⇒トピック往来

★持続可能な千枚田の風景~下

★持続可能な千枚田の風景~下

     輪島市白米町の千枚田の知恵と工夫は現代も生きる。棚田の中腹を貫く道路、国道249号にそれが見て取れる。今でも地滑り地帯であることから、斜面地への圧力を軽減する工夫がほどこされている。軽量の発泡スチロールのプロックを道路の盛土材として使用し道路全体を軽量化している。EPS(Expanded Polystyrene)工法と呼ばれ、完了した1987年には日本で初の施工例として紹介された。

  知恵と執念、そして感謝の念で継承する水田開発の歴史遺産

   しかし、農業の担い手の減少、若者の農業離れが現地でも進み、1004枚の棚田をどう維持するのか。そこで行政と地元の人たちが考えたのが、棚田オーナー制度だった。2007年から始めて、今では毎年100人ほどの会員が参加する。年間2万円で「マイ田んぼ」を得て、年間7回の作業(田起こし、あぜ塗り、田植え、草刈り3回、稲刈り)に参加する。会員が都合で参加できないときは、地元のグループ「白米千枚田愛耕会」が作業をカバーしてくれる。9月の収穫が終わると、精米10㌔と山菜が届けられる。休日に家族連れでやってきてマイ田んぼを楽しそうに耕す光景はグリ-ンツーリズム​でもある。

   収穫が終わると、千枚田は夜の観光地へとステージが変わる。畦道に取り付けられた2万5千個のLED「ペットボタル」がきらめく=写真・上、輪島市公式ホームページより=。棚田の夜を彩るイルミネーションイベントは2011年秋から始まり、毎年10月から3月まで楽しむことができる。

   毎年12月5日にこの地域の農家では農耕儀礼「あえのこと」が執り行われる。稲作の恵みを与えてくれた「田の神さま」にこの1年の田んぼの作業と収穫を報告し、ごちそうでもてなす=写真・下=。目が不自由とされる田の神さまを丁寧にもてなす「独り芝居」だ。先祖から受け継ぐ感謝の念でもある。あえのことはユネスコの無形文化遺産に2009年に登録されている。

   2011年6月、世界農業遺産に「能登の里山里海」が選ばれ、FAOの当時のGIAHS事務局長パルヴィス・クーハフカン氏が千枚田を視察に訪れた。案内役の輪島市長から説明を聞き、「すばらしい景観と同時に農業への知恵と執念を感じる。能登の千枚田は持続可能な水田開発の歴史的遺産だ」と印象を述べていた。

⇒17日(水)朝・金沢の天気      はれ

☆持続可能な千枚田の風景~上

☆持続可能な千枚田の風景~上

   ことしの梅雨は過激だ。降るとなる激しい。きょう16日も金沢地方気象台は金沢など加賀地方で昼過ぎから夕方まで急な強い雨や落雷があると注意警戒情報を出している。今月11日に北陸は梅雨入りしたが、すでに石川県内の各地で土砂崩れなどが起きている。

           深層崩壊から棚田をよみがえらせた2百年のレジリエンス

   雨による土砂崩れをとくに警戒しているのは能登半島の尖端部分の日本海に面した、いわゆる外浦(そとうら)に住む人たちだろう。防災科学技術研究所「地滑り地形分布図データベース」によると、過去に起きた土砂崩れ現場は能登半島ではこの外浦と石川県と富山県の県境に集中している。滑りやすいリアス式海岸の地形であることから大雨による土石流や地震による土砂災害、火山岩でできた凝灰岩の風化など要因がある。能登半島の里山里海をテーマに調査にでかけるとこの地に生きる人々の知恵に驚かされることもある。 

   輪島市白米町の千枚田は1004枚の棚田が海に向かって広がる=写真・上=。2001年に国の名勝に指定され、全国有数の観光地としても知られる。この地も地滑り地帯で、地元で語り継がれる「大(おお)ぬけ」と呼ばれる大規模災害が1684年(貞享元年)にあった。今の言葉でいう深層崩壊だ。その崩れた痕跡は今でも地肌がむき出しになった山側の斜面から見える。そして、田んぼのところどころに石に転がっていることからも、当時の様子が想像できる=写真・中=。その土砂崩れ現場を200年余りかけて、棚田としてよみがえらせた。

   深層崩壊が起きた理由の一つが山からの地下水が地盤を軟弱化させた。棚田を再生するあたっては、逆にその地下水を田んぼに流し込み、その水がすべての田ぼに回るように水路設計が施された。つまり、用水からの分岐ではなく、田から田への水の流れである=写真・下。このため、地域の人たちは田起こしや田植えといった作業をほぼ同時に行うことで水の回しもよくすることができた。

           こうした知恵と工夫で災害地を生産地に回復させた、いわゆるレジリエンス(resilience)の事例として、国連食糧農業機関(FAO)が認定する世界農業遺産(GIAHS)で評価されている。

⇒16日(火)午前・金沢の天気    はれ

☆「工芸の至宝」が金沢にやってくる

☆「工芸の至宝」が金沢にやってくる

   オープンを持ち望んでいる施設が金沢にある。同市出羽町に開館する国立工芸館。我が国で唯一の工芸を専門とする国立美術館となる。皇居の近く東京・千代田区北の丸公園にある東京国立近代美術館の分館である工芸館だった。地方創生の一環として東京に集中する国立の機関を地域に移す国の施策の一つとして金沢に移すことになった。移転を機に、分館から独立した国立美術館となる。石川県と金沢市が新たに受け入れの施設を用意した=写真=。

   国立近代美術館工芸館では所蔵する明治以降から近現代の陶磁や漆工、染織、金工、木工、竹工、ガラス、人形、工業デザイン、グラフィック・デザインなどの作品を展示してきた。そのうち作品1900点余りを金沢に移す。うち1400点は人間国宝(重要無形文化財保持者)や日本芸術院会員の作品で、さらに日本の工芸の歴史を語るうえで欠かせない作品が集まる。日本文化である工芸の至宝の集積がやってくる。まさに「工芸のナショナルセンター」(石川県公式ホームページ)だ。

    自身が工芸に興味を持つきっかけは35年余り前、新聞記者時代に輪島の支局に赴いたときだった。輪島塗を創る作家や職人、塗師屋(ぬしや)と呼ばれる漆器の製造販売を手掛ける人たちへの取材を通じて、ものづくりの仕組みや工芸品の見立てというものを習った。漆芸の人間国宝・松田権六氏(1896-1986)を取材したのもこのころだった。「目を肥やす」という言葉があるが、実物を見なければ理解できない作品の価値、歴史に磨かれた輝きがあるのだと教わった。

   最近と言っても2017年1月だが、金沢にある石川県立美術館で国立近代美術館工芸館が所蔵する名品展を鑑賞した。お目当ては松田権六作品「蒔絵槇柏文(しんぱくもん)手箱」だった。黒漆に金蒔絵や貝殻を埋め込む螺鈿(らでん)などの加飾技法が精緻に施されている。人間国宝になった1955年の作品だ。この作品を含め国立近代美術館は松田権六作品を35点も所蔵している。金沢出身でもあるという縁で、ぜひオープンのあかつきには35点すべてを展示する特別展を企画してほしいと願っている。

   すでに完成している洋風の建物はもともと兼六園の近くにあった明治期の建物(旧陸軍の指令部庁舎)を移築し再建したもの。建物自体が国登録有形文化財でもある。出羽町周辺は、兼六園を中心に歴史的建物や文化施設が集積していて、緑に包まれた文化ゾーンでもある。金沢21世紀美術館も近くにある。建物など景観を楽しみ、作品が鑑賞できること待ち望んでいる。ただ、東京オリンピックに合わせての開館予定だったが、新型コロナウイルスの影響でオープンの日程はまだ決まっていないようだ。

⇒6日(振休)午後・金沢の天気   くもり時々あめ

★パンデミックの世に響く「アメージング・グレース」

★パンデミックの世に響く「アメージング・グレース」

   新型コロナウイルスによる世界の感染者は250万人を突破し、死亡者は17万人を超えた。死亡者のうちアメリカがもっとも多く4万4千人、イタリア2万4千人、スペイン2万1千人、フランス2万人、イギリス1万7千人と続く(ジョンズ・ホプキンス大学CSSEホームページ)。今もアメリカやヨーロッパのパンデミックの中で多くの人々はsocial-distance(社会的距離)を求められ、家で過ごす日々を送る。

   イタリアのテノール歌手、Andrea Bocelli(アンドレア・ボチェッリ)氏が現地今月12日、キリストの復活祭「イースター」に、ミラノのドゥオーモ大聖堂で無観客のソロコンサートを開いた。テーマは「Music For Hope」。その様子がユーチューブで配信され、再生回数は3800万回(22日現在)を超えている。

   コンサートはドゥオーモ大聖堂のオルガンの伴奏で「パニス・アンジェリクス」や「アヴェ・マリア」など4曲を歌った後、大聖堂を背に賛美歌「アメージング・グレース」を熱唱する。黒の蝶ネクタイ、盲目のボチェッリ氏がスタンドマイクの前まで一歩一歩進み歌い始める。じっと聴いていると、目の前に光が差し込んでくるようで感動を覚える。

   「アメージング・グレース」を歌う映像では、人のいない閑散としたパリ、ロンドン、ニューヨークの街も映し出される。世界各地でロックダウン(都市封鎖)が強いられ、身近で亡くなった死者を葬る場に立ち会うこともできない人々の嘆きはいかばかりか。そんな中で、人々はネットでこの歌を聴き、涙しながら心を一つに結んでいるのではないだろうか。そう思えてならない。動画のコメントにはコロナ感染で亡くなした肉親への哀悼の気持ち、そしてボチェッリ氏への感謝の言葉が連綿と連なる。
(※絵はミケランジェロ「アダムの創造」、2006年1月撮影) 

⇒23日(木)未明・金沢の天気    くもり

☆「巣ごもり」脱し「のとキリシマツツジ」へ

☆「巣ごもり」脱し「のとキリシマツツジ」へ

        新型コロナウイルスの感染拡大の影響で外出を控える風潮のことを「巣ごもり」という言葉で新聞やテレビメディアが紹介している。もともとは、鳥が巣の中に入ってじっとしていること、あるいは、冬を越すため虫などが土の中にもぐったままでいることの意味だ(三省堂『現代新国語辞典 第六版』)。なかなか言い得て妙かもしれない。

   この「巣ごもり」現象から派生して「巣ごもり消費」「巣ごもりグルメ」「巣ごもり銘柄」などさまざまな言葉が出てきているから面白い。確かに、近所でも宅配のトラックやバイクが普段より多く目にする。また、自身もスーパーマーケットでこれまで買わなかったカップ麺を手に取ったり、酒類などを買い込んでいる。まさに「巣ごもり消費」にシフトしてる。石川県白山市に本社があるドラッグストア(東証一部)は昨日の終値が前日より10%値を上げた。これは「巣ごもり銘柄」だろう。

   巣ごもりと言っても、鳥や虫のようにじっとしているわけではない。テレビを視聴したり、ネット検索など情報を得よう人は動いている。ネットを閲覧していて、目にとまったニュースがあった。19日に民放連(民間放送連盟)の大久保会長(日テレ会長)が記者会見し、コロナ感染拡大の影響で、テレビ視聴率が上昇しているのかとの記者からの質問に、「ここ2、3週間の視聴率などを見ていると、少し全世帯視聴率が上がっているのではないかと言うふうにテレビの編成の責任者が言っていたことを聞いたことがあります」と答えていた(19日付・スポーツ報知Web版)。これは「巣ごもり視聴」と言っていいだろう。

   巣ごもり視聴がトレンドかもしれないが、気になるのは、テレビCMが「ACジャパン」(公共広告機構)ものがやたらと多いと感じることだ。とくに、昼から夕方にかけてはスポットCMがつきにくくなっているのだろう。今月11日付のこのブログでも述べたが、電通がまとめた『2019年 日本の広告費』によると、通年で6兆9381億円で前年比101.9%と、8年連続のプラス成長。消費税率アップにともなう個人消費の落ち込みの中でも、全体を底上げしたのがインターネット広告費で、初めて2兆円超えてトップに。一方、テレビ広告費は減り、首位の明け渡した。これを電通は「広告業界の転換点」と伝えているが、その実感も伝わってきた。

  巣ごもりばかりでは気が滅入るので、きょう花展を見に金沢市の「しいのき迎賓館」に出かけた。深紅の花をつける「のとキリシマツツジ」=写真=。本来は5月に奥能登で見頃を迎えるのとキリシマツツジだが、花展を実施している地元のNPO法人と石川県立大の研究者が協力して開花時期を調整し、2ヵ月早く8分咲きのものが鑑賞できるようになった。深紅のツツジに生命力を感じる。「コロナウイルスなんかに負けるな」と励まされているようで、心が温まる。

⇒20日(金・祝)夜・金沢の天気   くもり

★「広告業界の転換点」 ネットがテレビを抜く

★「広告業界の転換点」 ネットがテレビを抜く

   きょうは「3月11日」。東日本大震災が起きて満9年になる。震災発生時、私は大学の公開講座で社会人を対象に広報の在り方について講義をしていた。テレビ速報を見た講座の担当教授が血相を変えて講義室に駆け込んできて、「東北が地震と津波で大変なことになっている」と耳打ちしてくれた。受講者には私から東北で地震があったことを口頭で伝えた。自宅に戻りテレビ画面でその惨状を見て愕然とした。

   2ヵ月後の5月11日に仙台市と気仙沼市を調査に訪れた。当時、気仙沼の街には海水の饐(す)えたような、腐海の匂いが立ち込めていた。岸壁付近では、津波で陸に打ち上げられた大型巻き網漁船が横わたっていた。この目で現場を見て、改めて津波のすさまじさを思い知らされた。死者・行方不明者は1万8千人、犠牲者へ哀悼の意をささげたい。

       「ついにこの日が来たか」と感じたニュースがあった。メディア各社が報じている、電通がまとめた「2019年 日本の広告費」によると、通年で6兆9381億円で前年比101.9%と、8年連続のプラス成長だった。不透明な世界経済や相次ぐ自然災害、消費税率アップにともなう個人消費の落ち込みや弱含みのインバウンド消費など厳しい風向きの中でも、インターネット広告費が初めて2兆円超えてトップの座に躍り出て全体を底上げした。一方、テレビ広告費(1兆8612億円)は減り、首位の座をネットに明け渡した。電通は「広告業界の転換点」と伝えている。

  テレビ広告費ついてもう少し詳細に見てみる。テレビ広告費は地上波放送と衛星放送を合わせた数字だ。対前年比で言えば97.3%だった。地上波単体だと1兆7345億円で対前年比97.2%となる。スポット広告は、軽減税率関連やキャッシュレス関連のCMが増加した一方で、スポット全体としては、台風などの自然災害や、消費税増税に伴う出稿控えやアメリカと中国の貿易摩擦の経済的影響などで、3年連続で減少した。業種別では「官公庁・団体」「金融・保険」などが増加し、「情報・通信」「化粧品・トイレタリー」などが減少した(※写真は電通「2019年 日本の広告費」から)。

  「広告業界の転換点」の意味は、2019年を機にすでに欧米で著しいネット広告へのシフトが日本でも加速すると示唆している。さらに今年は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で経済が減速する中、テレビ広告にニーズが向くだろうか。放送と通信の同時配信、そして広告費の減収と民放テレビが大きく様変わりしていくだろう。

⇒11日(水)夜・金沢の天気    くもり

☆経済不況という寒波

☆経済不況という寒波

  北陸にようやく雪が降った。今季初めてお目にかかる「初雪」だ。ただ、金沢の自宅周囲で数㌢なので、ごあいさつ程度の積雪だ=写真=。朝、ご近所さんと言葉を交わしたが、「ようやく降りましたね」と声がけすると、「もうちょっと降ってもらわんと心配やね」だった。北陸人にとっては降るべき時に降ってもらわないとこれからのシーズンで反動があるのではないかと不安が募る。これから1週間の天気予報をチェックすると、9日に雪マークがついている以外は、ほかに雪の予報はない。ひょっとして、これが名残雪(なごりゆき)か。

   日本でも広がり続く新型コロナウイルスだが、共同通信Web版(6日付)によると、中国本土の死者は6日現在で563人となり、感染者は2万7000人を超えた。武漢市の死者は414人、感染者は1万117人となった。きのうのブログでも述べたが、日本に帰国した邦人565人の感染率1.4%から推測しても、人口1100万人といわれる武漢市では感染者が15万4000人でも不思議ではない。おそらく検査体制が追い付いていないのだろう。現地の混乱ぶりがこの数字から読める。

   6日の東京株式の日経平均は大幅続伸して始まり、午前9時15分現在で前日比387円高の2万3706円。おそくら、ニューヨーク株式のダウが大幅に続伸し、9営業日ぶりに2万9000㌦台を回復したことを受けてのことだろう。勢いづく株式投資とは裏腹に、中国での経済減速の影も見え隠れしている。

   東証一部の上場企業である化学素材メーカー「小松マティーレ」(本社・石川県能美市)が、中国・江蘇省で計画していた合成繊維の加工・染色の新工場を見送り、連結子会社を解散・精算すると発表した、と地元各紙が伝えている。新工場で中国やヨーロッパ向けに衣料などの生産体制を増強する予定だったが、中国の経済の減速を受けて当初予定していた需要が見込めないと判断したようだ。要は、現地判断で経済復興は当面見込めないと判断し、投資を撤回したのだろう。

   もう一つ。「KOMTRAX(コムトラックス)」という「経済指標」がある。小松製作所(コマツ)が販売したブルドーザーなどにGPSをつけて自社製品の稼働状況を確認するために備え付けたデータだ。これによって各国に輸出した建機の稼働状況がわかり、経済状況もある意味で判断できる。昨年のデータ(前年同月比)を見ると、北米(アメリカ、カナダ)はプラスの月が多いが、日本、ヨーロッパ、中国はマイナスの月が多い。中でも中国は1月と10月に10数%の大幅なマイナスだ。

           では、日本はどうか。実はこの数字を眺めていて寒気を感じる。9月のプラス3.1%以外は11ヵ月すべてマイナスだ。9月のプラスは観測史上最強クラスのといわれた台風15号が関東を中心に甚大な被害を出したことから、ブルドーザーなどの需要があったのだろう。では、さら強力な台風19号が猛威をふるった10月はどうだったのか。関東・甲信越の河川の堤防が140ヵ所で決壊して甚大な被害があった。それでも、10月は7.9%、11月は2.9%のマイナスだった。少々不謹慎な言い方かもしれないが、もし台風19号が来なかったら中国並みの13.7%のマイナス、あるいはそれ以上だったかもしれない。財政支出の息切れでインフラ整備が滞り、経済不況がじわりと忍び寄っている。中国のことは言っておられない。

⇒6日(木)午前・金沢の天気    くもり

☆コロナウイルス感染、日本への影響

☆コロナウイルス感染、日本への影響

      中国・武漢のコロナウイルスが、いよいよ世界的に猛威をふるい始めている。日本を含む中国以外の13の国や地域でも感染者が見つかっている。それにしても中国が発表する数字が小出しだ、中国の国内感染者数の実数はどうなのか。検査結果の出ない感染疑いの患者が3人もいるとされ、中国だけで実際は万単位とも言われている。

   信じ難い話も次々と出ている。武漢では医療施設が不足していて現在建設が始まっているが、市長が「10日間で病院を建設するから大丈夫」と語ったそうだ。ベッド数は1000床、建設期間は10日間、来月3日には稼働する見通しという(25日付・毎日新聞Web版)。ただ、敷地面積は2万5000平方㍍あるので、プレハブ小屋を合体させた集合的な入院施設ならば1000床は可能かもしれない。プレハブという技術に中国はどのように対応できるのか理解できないので、あくまでも想像だ。完成予想図が提示されていないので医療施設のイメージがわかない。

   コロナウイルスは日本にとっても他人事ではない。きょう27日の東証は、483円も値下がりし2万3343円。コロナウイルスの感染拡大が世界経済に悪影響を与えるのではないかという懸念が広がってのことだ。もともと、アメリカとイランの緊張の高まりで、ことしの世界経済は下振れの警戒感が出ていて、今回さらに中国経済に打撃が加わったカタチだ。

   日本にとっても影響が大きいのは観光産業だろう。中国人旅行客の3割から4割が団体客だと言われているので、中国の団体での海外旅行禁止令は影響が大きい。インバウンド需要に影響が広がれば、当然日本の国内総生産(GDP)を押し下げることになる。このまま東アジアにコロナウイルスが蔓延することになれば、果たして東京オリンピックは無事開催できるのかなどと、個人的に憶測したりもする。

   不思議なのは、WHOをだんまりを決め込んでいることだ。今は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」ではないのか、WHO事務局長はいつ緊急事態を宣言するのか。

⇒27日(月)夜・金沢の天気     くもり

★坂網猟師とカモ、共生という関係

★坂網猟師とカモ、共生という関係

   冬のこの時期、北陸ではズワイガニや寒ブリなど海の幸もあるが、山の幸ではカモに魅かれる。交配種のアイガモではない、正真正銘のマガモだ。鮮やかな赤身の肉で、鳥肉としては高級感が漂う=写真・上=。鴨鍋よし、串焼きよし、おじやよしで満足度が高い。

   このカモの料理を楽しめるのは金沢の南、福井県との県境にある加賀市だ。ラムサール条約湿地の「片野の鴨池」がある。ここで伝統的な坂網猟(さかあみりょう)が受け継がれている。猟師にお願いして、狩猟の現場を見学させてもらったことがある。夕暮れになると、鴨池のカモがエサを求めて群れをなして飛び立つ。周囲の丘を飛び越えるのを狙って、群れをめがけて坂網を空に向かって投げ上げる。

   坂網は長さ3.5㍍、Y字形の網の部分は幅1.3㍍ほど=写真・下=。材質はヒノキと竹、ナイロン網などで、重さは800㌘ほどだろうか。ベテランの猟師は羽音で距離感を測り、カモの群れをめがけて数㍍、あるいは10㍍も投げ上げる。猟期は11月15日から2月15日までと決められている。猟師は19人。かつてカモが大量に飛来したときは、1人で300羽も捕れた時代もあったが、今では全員でも200羽ほどだそうだ。

   ではなぜ坂網猟のカモがおいしいのか。カモは坂網にかかった後、地上に落ちてくるが、ほどんどが無傷で生きたまま捕獲される。肉に血が回らないので、臭みがなく、肉の味を損なうこともない。猟銃で仕留めるカモとの違いだ。

   坂網猟が始まったのは300年ほど前で、大聖寺藩主が武士の鍛錬として坂網猟を奨励したのが始まりだった。この道のベテラン、小坂外喜雄氏からこんな話を聞いたことがある。戦前、金沢に司令部を置く陸軍第九師団が鴨池周辺の砂丘地などで演習を行うことがあり、音に驚いてカモが寄り付かなくなった。そこで、猟師たちは九師団長に嘆願書を提出して演習区域から外してもらったそうだ。

   さらに終戦後、今度はGHQ(連合軍総司令部)のアメリカの中将らが鴨池に何度かやって来て銃でカモなど野鳥を撃ちまくった。当時の組合長は片野鴨池は古来より銃猟が禁止されている旨をGHQに直訴し、銃猟を止めさせたこともある。

   坂網の猟師たちは、一網打尽ではなく、伝統的な猟法を守ることで、カモと共生する関係性を築いてきた。そして、鴨池の野鳥を脅かす外部からのリスクには敢然と立ち向かってきたのだ。そんなストーリーを聞くと、坂網の鴨料理がさらにおいしく感じる。

⇒26日(日)夜・金沢の天気    はれ

★資本主義の危うさ

★資本主義の危うさ

   仕事始めのきょう6日、東京株式市場は午前からほぼ全面安で下落幅は一時500円を超えた。大発会の鐘打ちイベントは麻生財務大臣を迎えて開催されたようだが、相場は波乱の幕開けだ。アメリカのトランプ大統領の指示でイラン革命防衛隊の司令官を殺害され、イランも報復を宣言した。中東情勢のキナ臭さが株価を直撃した。3日のニューヨークダウも反落、一時370㌦下げた。

   逆にきょう株価がストップ高になった銘柄が石川製作所(石川県白山市)だ。プラス400円の2184円、値上がり率は22%増。同社は段ボール印刷機、繊維機械を生産しているが、追尾型の機雷も製造する防衛産業でもある。キナ臭さが漂うと防衛株に注目が集まる。株価をストップ高にした要因はもう一つ。朝鮮労働党中央委員会総会が12月28日から31日まで開かれ、金正恩委員長は経済制裁を続けるアメリカを非難し、「世界は遠からず、朝鮮が保有する新たな戦略兵器を目撃することになる」と主張。非核化交渉に臨むアメリカの姿勢次第で核開発や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を再開する可能性を示した(1日付・日経新聞Web版)。

   2年前の状況が再び繰り返されるのかもしれない。2017年7月、北朝鮮が打ち上げたICBMはアメリカ西海岸のロサンゼルスなどが射程に入るものだった。これを受けて、トランプ大統領は9月の国連総会の演説で金正恩・朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と呼び、双方の言葉の応酬が過熱した。このころから石川製作所の株価は急上昇し、それまで1000円に満たなかったものが10月には4205円の最高値を記録した。

   ちょうど1年前も世界の株価は新年早々に「ネガティブサプライズ」に見舞われた。アメリカのアップル社が2018年10月-12月期の売上高の予想を下方修正し、840億㌦に留まる見込みと発表。その原因について、アップルのティム・クックCEOが中国の景気減速だと述べた。これを受け、ニューヨーク株式市場でアップル株が一時10%急落、ダウも下げ幅が一時600㌦を超えた。このころから中国の経済減速が世界の共通認識として広まった。

  「資本主義の総本山」ウォールストリートが揺れ、世界の経済に波及する。資本主義の危うさ、経済に翻弄される1年が始まった。

⇒6日(月)午後・金沢の天気    くもり