☆尖った仕事、ニッチトップ企業への眼差し

   金沢大学のキャンパスで学生たちと話していると、学生の風潮が少し変わってきたのではないかと感じることがある。それは「将来は尖った仕事をしたい」とか「公務員や会社員はそのうちAIやロボットに取って替わるので、アート感覚の仕事がしたい」といった主旨の会話で盛り上がること増えた。インターンシップなどでも、独自の技術でグローバル展開する、いわゆる「ニッチトップ企業」への参加希望が目立っている。それまでは、就職難という時代もあり「親を安心させたいので」と上場企業や公務員志向が多かった。過去形ではなく、その志向の学生たちは今でも多いのは事実だが。

   今は売り手市場の時代なので、ある意味で「学生のわがまま」と言ってしまえば、そうなのかもしれないが、学生の志向は確実に「ナンバーワン」から「オンリーワン」へとシフトしているのではないかと直感している。先日も生態系を学ぶ学生と話をしていると具体的な企業名が話題となった。大量に廃棄される残さを乾燥・炭化処理するバイオマス炭化プラントを製造する「明和工業」という金沢市の企業だった。

   学生はその企業のことをよく調べていて、地球環境の改善に貢献することをCSR(企業の社会的責任)ではなく、本業として地球環境の課題解決に取り組む企業の姿にあこがれるというのだ。この企業はもともとは鉄工所からスタートだったが、環境改善に特化した機械装置を開発するため、大学と連携するなど「研究開発型のニッチトップ企業」でもある。学生は「この企業で学んで、自分も起業したい」とさらに自らの将来を見据えていた。

   学生たちは初等教育のころから「点数主義」という計りにかけられ、ひたすらナンバーワンを目指してきた。点数主義を悪く言うつもりはない。ある意味で公正で透明な計りだ。ただ、この計りだと、人間としての多様性を育てることはできないのだ。一方で、「ナンバーワン省庁」とも言える財務省事務方トップを始めとして、いわゆるエリートとして評価を勝ち得てきた人たちの不祥事がさまざま場面で散見される。特にセクハラ、パワハラ、盗撮など。そして、業界ナンバーワン、あるいはトップの企業で相次ぐ組織ぐるみの品質データを書き換え、改ざん問題など。明らかに人として、企業としての在り様が歪んでいる。

   「尖った仕事」「ニッチトップ企業」にあこがれる今の若者たちの風潮はひょっとして、この点数主義に反旗をひるがえしているのではないかと思う。そのきっかけはAI、ロボットの活用時代という「Society 5.0」での価値感の大きな変化なのかもしれない。簡単に言えば、「点数主義の人間のする仕事なんて、そのうちAIやロボットが勝る時代が来る。AIやロボットでは絶対できない、新しい時代の仕事をみつけたい」と。自らの存在価値を確認する時代と言えるかもしれない。

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