★能登の風

  知り合いの新聞記者から近著、『能登の里人ものがたり~世界農業遺産の里山里海から』(アットワークス)をいただいた。著者は藤井満氏。2011年に朝日新聞輪島支局で記者として赴任し、ことし4月に和歌山の南紀支局に転勤となった。藤井氏と面識を得たのは2011年5月だった。輪島支局に来られた早々のころ。能登についていろいろと質問を受け、貪欲なまでの取材意欲を感じた。その後、4年間の能登での取材と考察をまとめたのが、上記の著書である。読み続けると、行間から能登の人たちへの敬愛がにじみ出ていて、引き込まれる。

  藤井氏が赴任したころ、能登には一つの大きなエポックメイキングが始まろうとしていた。国連食糧農業機関(FAO)による世界農業遺産(GIAHS)に日本で初めて能登と佐渡がエントリーしていて、6月のGIAHS国際フォーラム(中国・北京)で認定の可否が注目されていた。藤井氏と名刺を交換した5月は、世界農業遺産についての勉強会が朝日新聞金沢総局の主催で開かれた日だった。その後、「能登の里山里海」がGIAHSに認定され、人々のさまざまな動きが始まる。それをつぶさに観察して、朝日新聞石川版で「能登の風」とのタイトルで連載記事を連ねた。著書の中で述べている。「能登には『超一級品』がない」のになぜ世界農業遺産に認定されたのか、疑問を持ちつつ、能登の世界農業遺産という時代の風と人々の動きを丹念に追っている。

  能登半島の先端・珠洲(すず)市に隣り合わせに狼煙(のろし)と横山という2地区がある。隣接地だが、観光と漁師の狼煙と純農村の横山は気質の上でも折り合いが悪く、原発立地計画をめぐってしこりも残った。2003年に原発計画は凍結され、気が付いてみると両地区は過疎と高齢化に見舞われていた。狼煙は水田の4割が耕作放棄地になっていた。隣の横山は在来種の大浜大豆の栽培に活路を見出し、豆乳や豆腐の加工品の販売に活路を見出した。そこで、狼煙に禄剛崎灯台という「さいはての灯台」が観光地としてあり、両地区の住人が出資して「道の駅狼煙」の運営会社をつくった。大豆の関連商品の売上年間2200万にもなり、観光客も増えてきた。お互いに協働を模索し、観光と農業がうまくマッテイングした。能登にはそんな風が吹いている。藤井氏が発掘した記事だ。

⇒10日(木)午前・金沢の天気   くもり