★匿名報道へのワナ

  これはある種のワナではないか、一連の記事を読んで感じた。18日付の朝刊各紙で報じられた、中国海軍のフリゲート艦が1月に海上自衛隊護衛艦にレーダー照射した問題で、中国軍の複数の高級幹部は17日までに、共同通信の取材に、攻撃用の射撃管制レーダーを照射したことを認めた、という内容の記事である。記事では、「艦長の緊急判断だった」と計画的な作戦との見方を否定し、昨年12月、中国の国家海洋局の航空機が尖閣付近で領空侵犯した問題は「軍の作戦計画」と認めたが「事態をエスカレートさせるつもりはなかったし、今もない」と言明した、と続けている。この記事だけを読めば、レーダー照射問題に関して一貫して否定してきた中国側の「奥深い」訂正のメッセージかと思ってしまう。

  これに対して、18日のメディア各社のネットニュースでは、中国国防省報道事務局は18日、中国海軍艦艇による海上自衛隊護衛艦へのレーダー照射問題で、中国軍幹部が射撃管制用レーダー照射を認めたとする日本の一部メディアの報道について「事実に合致しない」と改めて否定する談話を発表した、とある。さらに、同局は「日本側がマスコミを使って大げさに宣伝し、中国軍の面目をつぶして、国際社会を誤解させるのは、下心があってのことだ」と非難。「日本側は深く反省し、無責任な言論の発表をやめ、実際の行動で両国関係の大局を守るべきだ」と求めた、というのだ。

  中国国防省報道事務局がノーコメントならば、「奥深い」訂正のメッセージと解釈できるのだが、「日本側がマスコミを使って大げさに宣伝し、中国軍の面目をつぶして…」とあるように、日本の政府が仕組んだ宣伝と発表したことで、冒頭の「ワナではないか」と感じるのだ。

  国内メディアを徹底的に管理監督している中国政府はメディアのツボというものを熟知している。共同通信の取材源は「中国軍の複数の高級幹部」としており、匿名報道なのだ。日本のメディアではこの匿名報道を多用している。国内でも「政府筋によると」や「事件の捜査担当者によると」などとして実名を明かさない。「情報源の秘匿」と言えば、そうなのだが、アメリカのメディアなどは実名報道を原則としている。中国で、匿名報道がどれほど通用するだろうか。直観したのは、この日本のメディアの匿名報道の手法が逆用されて、日本政府への攻撃キャンペーンに利用されるのではないか、と。

  というもの、最近中国側の外国メディアに対する関わりが散見される。18日付の読売新聞ネットニュースでは、ニューヨーク特派員の署名記事で、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、WSJ中国支局の社員が情報提供の見返りに複数の中国政府当局者に贈賄行為を行ったとの告発があり、米司法省の調査を受けたことを明らかにした、との報道があった。しかし、WSJによる内部調査の結果、告発を裏付ける証拠はなく、同紙の中国報道への報復を狙った可能性があると同省に伝えたという。その報復とは、WSJによると、職権乱用や巨額収賄などを問われて公職から追放された薄煕来・元重慶市党委書記に関する報道と関連があり、告発者は中国政府の意向を受けた人物とみている。WSJは中国指導者層の腐敗などに関する記事を掲載している。司法当局に「タレこむ」でことで、ある種の取材抑制を仕掛ける意図が見えてくる。

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