18日午後9時から放送された日本テレビの番組「小泉純一郎を知っているか?」を見た。小泉総理の在任2000日の主な出来事の舞台裏を再現したドラマと、20日の自民党総裁選挙を控えた安部晋三、谷垣禎一、麻生太郎の3氏とその応援団の議員をスタジオに呼び生中継で討論させるという、ドラマと生討論を融合させた野心的な番組だった。
小泉政治とメディア④
番組の中で次期総理に最も近いとされる安倍氏は、「北朝鮮による日本人拉致問題担当大臣を置く考えはないか」とキャスターから質問され、「外交ルートは二元化してはならないが、被害者の家族のケアもある。全体的に拉致問題を担当する人がいてもいい」と語ったことが、さっそく共同通信や新聞各紙のインターネット版でニュースとして流れた。これを質問したのであれば、すかさず「誰を大臣に」と突っ込めばさらに番組の価値が高まったかもしれない。
なぜならば、その人物はおおかたの人が想像するように、02年に帰国した拉致被害者の支援を担当した中山恭子氏(元内閣官房参与)だろう。とすると、拉致担当大臣は外務大臣を兼ねることも十分予想されるので、安倍内閣では「中山外務大臣」の線も浮かんでくるのではないか…。
「組閣」ともあれ、任期を終える総理をドラマ化するというのは前代未聞だ。しかも、高支持率のうちに辞するのである。安倍氏の大きな後ろ盾として小泉氏の存在感が増すに違いない。話をドラマに戻す。総理役の岩城滉一=写真=もツボにはまっていたし、亀井静香役の竜雷太は顔の引きつらせ方やしゃべり方まで亀井氏の仕草を相当研究したのだろう。
印象に残ったシーンは去年9月の総選挙にいたる攻防だった。「干からびたチーズ」の大芝居は面白かった。森前総理(綿引勝彦)が郵政民営化法案が参院で否決されたら衆院を解散すると言い張る小泉総理を翻意させようと官邸に乗り込む。それは失敗に終わるが、帰り際に「小泉が本気であると(記者に)伝わるように、森さん本気で怒ってくれ」と小泉総理に言い含められる。すると森氏はわざわざ握りつぶした缶ビールの空き缶と干からびたチーズ(ミモレット)を持って官邸の外に出て、「寿司でも出してくれるのかと思ったら、この干からびたチーズだ…。オレはサジを投げたよ」と、とくとくと記者に語って聞かせる。
この演技で記者はおろか国民も「衆院解散の意志は固い」という小泉総理のシグナルの読み取ってしまった。ここをスタートに300議席へとつながる選挙の政変が起きる。私は勝手にこの下りを「ミモレット劇場」と名付けた。歴史をつくった名演技だったからである。テレビドラマではない。名優は本物の森氏である。逆に見え見えの演技だったら選挙で大敗を喫していたに違いない。
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