石川県には「森林環境税」がある。給与所得者の場合、毎年500円が給与から天引きされ、住んでいる市町へ納付される。会社などの法人も負担していて、年間で2億円余りになる。これが、手入れ不足の森林の整備や放置竹林の除去など、クマやイノシシなどの野生獣の出没を抑止するための里山林の整備などに充てられている。
「中山間地ハザード」は日本の課題モデル
それにしても、日本の森林は危機的な状況かもしれない。森林の所有者が高齢化し、後継者が都市生活者となる中、森林に整備の手が入らずが荒れ放題になっている。豪雨などによる大量の倒木が自然災害をより深刻なものにしている。さらに、イノシシやクマ、ニホンジカ、サルなどによる農作物などへの被害は年々増え続け、里山だけでなく市街地にまで広範囲化している。
きょう出席した会議での話だが、能登半島の先端、珠洲市で2018年度に捕獲・処分されたイノシシは1600頭、隣接する輪島市では2000頭に上る。イノシシの成獣を処分すると1頭当たり3万円が支払われる。処分したイノシシの多くは、捕獲した人が所有する山林に埋める。いま問題となりつつあるのは、埋める場所がもうなくなりつつあることだ。最近海岸に流れ着くイノシシの死がいが報告されるようになっている。担当者は「海岸の崖から転落したというより、埋める場所がなく、不法投棄されたのではないか」と案じていた。
各自治体では億単位のお金をつぎ込んで捕獲獣の処理施設を造り始めている。ただ、地域の高齢化でイノシシなど野生獣を捕獲する人は年々減少していくだろう。一方で、イノシシのメスは一頭で平均26匹前後の子を産むとされる。
手が入らなくなった中山間地におけるもう一つの問題は、ため池である。川がない地域などで農業用水を確保するために中山間地にため池が造成された。中には中世の荘園制度で開発された歴史あるため池も各地に存在する。農業の担い手がいる地域では、梅雨入り前にため池の土手を補修するなど共同管理している。問題となっているのは、担い手がいなくなったため池である。大雨によってため池が決壊すれば、山のふもとにある集落は水害と土砂災害が一気に襲ってくることになる。農水省がことし6月発表した、自然災害で人的被害が生じる恐れがある「防災重点ため池」は全国6万3千ヵ所に及ぶ。農業用ため池全体(16万6千ヵ所)の実に4割を占める。
ため池を放置すれば土砂崩れや水害のリスクが高まる。沼地化して、その後に樹木が生えて原野に戻っていくこともある。一方でため池は生き物の楽園でもある。能登半島はコハクチョウや国指定天然記念物オオヒシクイなどの飛来地としても知られる。これらの水鳥はため池と周辺の水田を餌場としても利用している。また、ため池は絶滅危惧種であるシャープゲンゴロウモドキやトミヨ、固有種ホクリクサンショウウオなど希少な昆虫や魚類の生息地でもある。ため池の管理が大きな曲がり角に来ている。
森林を放置すれば獣害、ため池を放置すれば自然災害。中山間地におけるハサードであり、日本の課題モデルではないだろうか。
(※写真は、共同管理がなされている、石川県七尾市の漆沢の池。400年以上も前に造られ、農水省の「ため池百選」に選ばれている)
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