☆上空に寒気の投票日

  上空に寒気が流れ込んでいるせいかみ、14日朝から金沢の平野部でも10数㌢ほどの積雪となった。朝7時40分に自宅を自家用車で出発して、輪島市に向かった。途中、大学の関係者を乗せるため、小立野台と呼んでいる高台を走ると積雪が一気に30㌢ほどにも増えた。同じ市内でも高低差などでこれほど違う。そんな金沢の積雪差を指してこう言う。「香林坊は雨でも、小立野台はみぞれ、湯涌は雪」と。

  金沢から輪島に向かう縦貫道「のと里山海道」(全長83㌔)を走る。金沢から向かうので当然、積雪は金沢よりも多いと判断しがちだが、そうではない。「金沢が大雪でも。能登は小雪」ということもままある。そこで、9時ごろに目的地に電話を入れた。輪島市内の山間部でさぞかし大雪と思いきや、「20数㌢ほど。軽四でも大丈夫」との返事。「チェーンもスコップもいらない。スノータイヤで大丈夫」と安心し、車を走らせた。雪国に住んでいると日常的にそんなことをついつい考える。

  10時すぎに、目的地の輪島市三井町に到着した。「あえのこと」を撮影するためだ。ユネスコの無形文化遺産に登録されている「奥能登のあえのこと」は、田の神に感謝して、もてなす農耕儀礼として知られている。毎年12月5日、その家の主(あるじ)は田んぼに神様を迎えに行く。あたかもそこに神がいるがごとく身振り手振りで迎え、自宅に招き入れる。お風呂に入ってもらい、座敷でご馳走でもてなす。田の神は目が不自由であるとの設定になっていて、ピタリティ(もてなし)が行き届く丁寧な所作が特徴だ。

  こうした伝統的な農耕儀礼を踏襲しつつも、新しいスタイルで「あえのこと」を行っているグループがある。デザイナーの萩野由紀さんが主宰し、金沢大学の生物研究者たちが加わる生物多様性調査グループ「まるやま組」だ。毎月の田んぼや周囲の生物調査をベースに、調査で見つかった生き物の名前を記した「依り代(よりしろ)」をつくっている。この依り代を広げてみると、ことし確認された300種の植物と123種の水生生物、合わせて423種の名前と学名が記され、絶命危惧種は赤字、外来種は青字で示している。この依り代を手に田んぼで神様を呼び寄せて家に招き入れ、食の安全と豊作に感謝する。田の神という伝統的な概念を自然の恵みとも解釈し、生物多様性の保全と結びつけてる。

  解釈だけではない。田の神に感謝するのは生産者だけでなく、コメを食べる消費者も同じ視点でこの「あえのこと」の儀式に参加しようとグループでは呼びかけている。14日、関心を寄せて集まった人数は50人がそれぞれ田の神に捧げるお酒、甘酒、お菓子、煮物、漬物、ご飯、野菜など持ち寄った。これを輪島塗の赤御膳に並べて供し、そのほかは「お下がり」と称して、儀式の後、参加者全員でいただくのである。まるやま組の伝統儀礼と現代解釈の取り組みは、「国連生物多様性の10年日本委員会」が主催する「生物多様性アクション大賞2014」でアクション対象に選ばれた(11月30日)。日本の文化を大切にする、食べることを通じて生物多様性、自然のめぐみに感謝するといった、日本人の忘れかけている大切なことを今に伝えている、高く評価された。

  まるやま組の「あえのこと」を里山の新たな動きとして取材するため、カメラマンと金沢大学里山里海プロジェクトの研究代表、中村浩二特任教授に赴いたのだった。中村教授が現地でリポート(英語)、そしてインタビューした。昔取った杵柄(きねづか)で、収録ディレクターというのが私の役回りだ。一連の取材が終わって金沢に戻ったのは19時ごろだった。夕方からさらに風雪が強くなってきた。

  きょうは衆院選挙の投票日だ。いったん自宅戻り、近くの投票所(中学校体育館)に入ったのはギリギリの19時58分。ラストの投票者だった。一票を投じた瞬間に「ちょうど午後8時になりましたので投票所を閉鎖します」と係員の声が響いた。自宅に戻ると、テレビ各社の選挙特番が始まっていた。もうすでに出口調査で、自民は230議席と報じられている。まだ、開票前なのに、である。

  この日、もう一つ仕事が残っていた。21時30分、金沢市の開票作業始まるのに合わせて、金沢市営中央市民体育館(同市長町3丁目)に出かけた。学生たちを激励するためだった。新聞社からの依頼で、学生たち何人かに開披台調査の選挙アルバイトを勧めた。この調査は、双眼鏡で開票者(自治体職員)の手元を覗きながら、小選挙区の候補者名をチェックしていく。投開票日のその日には、テレビ新聞メディアは投票所では出口調査が、開票所では開披台調査を実施する。出口調査で大差がついていれば、20時からの選挙特番で「当選確実」の予想は打てるのだが、小差ならば開披台調査で当落を判断することがある。

  21時30分、新聞社の調査を勧めた学生たちが一人もいない。開票所に新聞社の連絡員がいたので、「どうなっているのか」と問うと、急きょ石川3区(能登地区)の開票所に学生たちが派遣された、とのこと。出口調査の段階で1区(金沢市)の自民と民主の候補者の間で12ポイントの差がついていた。3区では自民と民主の候補者の差が7.1ポイントの差だった。当然、開披台調査の主力部隊は3区に注がれる。3区の七尾市の開票所に向かおうかと一瞬考えたが、夜間なので路面の凍結(アイスバーン)のことが頭をよぎって、向かうのをためらった。上空の寒気に朝から夜まで惑われた一日だった…。

※写真・上は輪島市で執り行われた「まるやま組」の農耕儀礼「あえのこと」の様子。手前はダイコン、無効に押し花が飾られている。写真・下は金沢市中央市民体育館の衆院選石川1区の開票作業の様子(午後9時32分)

⇒14日(日)夜・金沢の天気  ゆき