☆大統領選を質すツイッター社の社会実験なのか

   まさに前代未聞の展開になっている。今月27日付のブログで、BBCニュースWeb版(27日付)の記事「Twitter tags Trump tweet with fact-checking warning」(ツイッターがトランプ氏のツイートにファクトチェックの警告をタグ付け)を取り上げた。トランプ大統領の投稿のうち、26日付で11月の大統領選挙でカリフォルニア州知事が進める郵便投票が不正につながると主張した件で、ツイッター社は誤った情報や事実の裏付けのない主張と判断し、「Get the facts about mail-in ballots」とタグ付けした。大統領のツイートと言えども、事実関係が怪しいツイ-トはファクトチェックの警告をする、との同社の新たな方針だろう。

   これに対しトランプ氏は27日、SNSを規制もしくは閉鎖するとけん制した。ツイートで「共和党はソーシャルメディアプラットフォームが保守派の見解を全面的に封じ込めていると感じている。こうした状況が起こらぬよう、われわれはこれら企業を厳しく規制もしくは閉鎖する」「今すぐ行いを改めるべきだ」と述べた(27日付・ロイター通信Web版日本語)。 

   ツイッター社もひるんではいない。29日にトランプ氏のツイートを初めて非表示にした。ミネソタ州ミネアポリスで今月25日、アフリカ系アメリカ人の男性が警察官に首を押さえつけられて死亡する事件が起きた。騒動が広がり、トランプ氏は「略奪が始まれば(軍による)射撃も始まる」という部分が個人または集団に向けた暴力をほのめかす脅迫に当たるとツイッター社は判断した。ただ、削除ではなく、「表示」をクリックすれば読める。すかざす、トランプ氏はツイートで同社を牽制した=写真・上=。「“Regulate Twitter if they are going to start regulating free speech.”」(言論の自由を規制しようとしているなら、ツイッターを規制せよ)

   表現が適切ではないかもしれないが、大統領選に向けた論戦がそっちのけになり、トランプ氏のツイートをめぐる攻防に、有権者やSNSユーザーの関心が集まり始めている。どちらが正しいかという評価ではなく、どちらが勝つかというリング観戦の様相になってきた。

   トランプ氏は28日、SNSを規制する大統領令に署名した。連邦通信品位法(CDA)の第230 条ではプラットフォーマーがコンテンツ発行者として保護される一方で、コンテンツの「管理権限」を与えている。これが撤廃されると、ファクトチェックの警告などは法的な根拠を失い、訴訟が多発するのではないだろうか。一方のトランプ氏とすると、この戦いが大統領選のライバルである民主党のバイデン氏に票が流れ込むという事態になれば、ほとぼりが冷めるまではツイートは休止ということになるかもしれない。

   ツイッター社のファクトチェック方針は、ある意味で「きれいごと」ではある。というのも、大統領選が本格的に始まれば、対立候補を誹謗中傷するネガティブ・キャンペーンがヒートアップする。2016年の大統領選では、クリントン陣営は「トランプはKKK(白人至上主義団体クー・クラックス・クラン)と組んでいる」とキャンペーンを張り、トランプ陣営は「クリントンは錬金術師だ」と映画までつくり相手陣営を攻撃した=写真・下=。アメリカの選挙風土は​相手の落ち度を責める、まさにデスマッチではある。このデスマッチにはテレビメディアも参戦する。FOXテレビは共和党、CNNは民主党がその代表選手だろう。

   誹謗中傷合戦の選挙状況にファクトチェックは通用するのだろうか。もし、こうしたアメリカの大統領選の状況をなんとか改革したい、質したい、論戦で有権者に訴える本来の大統領選であって欲しいと、ツイッター社が壮大な社会実験に挑んだのであれば、それはそれで一目を置きたい。

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