~間垣は能登の風景、「あえのこと」は能登の心の風景~
今月2日から5日間、「シニア短期留学in金沢」を実施した。地域での学びをテーマに全国からシニア世代の6人が参加した。そのツアーの中で、参加者が口々に「こんなところ初め見た。まるで、別世界ですね」と感動したのが、NHK連続テレビ小説「まれ」のロケ地となった輪島市大沢地区だった。大沢地区の独特の風景はなんといっても間垣(まがき)。冬の日本海の強風から集落の建物を守るため、集落を囲むように、まるで城壁でもつくるかのようにぐるりと「ニガタケの塀」を取り巻く。強風をしなやかに受け止め、風圧を和らげる。先人の知恵だ。最近は高齢化でニガタケの塀を修復することも大変。そこで、2011年から金沢大学の学生ボランティアたちが間垣の修復作業に2年間携わった。その甲斐あって、以前の景観がすっきりと元に戻った。その後、NHKのロケ地に選ばれた。そんな経緯も話しながら、間垣と冬の能登の住まい、コミュニティと景観など解説した。
間垣の風景を見学した後は、能登半島に古くから伝わる、伝統行事「あえのこと」を見学に行った。2009年にユネスコの世界無形文化遺産に登録されたこの行事は日本におけるホスピタリティ(もてなし)の原形としても注目されている。訪れたのは珠洲市若山町洲巻の築380年の古民家だった。奥能登の農家の家々では毎年12月5日のこの日、自らの田んぼの神様を家に招き入れてご馳走でもてなす。お迎えする田の神さまは目が不自由と伝えられ、田の神さまが転ばぬように手を引くようにして家に招き入れ、御膳の料理も一つ一つ色やカタチまで丁寧に説明する。目の不自由な田の神さまにどのような振る舞いをすれば、満足いくもてなしができるか、農家の主(あるじ)は工夫を凝らす。
ホスピタリティの名詞はホスピタル、つまり療養所。能登のホスピタィティは「もてなし」から「癒し」の領域にまで高まり、それが精神的な風土になっている。「能登はやさしや土までも」という言葉は江戸時代の文献に記されている。能登半島の先端、珠洲市の里山で「あえのこと」を見学して、参加者の中には「間垣は能登の風景、そして、あえのことは能登の心の風景ですね」と感想を漏らしていたのが、印象的だった。
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