★続・モンキーパワーを借りよう

 4月10日付の「自在コラム」で、能登半島地震で避難所生活を余儀なくされている被災者がストレスや疲労、エコノミークラス症候群などに罹りやすいので、なるべく外に出てリフレッシュしてもらおう、そのために、お猿さんのパワーを借りようという内容のコラムを書いた。今回はその続編である。

  なんとかお年寄りに外に出てもらう方法はないかと一計を案じ、ひらめいたのが周防(すほう)猿回しの伝統芸で全国を旅している「猿舞座」座長の村崎修二さん(59)=山口県岩国市=と、相棒の安登夢(あとむ)=オスの15歳=にひと役買ってもらおうというアイデアだった。それは4月21日に実現した。金沢大学が提供した慰問ボランティアというかたちをとった。

  公演会場の一つである輪島市門前町の諸岡(もろおか)公民館では、午後2時からの公演だったが、すでに30分も前から、お年寄りが玄関で一座を待ち構えていた。写真は、客寄せ太鼓が鳴り響く中、村崎さんとお年寄りがおしゃべりをしている光景である。村崎さんは以前、この地区で公演したことがあり、「お懐かしや」とお年寄りから歓迎されていた。

  公演では、安登夢が跳び上がって輪をくぐる「ウグイスの谷渡り」などの芸を披露。会場は歓声と拍手に包まれました。公演は30分余りだったが、お年寄りは帰らない。安登夢が次の会場への移動のために車の中に入るまで、じっと見つめていたのである。村崎さんの持論は「お猿とお年寄りは相性がいい」「猿回しの芸を一番喜んでくれるのはお年寄り、それもおばあちゃんが喜ぶ」「安登夢が棒のてっぺんに上ってスッと立つと、たいがいのお年寄りは『有り難い、有り難い』と合掌までしてしてくれる」とよく言う。そのモンキーパワーが今回も発揮されたようだ。

  村崎さんはこの日、観客の前で重大なことを言った。「安登夢は15歳、人間の年齢ならば還暦は過ぎている。来月(5月)、山口県に帰りますが、そこで引退の公演をします」と。安登夢の芸歴の最後に「被災地慰問」が加わったことになる。

 今回の公演に先立つ20日、奥能登のある旧家を村崎さんと訪れた。この旧家に江戸時代から残る猿回しの翁(おきな)の置き物を見せていただくためだ。チョンマゲの翁は太鼓を抱えて切り株に座っている。その左肩に子ザルが乗っている。村崎さんによると、古来からサルは水の神の使いとされ、農村では歓迎された。それを芸として、全国を旅したのが周防の猿回しのルーツである。この置き物のモデルはひょっとして、村崎さんの先祖かも知れない。

  ショーアップされたテンポのよい猿回し芸もあるが、村崎さんの芸は古来からの人とサルが一体化となった、どちらかというと「人の芸8割、サル2割」の掛け合い芸である。見せる芸というより、人を癒(いや)す芸なのだ。安登夢が突然、ストライキを起こしてふて寝することや、木の登ってなかなか下りてこない、村崎さんを引っかく、かみつくこともしばしば。観客はそれも芸の一つとして笑い、和む。

  村崎さんの一座は4月25日から5月2日まで金沢で公演する。そのうち、28日午前11時と午後2時の2回、金沢大学角間キャンパスで公演する。これが安登夢の金沢での最後の公演となる。

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