能登の海は生物多様性に富んでいる。ブリやタラ、フグといった魚介類の種類の多さということもさることながら、波打ち際にも生き物がいる。ナミノリソコエビだ。初耳の人はサーフィンするエビとでも想像してしまうかもしれない。全長数㍉から1㌢ほどの小さなエビだが、シギやチドリのような渡り鳥のエサになる。石川県では高松海岸などで波打ち際にシギやチドリが数10羽群れている光景をたまに見る。鳥たちは波が引いた砂の上に残るナミノリソコエビを次の波が打ち寄せるまでのごくわずかな時間でついばむのだ。
渡り鳥はオーストラリアから日本を経由してシベリアまで渡っていく。その途中で、能登半島の海岸に好物のナミノリソコエビをついばみに空から降りてくる。ただ、ナミノリソコエビは砂質が粗くなったり、汚泥がたまると生息できなくなる。いまこの波打ち際の生態系が危うい。
石川県廃棄物対策課のまとめによると2月27日から3月2日の4日間の調査で、県内の加賀市から珠洲市までの14の市と町の海岸で、合計962個のポリタンクが漂着していることが分かった(2日付の県庁ニュースリリース文)。ポリタンクは20㍑ほどの液体が入るサイズが主で、そのうちの57%に当たる549個にハングル文字が書かれ、373個は文字不明、27個は英語、10個は中国語、日本語は3個だった。さらに問題なのは、962個のうち37個には残留液があり、中には、殺菌剤や漂白剤などに使われる「過酸化水素」を表す化学式が表記されたものもあった。県ではポリタンクの中身を分析しているが、危険物が入っている可能性もあるので、ポリタンクに触らず、行政に連絡するよう呼びかけている。大量のポリタンクが漂着したのは今年だけではない。近年では2010年にも石川の海岸に1921個(全国22194個)が流れ着いている(環境省調査)。
ポリタンクだけではない。医療系廃棄物(注射器、薬瓶、プラスチック容器など)の漂着もすさまじい。環境省が2007年3月にまとめた1年間の医療系廃棄の漂着は日本海沿岸地域を中心に2万6千点以上で、うち900点余り中国語だった。このほか、ペットボトルなど飲料や食品トレーを含めれば膨大な漂着物が日本海を漂い、そして漂着していることが容易に想像できる。
上記は目に見える漂着物だ。もっと問題なのは一見して見えない、大きさ5㍉以下のいわゆる、マイクロプラスティックだ。ポリタンクやペットボトル、トレーなどが漂流している間に折れ、砕け、小さくなって海を漂う。陸上で小さくなったものも川を伝って海に流れる。そのマイクロプラスチックを小魚が飲み込み、さらに小魚を食べる魚にはマイクロプラスチックが蓄積されいく。食物連鎖の中で蓄積されたマイクロプラティックを今度は人が食べる。単なるプラスティックならば体外に排出されるだろうが、有害物質に変化したりしていると体内に残留する可能性は高いといわれている。
ポリタンクや医療系廃棄物の不法な海洋投棄は国際問題だ。バルセロナ条約は21カ国とEUが締約国として名を連ねる、地中海の汚染防止条約(1978年発効)がある。条約化に向けて主導したのは国連環境計画(UNEP)。UNEPのアルフォンス・カンブ氏と能登半島で意見交換したことがある。そのとき、彼が強調したことは日本海にも染防止条約が必要だ、と。あれから10年ほど経つが、汚染が現実となっている。日本海の汚染防止条約が今こそ必用だと実感している。
(※写真は能登の海岸で地引網を楽しむ大学生たち。豊かな海を大切にしたい)
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