⇒トピック往来

☆ユネスコ世界ジオパーク「白山手取川」から学ぶこと

☆ユネスコ世界ジオパーク「白山手取川」から学ぶこと

          前回のブログの続き。ユネスコが定める世界ジオパークに、石川県白山市の「白山手取川ジオパーク」が認定される見通しだ。日本ジオパーク委員会公式サイト(2022年12月16日付)によると、専門家によるユネスコ世界ジオパーク・カウンシル セッション(評議会)で審査され、白山手取川ジオパークを世界ジオパークに認定することを勧告することが決まった。ことし5月10日にパリで開催される第216回ユネスコ執行委員会で承認され、世界ジオパークの認定が決定する。 

   白山は北陸3県ほか岐阜県にまたがる標高2702㍍の活火山であり=写真・上=、富士山、立山と並んで「日本三名山」あるは「三霊山」と古より称される。奈良時代には禅定道(ぜんじょうどう)と呼ばれた登山ルートが開拓され、山岳信仰のメッカでもあった。その白山を源流とする手取川は加賀平野を流れ、日本海に注ぎこむ。40万年前から火山活動が始まったとされる白山による噴出物によって大地がつくられ、その大地を手取川が削り、峡谷や扇状地、平野が形成されてきた。国内の世界ジオパークは、洞爺湖有珠山、アポイ岳、糸魚川、伊豆半島、山陰海岸、隠岐諸島、室戸、阿蘇、島原半島の9地域があり、白山手取川の認定が正式に決まれば10番目となる。

   白山と手取川が世界ジオパークの国際評価を受けると、ジオパーク愛好家やインバウンド観光客が世界から続々と集まってきて、大地を楽しみ学ぶジオツアーも盛んになるだろう。地元メディアの報道によると、白山市は当初予算案に国際セミナーの開催やツアー会社との連携など関連費3460万円を盛り込んでいる。

   観光もさることながら学びも積極的に入れてはどうだろうか。手取川は加賀平野の水田を潤してきた=写真・下、石川県庁公式サイト「くらし・教育・環境」手取川扇状地より=。一方で、「暴れ川」の歴史があり、いまも自治体のハザードマップでは下流域は赤く染まっている。昭和9年(1934)7月11日の大水害は、いまでも語り継がれている。白山の雪解け水に加え、1日の雨量352㍉という記録的な豪雨に見舞われた。「百万貫岩」と地元で称される推定4800㌧もの巨大な岩が鉄砲水で流され、また流域の死者・行方不明者も110人余りと記録されている。

   この流域では治水対策は永遠のテーマでもある。ジオパークの学びとして、リスクの視点から「7・11」の事例を紹介し、地域の人々が長年積み上げてきた水害対策の試みについて説明することで、白山手取川ジオパークの価値がさらに高まるかもしれない。

⇒17日(金)夜・金沢の天気      くもり

★人とトキが共生する楽園づくり ことしが実行元年

★人とトキが共生する楽園づくり ことしが実行元年

   朝刊を広げて、「5・22は『いしかわトキの日』」という見出しが目に飛び込んできた。きのう15日、石川県は2023年度の当初予算案を発表し、2026年にも能登で放鳥が予定される国の特別天然記念物トキの生息の環境づくりをするため、トキと人との共生に向けた取り組みとして関連費1億360万円を予算化した。そして、国連が定める「国際生物多様性の日」である5月22日を「いしかわトキの日」と決め、県民のモチベーションを盛り上げる。

   環境省は、佐渡市で野生復帰の取り組みが進むトキについて、本州などでも放鳥を行う候補地「トキの野生復帰を目指す里地」として能登半島と島根県出雲市を選定した(2022年8月5日付・環境省公式サイト「報道発表資料」)。これを受け、県と能登地域が営巣地などの生息環境を整える取り組みに入る。いわば、2023年が「放鳥に向けた実行元年」ということになる。

   石川県がトキの放鳥に向けてチカラを入れる理由がある。本州最後の1羽だったオスのトキ、愛称「ノリ(能里)」が1970年に能登半島で捕獲され、繁殖のため新潟県佐渡のトキ保護センターに送られた経緯がある。なので、能登にトキが戻ってきてほしいという願いがあった。このため、県と能登の4市5町、JAなど関係団体は去年5月に「能登地域トキ放鳥受け入れ推進協議会」を結成し、環境省に受け入れを申請していた。

   誤解のないように言うと、かつて同じ能登でもトキを「ノリ」と呼んで見守った人もいれば、「ドォ」と呼んで目の敵(かたき)にした人もいた。トキは田植えのころに田んぼにやってきて、早苗を踏み荒らすとして、害鳥扱いだった。ドォは、「ドォ、ドォ」と追っ払うときの威嚇の声からその名が付いた。そして、全国どこでもそうだったが、昭和30年代の食料増産の掛け声で、農家の人々は収量を競って、化学肥料や農薬、除草剤を田んぼに入れるようになった。このため、田んぼに生き物がいなくなり、トキは絶滅の道をたどった。佐渡に送られたノリは翌1971年に死んだ。解剖された肝臓や筋肉からはDDTなどの有機塩素系農薬や水銀が高濃度で検出された。

    いま、生産性重視の米づくりの発想は逆転した。トキが舞い降りるような田んぼこそが生き物が育まれていて、安心そして安全な田んぼとして、そこから収穫されるお米は「朱鷺の米」(佐渡)に代表されるように高級米である。人は生き物を上手に使って、食料の安心安全の信頼やブランドを醸し出す時代である。能登では2009年に「田の神」をもてなす農耕儀礼「あえのこと」がユネスコ無形文化遺産に登録され、2011年に世界農業遺産「能登の里山里海」が認定されている。トキが舞い降りる能登の田んぼで再び米づくりが始まれば、農家も生きる、トキも生きる、共生のパラダイス(楽園)ができるのではないだろうか。

(※写真は、松の木でのトキの親子の営巣の様子。1957年、岩田秀男氏撮影=輪島市三井町洲衛)

⇒16日(木)夜・金沢の天気   くもり   

☆「タラの子付け」に満足の田の神 豊作をもたらすか

☆「タラの子付け」に満足の田の神 豊作をもたらすか

   ユネスコ無形文化遺産に登録されている、能登半島の尖端・奥能登に伝わる農耕儀礼「あえのこと」は、農家が稲作を守る「田の神様」に労をねぎらいと収穫に感謝を捧げる伝統行事として知られる。「あえ」はごちそうでもてなすこと、「こと」はハレの行事を意味する。毎年12月5日の行事は「田の神迎え」と言われ、それぞれの農家が田んぼから田の神を自宅に向えて饗応する。2月9日は「田の神送り」と言われ、農家でくつろいでもらっていた田の神を再度ごちそうでもてなし、その後田んぼにお見送りをする。田の神の行事は家々で伝承されていて、迎え方や送り方、そして、もてなし方はそれぞれに違いがある。

   去年12月5日の「田の神迎え」を能登町の柳田植物公園内にある茅葺の古民家「合鹿庵(ごうろくあん)」で見学し、このブログで書き留めた。そして、きのう2月9日の「田の神送り」を同じ合鹿庵で見学した。

   12月5日のブログでも述べたが、田の神は目が不自由であるという設定になっている。働き過ぎで眼精疲労がたたって失明した、あるいは稲穂で目を突いてしまったなど諸説がある。目が不自由であるがゆえに、農家の人たちはその障がいに配慮して田の神に接する。座敷に案内する際に段差がある場合は介添えをし、供えた料理を一つ一つ口頭で丁寧に説明する。演じる家の主(あるじ)たちは、どうすれば田の神に満足いただけるもてなしができるか工夫を凝らして独り芝居を演じる=写真・上=。

   供されたごちそうで、季節の違いもある。12月5日「田の神迎え」では、メイン料理は寒ブリの刺し身だった。そして、2月9日「田の神送り」では、タラの子付けという刺し身が出されていた=写真・下=。タラの漢字は魚へんに雪と書く「鱈」。能登半島の沖で獲れるマダラはこの降雪の時季に身が引き締まって、味がのっている。そのまま刺し身ではなく、タラの子である真子をゆでてほぐし、タラの身にまぶしたもの、この「タラの子付け」はなかなかおつな味がする。さらに、昆布でしめたマダラの身に子付けをするとさらに旨みが増す。

   田の神送りを東京から見学にやってきたという料理研究家の女性は、「このタラの子付けは能登独特の刺し身ですよ。ほかに見たことはありませんね」と話していた。一部金沢の料理屋やスーパーでも見かけるが、能登が発祥かもしれない。迎えに寒ブリの刺し身をたしなみ、送りにはタラの子付けを堪能する奥能登の田の神様。なんともグルメで贅沢な神様ではある。「満足じゃ」と田に戻られたに違いない。ことしも豊作をもらたしてほしいと農家の切なる願いが込められている。

⇒10日(金)夜・金沢の天気     くもり

☆豆を投げつけたい「ミサイルの鬼」「偽旗の鬼」

☆豆を投げつけたい「ミサイルの鬼」「偽旗の鬼」

   きょう2月3日は「節分」。季節を分けるとの意味があり、あす4日の「立春」の前触れだと小さいころに教わった。伝統行事として、冬をしのぎ暖かな春の訪れを前に、邪気を払う「節分豆まき」が行われる。「鬼は外、福は内」と。

   「鬼は外」と叫びたいのは、頻繁に日本海に向けて弾道ミサイルを発射する北朝鮮だ。新年早々のことし元日にも弾道ミサイルを発射し、朝鮮半島東側の日本のEEZ外に落下させている。去年は37回、計70発を日本海に向け発射。2017年3月6日に能登半島の輪島市の北200㌔、去年11月18日に北海道・渡島大島の西約200㌔のEEZ内に着弾させている。朝鮮労働党機関紙「労働新聞」(ことし1月1日付・Web版)によると、党中央委員会総会で、金正恩総書記は演説し、戦術核兵器を大量生産する必要性を述べ、「核弾頭の保有量を幾何級数的に増やす」と方針を示している。

   ロシアのプーチン大統領がウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチ」と称して偽旗を掲げて去年2月24日に侵攻を始めてまもなく1年になる。その後の4月4日、ロシアのセルゲイ・ミロノフ下院副議長がロシアのオンラインメディアで「どんな国でも、隣国に対して権利を主張することはできる」「多くの専門家によると、ロシアは北海道に対してあらゆる権利を持っている」と述べた。同じ4月20日、ロシアは北部アルハンゲリスク州にあるプレセツク宇宙基地の発射場から新型のICBM「サルマト」を発射し、およそ5700㌔東のカムチャツカ半島にあるクーラ試験場の目標に命中させている。プーチン大統領が「北海道の権利の奪還」という偽旗を掲げて動き、プレセツク宇宙基地の発射場に再びICBMを構え、日本に向けた場合、反撃能力は可能なのだろうか。

   豆を投げてみたい「鬼」がいる。ドイツやオーストリアなどヨーロッパの一部の地域で伝承されている、「クランプス(Krampus)」。頭に角が生え、毛むくじゃらの姿は荒々しい山羊と悪魔を組み合わせたとされ、日本の伝承行事「ナマハゲ」や「アマメハギ」の鬼面より迫力と威圧感がある。家庭を回って、親の言うことを聞かない悪い子に警告して罰を与えると信じられている。欧州の子どもたちに豆を持たせて、「鬼は外」とクランプスに投げつけてはどうか。(※写真は、ドイツ・ミュヘン市の公式ホームページ「Krampus Run around the Munich Christmas Market」より)

⇒3日(金)午後・金沢の天気   くもり

★歴史と記憶、未来を紡ぐ能登半島「さいはての芸術祭」

★歴史と記憶、未来を紡ぐ能登半島「さいはての芸術祭」

  前回ブログの続き。能登半島の尖端に位置する珠洲市が力を入れて取り組んでいるイベントがある。それは「奥能登国際芸術祭」。ことしは第3回展となり、9月2日から10月22日まで51日間の予定で開催される。日本海に突き出た半島の尖端の芸術祭のキャッチフレーズは「最涯(さいはて)の芸術祭、美術の最先端」である。

   総合プロデューサーの北川フラム氏は「さいはてこそが最先端である」という理念と発想を芸術祭で問いかけている。かつて江戸時代の北前船の全盛期では、能登半島は海の物流によって栄えたが、近代に入り交通体系が水運から陸運中心へとシフトしたことで、「さいはて」の地となった。そこで、北川氏はアーチストたちと岬や断崖絶壁、そして鉄道の跡地や空き家など忘れ去られた場所に赴き、過疎地における芸術の可能性と潜在力を引き出してきた。

   2017年の作品の一つ、『神話の続き』(作者:深沢孝史)。珠洲の海岸に創作された「鳥居」である=写真・上=。かつて能登には寄神(よりがみ)信仰があった。大陸からさまざまな文明がもたらされた時代、海から漂着した仏像や仏具などは神社にご神体として祀られ、漂着神となった。神は水平線の向こうからやってくるという土着の信仰だ。時代は流れ、現代の「寄神」は大陸からもたらされる大量の漂着物(廃棄物)なのである。作者はその漂着物を地元の人たちといっしょに拾い集めて、作品を創った。文明批評を芸術として表現した。

         新型コロナウイルス感染拡大で一年延期となった2021年の第2回展で、北川氏は家仕舞いが始まった市内65軒の家々から1600点もの民具を集めて、モノが主役の博物館と劇場が一体化した劇場型博物館『スズ・シアター・ミュージアム』を造った。8組のアーティストが民具を活用して、「空間芸術」として展示している。

   江戸、明治、大正、昭和など各時代の文物を珠洲じゅうから集めたとあって、中には博物館として目を見張る骨董もある。「海揚がりの珠洲焼」がそれ=写真・下、「奥能登国際芸術祭2020+」公式ホームページより=。珠洲は室町時代にかけて中世日本を代表する焼き物の産地だった。各地へ船で運ぶ際に船が難破。海底に眠っていた壺やかめが漁船の底引き網に引っ掛かり、幻の古陶が時を超えて揚がってくることがある。まるで上質なタイムカプセルに触れるような心癒される作品だ。

   第3回展のことしはどのような作品にお目にかかれるのか。「より深く地域の潜在力を掘り起こし、諸外国にも珠洲の魅力を伝えていきたい」と北川氏は抱負を語っている(2023年度版パンフから引用)。インバウンド観光を意識した何か仕掛けがあるのかもしれない。

⇒2日(木)夜・金沢の天気   くもり

☆「SDGsネイティブ」を育てる能登半島の最先端

☆「SDGsネイティブ」を育てる能登半島の最先端

   能登半島の尖端に位置する珠洲市が内閣府の「SDGs未来都市」に選定されたのは2018年6月だった。SDGsは国連が進める持続可能な開発目標で、社会課題の解決目標として「誰一人取り残さない」という考えを込めている。先日、SDGsの取り組みについて同市の担当者から話を聞く機会を得た。採択から5年目、その成果は。

   SDGs未来都市の認定を受けて、「能登SDGsラボ」を開設した。大学の研究者や、地元の経済界や環境団体(NPOなど)、地域づくり団体が加わっている。取り組みの話を聞いていて、「時代の最先端」と感じたのは、SDGsを取り込んだ学校教育だった。市内の9つの全小学校は「生き物観察会」を実施しており、児童たちは里山里海の生物多様性を実地で学んでいる。そのサポートをSDGsラボに加わっている自然生態学の研究者や環境系NPO、地域住民らが学校の教員とプログラムを組んで行っている。

   その生き物観察会をベースに「SDGs学習」を小学校低学年の段階から行っている。学習に使われているテキストを見せてもらった。SDGsラボが作成した『みんなの未来のためにできること』。SDGsの基本となっている17の持続可能な開発目標がイラストで分かりやすく紹介されている=写真・上=。SDGsラボのメンバーでもあり、金沢市に研究拠点を置く国連大学OUIKの研究員がオランダの漫画家マルフレート・デ・ヘール氏の作品『地球と17のゴール』をネットを見つけ、メールで本人から日本語訳と出版の許可の了解を取り付けた。もちろん、販売目的ではない。

   さらにテキスト『みんなの未来のためにできること』に特徴的なのは、市内9つの小学校がそれぞれに「すず市 SDGs こども せん言」=写真・下=を掲げていることだ。ある小学校のテーマはゴール7「エネルギーをみんなに そしてクリーン」で、児童たちの「せん言」は「電気のムダ使いをしないようにします」「電気を使えることに感謝します」「電気を生み出す自然を大切にします」を掲げ、「テレビを見ない時はときは消す」などと具体的なアクションを記している。

   こうした小学校低学年から始めるSDGs学習は高校生になるまで続く。このため、小学校から高校の教員が定期的に会合を開いて、授業の進め方などについて意見交換を行い、さらに地域と連携するSDGs学習を行っている。

   こうした地域と一体性のあるSDGsプログラムが面白い展開につながった事例がある。高校の同級生だった女子生徒がそれぞれ大学生になり、地元のカボチャ生産農家が規格外品の捨て場などに困っていることを知り、食品ロスと地域課題の解決のためにと、カボチャの種から抽出した油を天然由来の植物オイルと調合してシードオイルの化粧品の開発を手がけている。2人は高校時代に地元の上場企業のインターンシップに参加しアドバイスを受け、去年4月に会社を立ち上げている。

   「SDGsネイティブ」を育てる珠洲市の5年目の取り組みである。地域経済は多様な人材の集合体でもある。地域資源を活用したコミュニティビジネスや地域課題を解決するソーシャルビジネスの芽がこの地で大きく膨らみつつある。

⇒1日(水)夜・金沢の天気    くもり

☆強烈寒波がもたらす「絶対零度下の生活」と「スタック」

☆強烈寒波がもたらす「絶対零度下の生活」と「スタック」

   「最強寒波  県内襲来」「強烈寒波 1万戸停電」。朝刊各紙の見出しは派手に踊っている。けさ(午前8時ごろ)の気温はマイナス3度と寒いが、自宅周囲の積雪を物差しで測ってみると15㌢ほどだ。金沢に住む人たちは朝の雪の具合を見て、「大したことない。車が出れる。よかった」とひと安心したのではないか。金沢市内の小中学校は、大雪予想のため臨時休校となった。子どもたちは「雪で学校休み、もうけた」と喜んでいるかもしれない。

            ただ、「10年に一度の最強寒波」とあって記録が更新されている。金沢市の気温は午前0時過ぎにマイナス5.1度を観測し、最低気温が1997年以来26年ぶりにマイナス5度を下回るなど記録的な冷え込みになった。最高気温も氷点下の予報だ。かつて読んだ小説『絶対零度下の鋼(はがね)』(作者:夏之炎)を思い出した。小説の中身はほとんど記憶にないが、「絶対零度」をネットで検索すると、絶対零度はマイナス273.15度。東京工業大学の熱力学の研究者が発見した下限温度。熱振動(原子の振動)が小さくなり、エネルギーが最低になった状態、つまり、原子の振動が完全に止まった状態の温度のこと。

   マイナス273度とまではいかなくても、気温マイナス3度は震えるくらい寒い。まさに、生活の中の絶対零度下だ。そのマイナス気温で心配なのが、車の「スタック」現象が起こりやすいことだ。英語で「stuck」、「立ち往生」のことだ。積雪の多い道路では、道路の雪のわだちにタイヤがはまり、前にも後ろにも進めなくなる。わだちでの立ち往生は冬場では当たり前の光景だったが、「スタック」という言葉が3年ほど前から出始め、意外な効果もあった。

   この言葉が報道などで用いられるようになると、金沢市の除雪作業本部では2021年12月から除雪計画を見直し、それまで15㌢以上の積雪で除雪車を出動させていたが、10㌢以上積もれば除雪作業を行うことにした。市内幹線の雪道の安全度は確実に高まった。(※写真は、車道を除雪するショベルカー。大雪の道路では車の立ち往生が頻発する=金沢市内)

 

⇒25日(水)夜・金沢の天気    くもり時々ゆき

★魚醤「いしる・いしり」とイタリア料理のマリアージュ

★魚醤「いしる・いしり」とイタリア料理のマリアージュ

   前回ブログの続き。魚醤はイタリア料理にも欠かせない。とくにパスタとの相性がいい。ペペロンチーノのようにシンプルなオイルパスタの仕上げに数滴添えるだけで天然の旨みというものが加わるから不思議だ。魚醤は隠し味、あるいは名脇役のような調味料なのだ。

   能登の「いしる・いしり」加工業者からかつて聞いた話によると、イタリアの魚醤には2つのタイプがある。それは、「ガルム」と「コラトゥーラ」と呼ばれる。ガルムは、アジやサバ、イワシ、マグロなどの魚をツボに塩と共に入れて発酵させてつくる。熟成期間は20日ほどと短めのようだ。コラトゥーラは、アンチョビの原料でもあるカタクチイワシのみでつくる魚醤で、木の桶に頭と内臓を取り除いて塩を入れて発酵させる。9ヵ月ほど熟成させる。

   魚の内臓を素材として使うということで、ガルムは能登のいしる・いしりと製造方法が近い。能登の加工業者によると、イタリアのガルム加工業者はスペインなどからも魚醤を取り寄せて、加工販売している。そして驚くことに、能登産いしる・いしりも原料を輸出していて、イタリアのガルムとして世界に販売されているそうだ。

   いしる・いしりは能登の郷土料理の隠し味というイメージだったが、オリーブオイルと混ぜてサラダのドレッシングにしたり、パスタはもちろん、魚や肉料理の万能調味料としてグローバルにイタリア料理の隠し味として活用されているようだ。

   そうした能登のいしる・いしりなど発酵食品を活かして、「能登イタリアン」の料理を出すのが、能登町にある民宿「ふらっと」。シェフのベンジャミン・フラットさんはかつてオーストラリアのシドニーのイタリアンレストランでヘッドシェフ(料理長)をしていた。オーストラリアで日本語教師をしていた妻の船下智香子さんと知り合い結婚し、智香子さんの実家がある能登町で民宿を開業した。

   妻の父親がイカの内臓でつくる「いしり」の加工業者だったこともあり、フラットさんはイタリアンと能登の発酵食のマリアージュにのめり込んでいく。一度民宿に訪れた時に、いしりとイカスミを使った手打ちパスタをいただいた。能登で味わう絶品のイタリアンだ。能登の豊かな自然でつくられる「いしる・いしり」と、それに魅了されてつくられるイタリアンの話は尽きない。

⇒22日(日)夜・金沢の天気    はれ

☆能登の魚醤「いしる・いしり」が発酵食文化のシンボルに

☆能登の魚醤「いしる・いしり」が発酵食文化のシンボルに

   きょうは二十四節気のひとつ「大寒」。夕方からゴーゴーと風の音が響く。まさに冬将軍の到来を告げる天の声だ。天気予報によると、週明けにこの冬一番の強い寒気が北陸付近に流れ込み、来週の24日ごろから平野部、山沿いともに警報級の大雪になるおそれがある。気温もかなり低くなる見通しで、25日の金沢の最高気温がマイナス1度、最低気温がマイナス4度となっている。 

   一方で、この冬の寒さは発酵食に最適だ。かぶらずし(ブリと青カブラのこうじ漬け)や大根ずし、そして日本酒も今が一番忙しい時節だ。中でも、「なれずし」は魚を塩と米飯で乳酸発酵させる能登の伝統食だ。なれずしは琵琶湖産のニゴロブナを使った「ふなずし」が有名だが、能登ではアジやブリ、川魚など種類が豊富だ。なれずし独特の匂いがあり、なじめない人も多いが、食通にはたまらない味と匂いだろう。とくに「ヒネもの」と呼ばれる2年以上漬け込んだものは格別だ。

    前置きが長くなった。日本の3大魚醤と言えば、秋田の「しょっつる」、香川の「いかなご醤油」、そして能登の「いしる」「いしり」だ。イカの内臓やイワシを発酵させたもの。能登では材料がイワシのものを「いしる」、イカの内臓のものを「いしり」と称するが、場所によっては呼び方が異なる。

   大学教員の時代に学生や留学生たちを連れて、能登の「いしる・いしり」加工工場を何度か見学した。貯蔵庫入口のドアを開けると、発酵食の原点でもある魚醤のタンクがずらりと並んでいる。そして、とたんに発酵のにおいに包まれる。発酵のにおいは不思議だ。「ヤバイ」と言いながら鼻をふさぐ者もいれば、「どこか懐かしいにおいですね」と平気な学生もいる。フランス人の女子留学生は逃げるようにして遠ざかった。

   魚醤は日本料理のほか、イタリア料理の隠し味としてもニーズがある。この加工工場の経営者の話では、イタリアから製品化について問い合わせがあるとのことだった。能登の魚醤がヨーロッパに進出するかもしれない。

   その「いしる・いしり」がきょうニュースになった。朝日新聞Web版によると、国の文化審議会は、「能登のいしる・いしり製造技術」を国の無形民俗文化財に登録するよう文部科学大臣に答申した。天然の発酵力を生かした製造技術には地域の特色があり、発酵調味料の製造技術の変遷や、地域差を理解する上で重要だと評価された。能登のいしる・いしり製造技術のほかに、近江のなれずし製造技術(滋賀県)も同じく答申された。日本の発酵食文化のシンボルとして殿堂入りする。

⇒20日(金)夜・金沢の天気    くもり時々あめ

★インフレの中で、日銀は異次元緩和を続行のナゼ

★インフレの中で、日銀は異次元緩和を続行のナゼ

   赤字は膨らむ。財務省がきのう報道発表した「令和4年分貿易統計(速報)」によると、輸出額は前年比で18.2%増の98兆1860億円だったものの、輸入額は前年比で39.2%増えて118兆1573億円だった。輸出額から輸入額を引いた貿易収支は19兆9713億円の赤字だった。比較可能な1979年以降で最大の赤字となった。

   輸入額が膨らんだ背景には、ロシアによるウクライナ侵攻で、中東からの原油のほかオーストラリアの液化天然ガスなどの国際価格が上昇し、さらに「有事のドル買い」で円安が進んだ。追い打ちをかけるように日本とアメリカの金利差から一時1㌦=150円を超えるなど円安が顕著になった。

   原油価格や円安は物価に跳ね返る。総務省が毎月発表している消費者物価指数によると、直近の数字(2022年11月分)は前年同月比で3.8%の上昇だった。食料品やエネルギーなど生活に身近な品目の値上がりが続く。

   物価高は身の回りで感じる。近所のガソリンスタンドでは1㍑167円から170円で高止まりしている=写真=。クリーニング店では、かつてワイシャツ1枚180円がいまは240円、コットンパンツもかつて420円がいま600円だ。クリーニング店で話を聞くと、クリーニング工場では石油系の溶剤が使われ、アイロンやプレス機で使う蒸気は重油ボイラーとさまざまなものに石油製品が使われていて、原油価格はクリーニング料金に直結している、ということだった。

          これだけ物価上昇、インフレが進んでいるのに不可解なことがある。日銀の黒田総裁はきのうの金融政策決定会合後の会見で、「長期金利の変動幅をさらに拡大する必要があるとは考えていない」と発言、大規模緩和を続ける考えを改めて強調した。すると、為替市場は反応し、それまで1㌦=128円だった円相場が131円と円安ドル高にぶれた。そもそも、異次元緩和を解除する前提はインフレ率は2%の物価目標ではなかったか。上記のように消費者物価指数が3.8%になっているにもかかわらず、日銀がかたくなに異次元緩和を継続する理由は一体どこにあるのか。

   黒田総裁はいまのインフレに疑問を持っているようだ。経団連での講演会(先月26日)でこう述べている。「ウクライナ情勢、感染症の影響など、わが国経済をめぐる不確実性も、きわめて高い状況です。消費者物価は、現在2%を上回る上昇率となっていますが、先行きはプラス幅を縮小し、年度平均では、来年度以降、2%を下回るとみています。こうした経済・物価情勢を踏まえると、金融緩和によって、経済をしっかりと支え、企業が賃上げを行いやすい環境を整えることが必要だと考えています」

   ことしは通年のインフレ率が2%を下回るので異次元緩和を続けるというのだ。このタイミングを見計らったかのように、経団連は今月17日、ことしの春闘で経営側の交渉方針を示す「経営労働政策特別委員会報告」を発表し、急速な物価上昇を受け、基本給を底上げするベースアップを「前向きに検討することが望まれる」と明記した。中小企業を含めて幅広く賃上げの動きが広がり、景気の浮揚につなげられるかが焦点となる(17日付・読売新聞Web版)。

   経団連が春闘で賃上げをすることを約束したという内容だ。私見だが、黒田総裁と経団連側の「密約」があったのだろう。賃上げをベースにして、物価上昇を2%に高めることで異次元緩和を解除していく。賃上げによって、日銀が掲げる「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けて動き出す。春闘本番は3月、黒田総裁の退任も3月、この時期に合わせたのだろう。

⇒19日(木)夜・金沢の天気    あめ時々くもり