★されど「カム撮り」

 17日付の新聞各社のインターネットニュースで、映画の盗撮のことが掲載されている。俗称「カム撮り」。映画館で上映されたスクリーン映像を盗み撮りし、ファイル交換ソフト「Share」を使ってネット上に流したとして、堺市の運送会社社員(37歳)が著作権法違反(公衆送信権の侵害)の疑いで逮捕された。盗撮された映画は邦画「クローズZERO II」で、東宝など8社の著作権を侵害したという。ネットにアップしたのは5月中旬で、大阪府警生活経済課ハイテク犯罪対策室が内偵していたようだ。ただ、ネット上の映像が粗く、雑音も入っていた。粗雑なネット動画なら、商品価値はなく、そう目くじらを立てる必要もないと思えるのだが、権利を侵害された側にとっては一大事である。著作権は被害者が訴える親告罪だ。

 この映画の盗撮は、もともとハリウッドの権利を守るためにアメリカが主張したものだ。「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書」(2006年12月5日)に盛り込まれた事項。日本とアメリカの経済パートナーシップを確立するとの名目で2001年に始まった「規制改革および競争政策イニシアティブ」(規制改革イニシアティブ)である。分野横断的改革を通して、市場経済をより加速させるとの狙い。06年当時は、安倍首相の時代だった。小泉内閣の遺産を引き継ぎ、日米関係はすこぶる順調だった。新しいビジネスチャンスを生み、競争を促し、より健全なビジネス環境をつくり出す改革として、アメリカ側の要望書には多くの案件が盛り込まれた。規制緩和が主流であったが、こと「知的財産権」に関してはアメリカのペースで規制強化が行われた。

 アメリカ側は知的財産権保護を強化するいくつかの案件を提示した。一つに、被害者が訴える親告罪ではなく、警察や検察側が主導して著作権侵害事件を捜査・起訴することが可能となる非親告罪化を要求した。また、著作権の保護期間を日本では死後50年としているが、死後70年に延長するよう迫った。さらに、映画の海賊版DVD製造の温床とされた映画館内における撮影を取り締まる「盗撮禁止法」を制定することを要求したのだった。

 日本国内では、「非親告罪化」と「死後70年」に関しては議論が分かれたため、誰からも文句が出なかった「盗撮禁止」が手っ取りばやく法制化された。翌年成立した「映画の盗撮の防止に関する法律」がそれである。著作権法の特別法として制定され、私的使用を目的とした著作物の複製行為(著作権法30条1項)には当たらず、刑事罰の対象となる。アメリカからの要求以前にも日本映像ソフト協会などから法律化を求める声が上がってはいた。

 たかが「カム撮り」と言うなかれ、通商外交が絡んだ、されど「カム撮り」なのである。

⇒17日(月)夜・金沢の天気  はれ