★春に相次ぐ「賓客」

  日々新聞・テレビに目を通すと意外ことに気がつく。それが、小さな記事・ショートニュースであったにせよだ。今回感じたいのは、意外な人物や自然界の賓客が金沢や能登を訪れているということ。賓客という概念は主観的なことなのだが、紹介してみたい。
  
  チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世が今月9日に金沢入りした。10日は市内で100人の支援者を前に法話をした。その様子を報じた記事によると、「知恵に支えられた信心を育むことこそ、優れた修行」と述べた。信者ではなく、支援者としたのは、同内のチベット難民支援グループ「仏性会」の招きで訪れたからだ。同グループは30年も前からチベット難民の教育支援などに取り組んでいて、ダライ・ラマ14世が金沢に訪れるには今回で8回目という。ダライ・ラマ14世は11日に金沢を離れた。市内の支援者からかつてこんな話を聞いたことがある。「ダライ・ラマ氏は金沢に前世からかかわりがあったという人がいて、いつもその人の家に宿泊するそうです」。「前世からかかわり」というのは、スピリチュアルな話でなので、定かではない。

  ダライ・ラマ氏金沢を離れた11日、北陸新幹線に乗って金沢入りしたのは安倍総理だった。訪問先で私が注目したのは金沢市にある複合型福祉施設「シェア金沢」だ。サービス付き高齢者住宅と障がい者施設、学生向け住宅が併存する施設で、安倍総理は、京都から高齢者住宅に移住した女性や、ブータンからの女子留学生らと意見交換した。「いろいろな世代の人がいて、日々刺激があることが大切だ」と述べたと報じられた。一国の総理が金沢の福祉施設を訪れたのは伏線があるようだ。

  CCRC(continuing Care Retirement Community)。聞きなれない言葉だが、政府が地方創生に向けた取り組みとして位置づける施策の一つだ。発祥はアメリカだ。健康な時から介護時まで移転することなく暮らし続ける高齢者のためのコミュニティ。アメリカ約2000ヵ所もあり、60万人の居住者が生活しているといわれる。この「日本版CCRC」を目指して、地方創生に向けた「まち・ひと・しごと創生総合戦略」にも明記されている。東京都在住者の60代男女は「退職」などをきっかけとして2地域居住を考える人が33%に上る(2014年8月・内閣「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」)。つまり、終の棲家の場所探しは大きなニーズとなっている、これを地方の活性化に活かせないかというのが政府の戦略の俎上に乗っているのだ。シェア金沢では高齢者や障がい者、学生が多世代交流、ボランティア、農作業、住民自治を行いながら生活するコミュニティとして金沢市内でも注目されている。北陸新幹線効果で、東京駅からシェア金沢までは時間にして3時間足らずだ。安倍総理はその時間感覚を実感したかったのでないか。

  それにしてもダライ・ラマ氏と安倍総理、2人は11日に金沢にいた。ニアミスがあったのではないかと勘繰った。2012年11月、ダライ・ラマ氏は日本の国会内で初めて講演した。チベットとウイグル族に対する中国政府の人権問題の改善を求める日本の超党派の集まり「チベット支援国会議員連盟」を指導したのは、当時自民党の安倍総裁だった。

  13日に「賓客」があった。国の特別天然記念物トキが2羽、能登半島の先端の珠洲市で確認されたというニュース。本州で2羽のトキが同時に確認されるのは佐渡で2007年に放鳥が始まって以来、初めて。同市には、佐渡市で放鳥された雌のトキ(10歳)が昨年2月に同市に飛来し、半ば定着している。地元の住民に親しまれ、「美すず」との愛称もついている。「美すず」が別の1羽とともに田んぼでエサを探しているのを住民が見つけたのが13日。個体識別のための足環がついていないので性別や年齢も分からないが、体が大きいので雄ではないかと推測されている。また、佐渡市の自然界で誕生したひなには、ストレスを与えないよう足環がつけられていない。仮に、このトキがオスで「美すず」と巣をつくっていれば、本州では絶滅後、初めてのつがいとなる可能性もある、という。想像は膨らむ。

  それにしても佐渡の自然で繁殖したトキだとしたら、100キロ余り離れた佐渡から能登半島にどのようにして飛んできたのだろうか、また、長細い能登半島で2羽はどのようにして遭遇したのだろうか、偶然かそれとも自然界には出会いのプログラムがあるのか、想像力をかき立てる話ではある。

⇒16日(木)朝・金沢の天気    はれ