現実に目を向けてみよう。地デジの世帯普及率は、昨年3月の総務省の調査では、薄型テレビなどのデジタル対応受信機の世帯普及率は83.8%だ。これ以降で、テレビの買い替えが進んでいるとしても90%に届いているかどうか。さらに、ビル陰による受信障害が約319万世帯、山間部のデジタル波が届かない地域は72万世帯にも上る。さらに、地デジに対応しないVHFアンテナしかない世帯は大都市圏を中心に220万世帯から460万世帯もあるとされる。これら問題が解決されないと、「7月24日」に仮に10%の世帯が取り残されたとして、全国約5千万世帯のうち500万世帯の「テレビ難民」が発生する。
2009年6月12日に地デジ移行したアメリカはもともとケーブルテレビ局の普及が85%もあり、無理なく移行できると踏んでいたが、それでも2度延期した。デジタル放送を従来のアナログ受信機で視聴できように変換するデジタル・コンバーターを購入するクーポン券(40㌦)を1世帯2枚まで発行した。コンバーターは1台40㌦からあるので無料で、あるいは10㌦を家庭が負担すればよいコンバーターが買える仕組みだが、それでも最終的に2.5%に相当する280万世帯は取り残された。ただ、アメリカの判断は日本と違って、「アメリカでは受信するかしないかは個人の自由という受け止め方」(FCC法律顧問ミラー・ジェームス氏)と割り切る。現実に、クーポンの発行延長も議会では否決された。ところが、日本では地デジを視聴することは「国民の権利」と見なされている。それゆえ、生活保護世帯や独居老人宅には無料でチューナーが配布される。
生活保護世帯などに無料でチューナーが配布されれば準備万端かというと、それほど単純な話ではない。チューナーが渡されるが、セットアップまでケアしていない。取り付け、新たなリモコンの操作が分からない人が実に多い。1つのチューナーで家庭のテレビすべてが視聴できるようになると勘違いしている人も多いのが現状だ。さらに、生活保護世帯はある意味で把握しやすいが、生活困窮のボーダーランにいて生活保護も受けることができず、チューナーを入手できない、地デジ対応テレビも購入できない層は数知れないのだ。そうしたボーダーライン層の声は国や地方自治体に届いていない。仮に、声が自治体に届いても、驚くことに、地デジ対策は自治体の仕事ではなく、国とテレビ局の仕事だと反発している自治体もある。
そして、問題なのは、地デジ移行の本来の目的が国民の間で十分に理解されていないことだ。こうなると、電波の再編ために、高価な地デジ対応テレビの購入を国民に負担させるのかという論議が台頭し蒸し返される。こうした様々な後ろ向きの論議が「7月24日」に向けて、沸き起こってくるだろう。そのときに、懸命になって対応するのは一体誰なのか、政府か、テレビ業界か、自治体か・・・。果たして「7月24日」を突破できるのだろうか。あるいは延長法案の提出か。日本の地デジ、伸るか反るかの正念場だ。
※写真は、アメリカの地デジのキャンペーン。デジタル・コンバーターの普及に向け、設置の仕方を説明するTVアナウンサー(2009年)=ミラー・ジェームス氏提供
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