自宅近くにあった大型書店が閉店し、コンビニエンスストアになった=写真=。これまで利用してきた書店だけに、「長い間のご愛顧に感謝しますとともに、皆様にご不便ご迷惑をおかけしますこと、心よりお詫び申し上げます。」と書かれた貼り紙が心寂しい。76年の老舗デパートの閉店も最近あった。既存の販売システムがインターネット通販などに押されて姿を消す現象が北陸でも顕著になってきた。
「インターネットの巨大隕石論」は、ソニーの元会長、出井伸之氏が20年も前に述べたたとえだ。6500万年前、メキシコのユカタン半島に落ちた巨大隕石が地球上の恐竜を絶滅させたといわれるように、インターネットを現代の産業社会に落ちた隕石にたとえた。ネットが流通やメディアなど既存産業にも打撃を与え、ネット社会に対応した改革が出来なければ、いずれ絶滅する。出井氏のたとえをそのように解釈している。冒頭で述べた大型書店の閉店はその光景をイメージさせる。
新聞・テレビのマスメディアも同じ光景になるのか。アメリカの現状は想像を超える。アメリカではネットへの広告費のシフトが急速に進み、2008年のリーマン・ショック以降、212の新聞が廃刊になっている。新聞記者も激減した。1990年代に5万6千人とされたが2014年には3万8千人に減った(アメリカ連邦通信委員会=FCC)。「取材の空白域」や「メディアの過疎地化」といった現象がアメリカ各地で起きている。2010年7月、カリフォルニア州ベル市の不正給与問題は「空白域」で起きた事例として知られる。新聞だけでなく、ネット動画配信が普及したアメリカでは視聴者によるコードカッティング(Cord Cutting)と呼ばれる「テレビ離れ」が深刻で、テレビ業界の経営が危ぶまれている。
FCCは2017年7月、地域におけるテレビ局と新聞社の兼業を禁止するメディア法の規制緩和に踏み切った。これによりテレビ局と新聞社のM&A(合併・買収)で、取材網の共通化やネット事業への投資など多様なメディア展開が可能となった。アメリカにおける既存メディアは生き残りへ必死の戦いを繰り広げている。
日本のメディアの現状はどうか。元毎日新聞役員の河内孝氏が2007年に日本外国特派員協会で講演した「Lonesome Dinosaurs(ロンサム・ダイナソーズ=寂しげな恐竜たち)」をネットで知り、著書『新聞社-破綻したビジネスモデル』(新潮社、2007)を購入した。部数至上主義で走ってきた新聞ビジネスがネットの時代に立ち行かなくなる理由を克明なデータをもとに解析したものだった。12年経って現状はどうか。確かに、新聞各社は広告収入も部数も徐々に落ちてはいるが、宅配によって新聞の販売収入でなんとか経営的には維持している。
ネットで読むニュースの情報源の多くは新聞とテレビの既存メディアだ。既存のメディアがなくなれば、フェイクニュースがあふれる、まさに暗黒の世界になる。アメリカが先行している、新聞社とテレビ局とのM&Aへの動きを日本でも始めるべきではないだろうか。民放テレビでは、系列のテレビ各局を傘下に入れる放送持株会社があるが、共倒れになる可能性もある。生き残りをかけた取材網の共通化やネット事業への共同参画といった点で、テレビ局と新聞社のM&Aが必要ではないだろうか。
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