「働かないギリシャやイタリヤに意義がある」
相当な影響だろう。イタリア経済はギリシャとは比べものにならない、ドイツ、フランスに次ぐユーロ圏3位の経済力を持つ国なのだ。さらにギリシャはすでにデフォルト(破綻)していると見方がある。実際、ギリシャ10年債利回りは30%を超えている。欧州首脳会談では、ギリシャの国債の50%の元本減免されたが、残り50%も支払われるかどうかはもわからない。これが危機感の連鎖をもたらしている。
先月(11月)10日の誤送信問題を思い出した。アメリカの格付け会社「S&P」が、フランス国債の格付け引き下げを知らせるメールを「誤送信」したことで市場が一時混乱した。ギリシャ、イタリアに続き、フランスまでもと市場も国際政治も騒然としたことだろう。S&Pはその後の公式発表で、「誤送信」とした。でもこれは常識で考えれば「予定原稿」だろう。利用しない原稿を準備するはずがない。これが混乱が混乱を招くユーロ圏の実態だと思えばよい。
ヨーロッパの実質経済もよくない。ニュースを総合すると、欧州主要国の経済予測を見ると、来年は今年よりも厳しい見込みが出ている。実質経済成長率では、ドイツでさえ2.9%から0.8%へ下落の見通し。ドイツ政府が11月に発表した9月の鉱工業生産指数は前月比2.7%低下し、第3四半期終盤に生産の勢いが急激に失速していることを示していると伝えられた。スペイン、ポルトガル、ギリシャ、イタリアなど経済の調子が悪くなるに連れ、EU圏内での取引が多いドイツ経済に徐々に悪影響が出てきているのだろう。
ここまでも話を進めると、かつてギリシャは歴史的に「民主主義」を生み出した国だったが、いまや「衆愚政治」に陥った国、そしてイタリアもフランスも同じ轍を踏んでいると思ってしまう。そして、今やその衆愚政治は治療できない、本当の欧州危機ではないかと多くの人が考え込んでいる。
ことし夏に読んだ本の中に、『働かないアリに意義がある』(長谷川英祐著、メディアファクトリー新書)がある。進化生物学者である著者の言いたいことを私なりに解釈すると次のようになる。昆虫社会には人間社会のように上司というリーダーはいない。その代わり、昆虫に用意されているプログラムが「反応閾値(いきち)」である。昆虫が集団行動を制御する仕組みの一つといわれる。たとえば、ミツバチは口に触れた液体にショ糖が含まれていると舌を伸ばして吸おうとする。しかし、どの程度の濃度の糖が含まれていると反応が始まるかは、個体によって決まっている。この、刺激に対して行動を起こすのに必要な刺激量の限界値が反応閾値である。
人間でいえば、「仕事に対する腰の軽さの個体差」である。きれい好きな人は、すぐ片づける。必ずしもそうでない人は散らかりに鈍感だ。働きアリの採餌や子育ても同じで、先に動いたアリが一定の作業量をこなして、動きが鈍くなってくると、今度は「腰の重い」アリたち反応して動き出すことで組織が維持される。人間社会のように、意識的な怠けものがいるわけではない。
これを少々乱暴な論の進め方であるが人間社会で想像してみる。人々の働きによって金がぐるぐる回る資本主義社会ではギリシャやイタリアの反応閾値はよくなかった。しかし、世界が混乱に陥り、人類が新たな文明の理念を求め始めたとき、「腰の重い」ギリシャやイタリアから新たな思想や英雄が現るのかもしれない。本のタイトルになぞらえれば「働かないギリシャやイタリアに意義がある」と。そう願いたい。
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