大学の授業のTA(テーチィング・アシスタント)をしてくれている中国人留学2人を誘って、先日忘年会をした。金沢の居酒屋でのささやかな宴(うたげ)。刺し身、生春巻き、焼き鳥、そして飲み物はワインだ。中国ではビール、紹興酒だけでなく、意外に中国の若者はワイン党なのだとか。彼女たちは「日本の食べ物はおいしい。安全ですから」と喜んだ。中国でも国民は食の安全性にとても敏感になっていると言う。少々価格は高いが日系資本のスーパーマーケットを利用する中国の消費者も増えている。
「ヘビが住む家から鳥は飛び立たない」ロシアのことわざ
彼女たちは本国の食の事情を嘆いた。「毒菜」という言葉があるそうだ。姿やカタチはよいが、使用が禁止されている毒性の強い農薬(有機リン系殺虫剤など)を使って栽培された野菜のことを指す。「下水油」というのもある。残飯やどぶの汚水などを処理して精製した油、あるいは劣化した油を処理して見栄えをよくした油で実際に年に何万㌧も出回っていて、最近摘発された。「同年代の若い人たちは屋台の食堂には行かなくなりましたよ。なんだか怖くて」と。中国のゆがんだ「食」をただしていくのはネットで情報を共有し合える若い世代なのかもしれない。
先日、あるロシア人事業家と話す機会があった。彼は、中古の乗用車や建設機械、漁船などを日本国内や極東ロシアに販売する仕事をしている。将来はインドやアフリカにも販売ルートを拡大したいとプランを練っている。その彼が意外なことを口にした。「年々、ロシアのビジネス環境は悪化している」と。ロシアは今月(12月)16日、世界貿易機関(WTO)の加盟承認を得て、批准手続きを経て154ヵ国目の加盟国となる予定だ。資源依存度が高いロシアは2008年のサブプライムローン金融危機による需要の低迷から一時原油価格が急落し打撃を受けたが、WTO加盟でさらに経済の多様化に弾みがつき、ビジネス環境はむしろよくなっていると素人目にも映っていたのだが。
彼は続けた。「ロシアのことわざに、ヘビが住む家から鳥は飛び立たない、とね」。何を意味しているのかというと、WTO加盟に向けた動きなどビジネス環境はよくなって見えるものの、現実は「国内のエネルギー産業は国が統制する」とのプーチン大統領時代からの方針があり、たとえば天然ガス生産量世界最大のガスプロム社は政府の株式保有比率は過半数を超える半国営企業だ。また、ロシア最大規模の石油会社ユコスの創業者が脱税事件で逮捕され(2003年10月)、会社そのものが解体された。そうした政府による経済支配はメドベージェフ大統領になっても引き継がれ、今ではエネルギー産業にとどまらずさまざまな経済分野に及んでいる。大統領の背後でにらみを利かせるプーチン首相、さらにそのバックヤードでかつてのソ連国家保安委員会(KGB)人脈がうごめく。彼はそのビジネス環境を「ヘビが住む家」とたとえたのだ。
ニュースによると、今月(12月)4日のロシア下院選挙をめぐり、与党「統一ロシア」の不正疑惑への抗議が続いて、24日にはソ連崩壊後最大となる集会がモスクワであった。来年3月の選挙で大統領復帰を狙うプーチン首相。「プーチンなきロシアを」と叫ぶ民衆にはくだんのロシア人実業家と同じ閉塞感があるのだろうか。隣国ロシアの2012年の動きが気にかかる。
※写真は中国・北京の紫禁城(故宮)の竜の扉
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