生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)での最大の成果は、名古屋議定書とともに、条約の今後10年間の活動の方向性を示す愛知ターゲットを採択したことだといわれる。名古屋議定書は、正式には「ABS(遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分)に関する名古屋議定書」との名称。以下が骨子となる。▽資源を利用する場合は、事前に原産国の許可を得る、▽資源を利用する側は、原産国側と利益配分について個別契約を結ぶ、▽資源に改良を加えた製品(派生品)の一部は利益配分の対象に含めることができる。対象に含めるかどうかは契約時に個別に判断、▽不正に持ち出された資源ではないかをチェックする機関を各国が一つ以上設ける。
愛知ターゲットは略称で、正式には「新戦略計画2011-2020」。▽戦略目標 A…各政府と各社会において生物多様性を主流化することにより、生物多様性の損失の根本原因に対処する、▽戦略目標 B…直接的な圧力を減少させ、持続可能な利用を促進する、▽戦略目標 C…生態系、種及び遺伝子の多様性を守ることにより生物多様性の状況を改善する、▽戦略目標 D…生物多様性及び生態系サービスから得られる全ての人のための恩恵を強化する、▽戦略目標 E…参加型計画立案、知識管理と能力開発を通じて実施を強化する。以上の5つの戦略目標があり、さらに20の目標がそれぞれに分類分けされている。たとえば、戦略目標 Cでは「2020年までに、少なくとも陸域及び内陸水域の17%、また沿岸域及び海域の10%、特に、生物多様性と生態系サービスに特別に重要な地域が、効果的、衡平に管理され、かつ生態学的に代表的な良く連結された保護地域システムやその他の効果的な地域をベースとする手段を通じて保全され、また、より広域の陸上景観又は海洋景観に統合される」(目標11)と数値化された目標がある。また、戦略目標 Eでは「2020 年までに、各締約国が、効果的で、参加型の改訂生物多様性国家戦略及び行動計画を策定し、政策手段として採用し、実施している」(目標17)と国家戦略と行動計画の実施をうたっている。愛知ターゲットの実効性を確認するため、2014年に中間報告を行うことになっている。
記念フォーラムでは面白い場面があった。パネル討論で、生物多様性条約事務局長のアフメド・ジョグラフ氏が上記の名古屋議定書と愛知ターゲットについて話した後、国連食糧農業機関(FAO)土地・水貢源部長のパルビス・クーハフカン氏=写真・右=は「ジョグラフ氏とは兄弟のようなものだ」と自己紹介をした。この言葉が実はとても意味がある。パルビス氏は世界農業遺産(GIAHS)の事務局長もある。切り出した話が「生物多様性はすなわち食糧の多様性である」と。以下、話を要約する。現在世界の70%の人口は都市住民である。この傾向が強まれば、それだけ食べ物は単純化されていく。人類の栄養バランスは今後大きな課題となる。中国・雲南省のハニ族は140種類もの米をつくっている。一方で、農村は若者の人口の流失で耕作が維持できなくなりつつある。これは世界的な傾向だ。大規模経営の農業ではなく、世界の地域に根付き地域に必要な食糧や食材を提供してきた小規模経営の農業を見直す転換期にある。つまり農産物の遺伝子資源を守り、持続可能なかたちで発展させるということだ。日本で里山や里海の重要性が強調され始めているが、生物多様性の目指すところも、食物の多様性を目指すことも同じことである。
確かに、これまで生物多様性は環境問題であるとの観念が強かった。農山村が荒廃することで失われた生物多様性も多々あることは生態学者が指摘してきた。地球課題となった生物多様性の保全と多様な農業の再生というベクトルをどううまく組み合わせるのかこれが人類の知恵の出しどころということなのだ。
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