近所のスーパーマーケットに季節のものを求めに。こうなると不思議と足取りが軽く速くなる。魚介類の売り場に着くと同じ思いの人たちだろうか、茹でガニのコーナーをじっとのぞき込んでいた。見ているのは産地と値札である。私は迷いなく、能登半島の「蛸島(たこじま)産」のものを選んだ。

   これは蛸島漁港で水揚げされたズワイガニだ。同漁港は能登半島の先端部分にある。金沢から距離にして150㌔、能登沖で漁をする漁船の水揚げの拠点になっている。半島の先端で、水揚げして、陸路で金沢に搬送することになり、海路で金沢港に持ち込むより時間的に速く、その分鮮度が保たれるというわけだ。茹でガニのパックを手にしてレジへ。3980円。価格は去年とほとんど変わらず。旬のものなので確かに高価だ。少し値段が落ちる、来週まで待てるかというとそうでもない。もし時化(しけ)が続いて、漁そのものができなければ、値段どころか、口にも入らない。旬が買い時だ、毎年同じようなことを思って自分を納得させて高値づかみをしている。

    能登のズイワガニには能登の酒がマリアージュ(料理と酒の相性)と勝手に思い込んでいて、同漁港の近くの造り酒屋の「宗玄」と「赤大慶」を予め仕込んでおいた。ぴっちりと締まったカニの身には少々辛口の宗玄、カニ味噌(内臓)には風味がある赤大慶が私の口にはしっくりなじんだ。

    「豊穣の海」を感じる日本海だが、「国難の海」でもある。地元紙は連日のように、スルメイカの漁場・大和堆での北朝鮮漁船による違法操業について伝えている。大和堆は日本海のほぼ真ん中に位置し、もっとも浅いところで水深が200㍍。寒流と暖流が交わる海域でもありプランクトンの豊富な好漁場。日本のEEZ(排他的経済水域)であるにもかかわらず違法操業が続いている。

    北朝鮮の木造漁船はイカ網漁だが、集魚灯が装備されていない。日本のイカ釣り船団(中型イカ釣り船)がやってくると、そのそばに寄って来て網漁を行う。スクリューに網が絡まる事故を恐れる能登の船団などは、北海道沖の武蔵堆へ移動を余儀なくされている。これまでの報道では海上保安庁の取締船が8月までに延べ820隻に警告や散水して退去させたが、今も数百隻が居座り続けているようだ。

    石川県漁協では国への陳情を続け、臨検や拿捕(だほ)といった厳しい取り締まりを要望しているが、違法状態は続いている。弾道ミサイルを日本海に続けさまに撃ち込んでいる北朝鮮の情勢を推し測ると、これ以上の関わりを保安庁としては持ちたくないのだろうか。安倍政権は国難の打破を掲げて、衆院選を断行し再び政権の座に就いた。その公約を日本海で実装してほしい。

⇒8日(水)夜・金沢の天気    はれ

★「イノシシの天下」

★「イノシシの天下」

   「イノシシの天下」という言葉を初めて聞いた。能登半島はマツタケの産地なのだが、このところイノシシがマツタケをほじくって各地で大きな被害が出ているようだ。そのことを、土地の人たちは「もうマツタケは採れない、イノシシの天下や」と嘆いているのだ。

    きょう(3日)能登町でキノコ採りをしている知人から聞いた話だ。アカマツ林の根元が掘られて、毎年採れるマツタケがなくなっていた。根元がほじくられているので、「おそらく来年からは生えてこないだろう」と肩を落とした。あちこちでこうしたイノシシによる被害があり、「能登のマツタケは壊滅だ」という。マツと共生する菌根菌からマツタケなどのキノコが生えるが、イノシシによる土壌の掘り返しで他の菌が混ざるとキノコは生えなくなることが不安視されているのだ。

   春にはタケノコが同じくイノシシに荒らされたとも知人は嘆く。さらに、「ブドウ畑もやられているようだ」と話してくれた。赤ワイン用のソービニオン系の品種を栽培している農家が被害に遭っているという。

   こうしたイノシシの被害に対して、「デンサク」と呼ばれる電気柵を畑の周囲に張り巡らす方法がある。イノシシの鼻の高さの地上40㌢ほどで設定して、イノシシに電気ショックを与えると近寄ってこない。問題もある。面積が限られる畑の場合はそれでよいが、マツタケ山のような広範囲を張り巡らすことはコスト的に難しい。ましてや、農作物と違って、年によって不作の場合もあるキノコの場合、デンサクを設けても労力が報われない場合もあるのだ。

   石川県の「イノシシ管理計画」(平成29年5月)によると、一般にイノシシは多雪に弱く、積雪深30㌢以上の日が70日以上続くことが生息を制限する目安と言われているが、平成以降で「70日」を越える年は平成3年、7年、18年、23年、24年、27年の5回のみで、いわゆる暖冬傾向がイノシシの生息拡大に拍車をかけている。

   能登半島の先端である奥能登地域(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)では平成22年からイノシシによる農業被害が出始め、年々増えている。このイノシシ被害に危機感を持った人々の中には狩猟免許を取って、鉄檻を仕掛けて捕獲に乗り出すケースも増えている。自治体ではイノシシの捕獲報奨金として1頭当たり3万円(うり坊など幼獣は1万円)を出している。
輪島市で捕獲されたイノシシは平成28年度690頭(同27年度117頭)、珠洲市で平成28年度432頭(同27年度119頭)と格段に増えている。

   問題は、捕獲頭数が増えたから頭数が減ったといえるのか。その逆だ。絶対数が増えているから捕獲頭数が増えたにすぎないのだ。イノシシのメスは20頭の子を産むといわれる。「イノシシの天下」。この現実をどうすればよいのか。

⇒3日(祝)夜・金沢の天気   はれ

   

★大学連携の社会実装、11年目

★大学連携の社会実装、11年目

   日本が直面する課題、それは人口減少、急速な高齢化、老朽化するイ都市や道路のインフラ、活力を失う地方、荒廃する農地、財政を圧迫する社会保障全般など挙げればきりがない。まさに日本は課題先進国である。物質的な豊かさを享受した先進国ならではの解題でもある。むしろ、こうした課題の解決策を探ることができる日本は「課題解決先進国」でもある。

    こうした課題解決を目指すべき社会を「プラチナ社会」と定義し、地域でさまざまイノベーションに取り組んでいる自治体や企業、団体を表彰するのが、民間団体「プラチナ構想ネットワーク」(会長:小宮山宏元東京大学総長)だ。ちなみに、金のようにギラギラとした欲望社会を目指すのではなく、プラチナのようにキラキラと人が輝く社会づくりを理念に掲げている。その「プラチナ大賞」の第3回大賞・総務大臣賞(2015年)に、珠洲市と金沢大学が共同でエントリーした「能登半島最先端の過疎地イノベーション~真の大学連携が過疎地を変える~」が選ばれた。プラチナ構想ネットワーク事務局から、受賞から2年間の取り組みを報告してほしいと依頼され、過日(10月26日)、同市の担当者と2人で東京・イイノホールでに出かけた。
  
   以下、報告の概要だ。金沢大学から160㌔北、半島の最先端で珠洲市から廃校舎をお借りして、能登学舎を設立した。最初は、三井物産環境基金を活用して、市民交流と研究を兼ねた拠点である「里山里海自然学校」というプログラムをつくった。博士研究員を1人配置して、市民と一緒になって生物調査や田んぼの生き物など行った。研究者と市民がともに調査に参加する、オープンリサーチという手法だ。その翌年2017年に文科省の事業費で「能登里山マイスター養成プログラム」という社会人を対象とした人材養成プログラムをスタートさせた。

   能登の農業や森林や海の資源、文化資源を活用して地域の生業(なりわい)づくりをしていく若者を育てるというコンセプトだ。ここに若手教員や博士研究員らスタッフを増員して、独自の研究調査も実施している。能登における里山里海の価値を再評価すること、能登における持続可能な到達目標SDGsをどのように進めていくか、国連のFAOが認定する世界農業遺産のグローバル連携、そしてベンチャー・エコシテム、つまり起業環境の構築を併せてミッションとしている。マイスタープログラムの実施に当たっては、同市の自然共生室との連携を密にしている。大学の研究調査の総合窓口でもある。こうした大学の専用の窓口を持つ自治体は全国でも少ない。

   マイスタープログラムの卒業要件は卒業課題研究だ。15分の公開での発表を審査する。このプレゼンまでに調査やヒアリング、発表の技を磨くわけだが、受講生全員が発表にこぎつけることができるわけではない。人前で発表し、卒論の審査にパスしたという実積が本人のモチベーションをとても高めることになる。卒業課題研究のテーマは、農業に関することが25%ともっとも多く、次が林業、3番目が起業などとなっている。ツーリズムや子育て環境づくりなどとても多彩なテーマだ。144人の修了生を輩出したが、その後も自らの課題研究を極めて実装するケースが多く、社会的ビジネスとして起業したものが11人、農林漁業の担い手として14人が新規就業している。能登でノベーションを担うのは、彼らだと確信している。

   同市の担当課長はこの秋に実施した国際芸術祭に触れ、アートの地域インパクトの大きさを実例を挙げて報告した。さらに市長のビデオメッセージが会場に流してもらった。20分余りの報告だったがコンパクトにまとまったものとなった。会場の最前列で小宮山会長がうなずいて聞いておられる様子が見えた。

   同市と金沢大学の連携事業はもう11年になる。地域と大学との連携は型にはまったものではない。「大学でしかできないことを、大学らしからぬ方法で社会実装する」。いつもの肝に銘じていることである。

⇒1日(水)朝・金沢の天気   はれ

☆「選挙一過」の光景

☆「選挙一過」の光景

   23日、台風21号が北陸を去ってしばらく青空がのぞいた。すっきりと晴れ渡った金沢の家並み、山河はまさに台風一過の透明度の高い風景だった。衆院総選挙は与党が定数の3分の2(310議席)を超える議席を獲得した。そこから見える光景もまた、くっきりと見える「選挙一過」の政治の光景だ。

    すっきりと見えた山が「株高」だった。23日、日経平均株価は2万1696円と上昇し、ことしの最高値を更新し29年ぶりの高値水準、15営業日連続の値上がりは57年前の14営業日連続の値上がりの記録を超え「史上最長」と、メディアは報じている。「天晴(あっぱれ)」と言うべきか。

   すっきりと見えた公約は消費税率を10%に引き上げること。国の借金減らしに当てる分を削って、幼児教育の無償化などに使うと宣言して安倍総理は解散に踏み切ったのだから、これは間違いなく実行されるだろう。曇り空も見える。では、消費税の使い道を見直すことで財政再建が遅れることを国民にも国際的にも説明責任がある。もう一つ見逃せないのが日銀による大規模な金融緩和が継続されるということだ。

   選挙一過のもう一つの光景は北朝鮮。首班指名を行う特別国会は来月1日に招集され、第4次安倍内閣がスタートする。その最初の大仕事が「トランプ大統領との外交展開」だと読む。5日に2泊3日で日本を訪れるトランプ大統領はゴルフだけをするわけではない。北朝鮮問題、とくに「斬首作戦」の日程の双方合意ではないかと個人的に勘ぐっている。そう推測する理由は、今月20日の各社が伝えている、安倍総理がトランプ大統領を護衛艦「いずも」(全長248㍍)に招待するというニュースだ。「いずも」は海上自衛隊最大級の護衛艦だ。報道各社は「強固な日米同盟をアピールする狙い」など報じているが、本来の狙いは「朝鮮半島有事の際はこの護衛艦を出す」とアピールするためではないか。

   アメリカ軍の機関紙「星条旗新聞(Stars and Stripes)」は今月23―27日で、非戦闘員救出作戦(NEO)訓練を実施すると報じている(9月12日付)。大使館員やアメリカ軍の家族、民間人らが旅券などを持って韓国内に18ヵ所の避難所に集まり、航空機や船舶で日本に逃げる退避訓練だ。その記事の見出しがすべてを物語っている。「US military plans semiannual evacuation drills against backdrop of North Korea tensions」。通常の訓練とは言え、朝鮮半島有事を想定した訓練は半年に一度行われているのだ。アメリカ軍はすでに朝鮮半島沖に戦略爆撃機や原子力潜水艦、空母などを展開している。

   このような状況で、「いずも」にトランプ大統領を招待することは、「斬首作戦」を決意する大統領に対し、後方支援の最大のアピールになると安倍総理は考えているのではないか。衆院総選挙を早めた理由も北朝鮮情勢を計算に入れたものではなかったか、と。これでは勘ぐりである。

⇒24日(火)朝・金沢の天気    くもり

    

☆さいはてのアート <下>

☆さいはてのアート <下>

   先日(今月7日)、奥能登国際芸術祭の実行委員長でもある泉谷満寿裕・珠洲市長と立ち話だったが、今回のアートフェスティバルについて話をうかがうチャンスに恵まれた。「すごい反響ですね」と水を向けると、泉谷氏は「おかげさまで鑑賞者は目標の2倍の6万人を超えそうな勢いで、手応えを感じています」と口元がほころんだ。

    ~芸術はセットで一つ、可能性の示唆「Something Else is Possible」~

    次に「トリエンナーレ(3年に一度の美術展)で次回は2020年になりますが、『奥能登』と銘打っているので2市2町(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)へと会場を広げるお考えはあるのですのか」と質問した。「さいはてのアートなので、他の自治体とも連携してできればさらにアートの面白味がでてきます。しかし、運営資金を出し合うとなると途端にハードルは高くなります」と今度は口元が引き締まった。1週間後の14日夜、再び泉谷市長にお目にかかった。地元のキリコ祭りの会場で、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」で知られる新潟県十日町市の関口芳文市長の訪問を受けて、市内を案内されていた。珠洲市と十日町市の連携イベントを模索しているのかと直感したのだが。

   鉄道の能登線の終着駅だった旧・蛸島(たこじま)駅から数百㍍点前、かつての線路上にカラフルな作品がある。「なにか他にできる Something Else is Possible」(作者:トビアス・レーベルガー)。何か可能性を引き出してくれそうな、響きのある言葉だ。ドイツ人作家であるレ style=”float:left; margin: 5px;”>    ーベルガー氏が能登に贈ったメッセージではないだろうか。「さいはて」であるがゆえに出来ることがある、と。

    黄色からピンク色への暖色に塗られたトンネルのようなカタチをした作品だ。レールの上を意識したのだろうか。そのトンネルの出口付近に双眼鏡を置いてあり、のぞくとネオンサインの看板が見え、そこに「Something Else is Possible」の文字が描かれている。ボランティアの男性ガイドによると、ネオンサインの看板とセットで一つの作品なのだと解説してくれた。なるほど。肉眼であれ、双眼鏡であれ、近くでも遠く離れていても「作品の場」は構成できる。なるほど、芸術はセットで一つだ。 

   もう一つセットがあった。作品から100㍍ほど山側の線路上に錆びた電車が1車両ある。2005年4月に穴水駅以北の能登線が廃止された後、地元の有志が買い取ってイベントなどに使っていた。が、最近ではガラスが割れ、錆びなどの痛みも激しく、利用されず放置状態となっている。そこで、錆びた車両、カラフルなトンネル、ネオンサインの看板と3点セットで見てみると、過疎の現実からアート表現へ、過去・現在・未来へ、絶望から可能性へ、など一本のレールの上で物語が構成されていることに気付く。

   「さいはて」のアートは22日に千秋楽だ。大型台風が来ることも予想される。衆院選総選挙の投票日も重なって、慌ただしさの中でフィナーレを迎える。2020年、どのような運営コンセプトで開催され、作品が鑑賞できるのか。

⇒20日(金)夜・金沢の天気  くもり 

★さいはてのアート <中>

★さいはてのアート <中>

   これはパロディ・アートだと直感した。最初は笑いが込み上げ、後は少々悲しくなる現実と直面するのがこの作品だ。「神話の続き」(作者:深沢孝史)は笹波海岸に創作された「鳥居」である。青空と青い海に映える白い鳥居は印象深い。説明看板には平成29年建立の「環波(かんなみ)神社」で、海と漂着物を信仰する神社、と記されている。

    ~現代の漂着神は海の向こうからの廃棄物、文明の大いなるパロディ~

    2礼2拍手1礼で鳥居をくぐった。よく見ると、鳥居の柱やしめ縄まで、すべて廃棄物なのだ。ボリタンクやペットボトル、漁具など。しかも、ハングル文字や中国語、ロシア語の表記のものが目立つ。日本語のものもある。しめ縄は廃棄された漁網だろうと想像がついた。この周辺で集めた廃棄物で相当の量に驚く。海にはこれほど廃棄物が漂着しているのか、と。

   かつて能登には寄神(よりがみ)信仰があった。文明が大陸からもたらされた時代、海から漂着した仏像や仏具などは神社にご神体として祀られ、漂着神となった。神は水平線の向こうからやってくるという土着の信仰だ。時代は流れ、現在の寄神は最良の廃棄物なのである。その廃棄物で造った鳥居に2礼2拍手1礼するのかと、たっぷりと皮肉が込められていて、思わず笑ってしまう。

   作者の深沢氏はさらに突っ込んだ解釈でこう述べている。「人間たちは、電気を供給する役目を終えてあまりある力を持つ廃棄物=神様を埋葬するために、ガラスの棺に納め、さらに土で周りを囲い、地の底まで埋めて供養することにしました」(説明看板)。廃棄物は海だけでなく、陸にもある。それは、放射性廃棄物だと暗示している。

         この作品を見ながら、ふと、国連環境計画(UNEP)のアルフォンス・カンブ氏の言葉を思い出した。カンプ氏が「いしかわ国際協力研究機構(IICRC)」の所長時代に金沢で知り合い、何度か能登視察に同行したことがある。廃棄物が漂着した海岸を眺めながら、「日本海の環境を守る能登条約が必要ですね」と。もう10年前のことだが、カンプ氏は日本海は生け簀(いけす)のような小さな海域であり、このまま放置すれば大変なことになるとカンプ氏は危機感を抱いていた。地中海の汚染防止条約であるバルセロナ条約(1976年)が21ヵ国とEUによって結ばれ、地中海の海域が汚染されるのを何とか防いでいる。「能登条約」、遅まきながらその必要性を実感した。

⇒18日(水)朝・金沢の天気   はれ

☆さいはてのアート <上>

☆さいはてのアート <上>

   能登半島の先端・珠洲市で開催されている「奥能登国際芸術祭2017」(9月3日―10月22日)にこれまで4度訪れた。その中から自らの私の感性に合った作品をいくつか紹介する。

     ~海沿いの寂れた小屋と捨てる貝殻が作品になる「サザエハウス」~

   前回ブログで紹介した珠洲市馬緤のキリコ祭り(13、14日)に参加した後、国際芸術祭のポイントをいくつか巡った。途中、沿道の広場で衆院選の候補者用の掲示板があり、近所のおばさんたち3人が候補者ポスターを見ながらにぎやかに話していた。たまたま、通りかかったので、聞き耳を立てた。石川3区(能登地区)では自民の新人(48歳)、希望の元職(43歳)、共産の新人(36歳)の3人が立候補している。「今回の選挙は若い人ばっかりやね。元気があっていいね」と笑っている。すると、一人が口元をほころばせている自民候補のポスターをのぞき込んで、「この人、ちょっと歯並びがよくないね、前歯がガタガタや」と。するともう一人が同じく歯を見せて笑っている希望元職を指さして、「この人はしっかりした歯やわ」と比較した。あとは雑談で終わったようだ。人物は見た目の印象が心に残る。ひょっとして歯並びが投票行動の決め手になるのかもしれないと考えさせられた。本題から話がずれた。

    「サザエハウス」(作者:村尾かずこ)。海沿いの一軒の小さな小屋の壁面を膨大な数のサザエの貝殻で覆っている。よく見るとサザエだけでなく、アワビや巻貝の殻もある。また、同じサザエでも貝殻のカタチが違う。殻に突起がくつもあるもの、まったくないもの、それぞれにカタチの個性がある。サザエは一つ一つがその生息地(海底の岩場の形状など)に適応して形づくられた、完成度の高いアートなんだと改めて思えるから不思議だ。靴を脱いでハウスの中に入ると今度はサザエの貝殻の入ったような白色の曲がりくねった世界が広がる。

   入り口にいたシニアの男性ボランティアに、サザエの殻はどこから集めたのかと尋ねた。すると「全部で2万5千個、全部市内からですよ」と少し自慢気に。聞けば、アーチストの村尾氏との地元の人たちの打ち合わせで、今年6月から一般家庭や飲食店に呼びかけて集め始めた。貝殻の貼りつけ作業が7月からスタートし、作品のカタチが徐々に見え始めると、集まる数も増えた。当初から作品づくりを見守ってきたという男性ボランティアは「サザエの中身は食べるもの、殻は捨てるものですよ。その殻が芸術になるなんて思いもしなかった。殻を提供しただけなのに地元は参加した気分になって、(芸術祭で)盛り上がってますよ」とうれしそうに話した。

   「サザエハウス」の外観は全体に白っぽい。カメラを向けていると、赤いスカートの女性が通り過ぎたのでシャッターを押した。赤と白のコントラストが鮮やかに映った。半島の先端、さいはてのアートがまぶしい。

⇒16日(月)午後・金沢の天気   くもり

★義経伝説とキリコ祭り

★義経伝説とキリコ祭り

  きのう(13日)ときょう、能登半島の先端・珠洲市の馬緤(まつなぎ)という集落で伝統の秋祭りがあり、大学の教員スタッフや学生5人でボランティアに出かけた。祭りのボランティアというのは、能登で「キリコ」と呼ぶ高さ12㍍にも及ぶ奉灯を動かす人手が足りず、集落に住む知人から「5、6人、祭りに来て」とSOSが入った。

  夜にキリコが沿道を動き始めると家々の人々は外に出てきて、巡行を嬉しそうに眺める。キリコは集落の誇り、あるいは自慢でもあるのだ。ところが、過疎化で若者の絶対数が足りない。でも、集落のシンボルでもあるキリコは出したい、そこでお声がかかるというわけだ。ただ、私自身がキリコ祭りが好きなので、還暦を過ぎても呼ばれればひょいひょいと出かける。

    この馬緤集落は、キリコに描かれる絵が面白い。源義経の「八艘跳び」の絵や義経と弁慶の絵=写真=なのだ。このキリコ絵の作者であり、祭りに誘ってくれた田中栄俊氏(元珠洲市教育長)が馬緤集落と義経伝説について語ってくれた。

  平氏と源氏が一戦を交えた壇ノ浦の戦い(1185年)で功名を上げた義経は京に帰り、敵方だった平時忠(たらいのときただ、平清盛の後妻である時子の弟)の娘を妻に迎える。義父である時忠は武士ではなく、「筆取り武士」と呼ばれた文官だったこともあり、死罪ではなく流刑となる。その配流先が能登だった。間もなくして、義経も兄・頼朝との仲違いで追われた。義経は奥州・平泉に逃げ延びる途中に加賀の安宅の関、そして能登に流された時忠を訪ね面会した。その場所が馬緤集落なのだ。

  義経の一行がここで滞在するため、馬を繋いだので、「マツナギ」という地名になり、その後「馬緤」の漢字が当てられた。馬に与えるエサがなかったので、海藻の神馬藻(ギバサ、ホンダワラの一種)を村の人が与えた。土地の人は義馬草(ぎばさ)と漢字を当てている。では、弁慶はどうか。「安宅の関」ほどの活躍はないが、能登では水路の石を弁慶が担いで脇によけたと言われる「弁慶石」がある。もう一人、常陸坊海尊は義経一行と別れて能登の山に住み着き修行に励んだ。その山は「山伏山」といわれている。能登にはこうした義経にまつわる伝説が多い。この地域には時忠の子孫とされる人たちもいて、平氏と源氏の伝説が共存する里でもある

  祭りには3基本のキリコが舞った。担ぎ手はシニア世代が多いが、元気がいい。伝説に彩られた地域の「祭りパワー」を感じた。

⇒14日(土)夜・金沢の天気     くもり

★「ごちゃごちゃ選挙」の行方

★「ごちゃごちゃ選挙」の行方

   きょう10日、衆院選の公示、総選挙がいよいよ始まったというか、「ごちゃごちゃ選挙」がとりあえず始まったという印象だ。夜、帰宅すると「投票のご案内」という金沢市選挙管理委員会からの郵便はがきが届いていた。中を開いてみると、期日前投票や不在者投票のことなどが細かく記されていて、なおさら「ごちゃごちゃ感」が募った。

    ごちゃごちゃ選挙の印象はどこが理由なのか、自分なりに点検してみる。第一に争点がどこにあるのか分からない。安倍総理は「国難突破解散」と称して、北朝鮮の核実験・弾道ミサイルの発射に対応した体制づくりと消費税を10%に増税し、幼児教育や保育の無償化など少子化対策に回すと争点を掲げた。野党は増税の凍結を訴えるが、それよりも「解散そのものが森友・加計隠しだ」とのボルテージが高い。政策論争が聞こえない。

   二つ目に、「政権選択選挙だ」と希望の党の小池代表氏は「反安倍」を打ち出したが、肝心の希望の党が総理候補を掲げずに選挙戦に臨んだ。これでは、有権者は政権選択ができない。三つ目が、立候補者そのものの「ごちゃごちゃ感」だ。民進党の出身者の多くが希望の党に鞍替えしたが、政策の調和がはっきりしない。希望の党の公約には「9条を含め憲法改正論議を進める」と明記されているが、鞍替えした中には与党の安保法制や改憲に一貫して反対を叫んできた候補者もいる。地元の選挙でたとえると、今回石川2区で希望の党から立候補した柴田未来氏は弁護士で、昨年7月の参院選では民進党から立候補した。そのとき、金沢市内での街頭演説を聴いたが、「憲法の理想を現実に合わせて引き下げるべきではない」と強調していて、さすがに弁護士だけあって護憲と安保法制の反対の信念は筋金入りだと印象を強くしたものだ。

   きょうの公示、すっきりしない中でも、さまざまな現象が起きている。日経平均株価は6営業日連続の値上がり、132円高い2万823円で今年の最高値となった。これは選挙で政権交代が起きて政治が刷新されるとの期待値なのか、どうか。株式相場の世界では「うわさで買って、事実で売る」と格言があるらしい。うわさ=期待で株価は上がり、結果で売られて下がる。そんなパターンになるのかどうか。ただ、今回の上げは選挙というよりアメリカの景気が連動しているようだ。どこに投票するか、誰に投票するか、秋の紅葉を散策しながら思案したい。

⇒10日(火)夜・金沢の天気   はれ