国内のトキは環境省が佐渡保護センターで集中的に飼育していて、その数は現在98羽に増えている。しかし、1カ所に集めた飼育では鳥インフルエンザなどのリスクも大きいとして、分散飼育の方針を打ちしている(03年)。環境省では100羽になるのをめどに国内の複数の動物園で分散飼育して繁殖させる計画。さらにその先には放鳥による野生化計画も視野に入れているようだ。
こうした環境省の動きを見越した「いしかわ動物園」(石川県能美市)ではトキ類人工繁殖チームが発足し(04年)、近縁種のクロトキで繁殖方法のノウハウを磨いている。石川のほか、東京の上野動物園や多摩動物園なども、環境省が公募した分散飼育先に名乗りを上げた。その公募がこのほど打ち切られ、飼育先の決定を待つばかりとなっている。
石川が熱心になっているのも、本州最後の1羽は能登半島に生息していたオスだったからだ。「能里(のり)」という愛称まであった。佐渡のトキ保護センターに移され、1971年(昭和46年)に死亡した。その後、剥製となって里帰りし、毎年の愛鳥週間(5月10日から)には県立歴史博物館で展示されている。最後の生息地としては、何とか分散飼育で「トキよ再び」の夢をつないでいるのだ。
こうした機運を盛り上げようと、石川県立自然史博物館(金沢市銚子町)では特別展「トキを石川の空へ2006」を開いている。県内で所蔵されているトキの剥製4体のうち2体を並べて展示。トキの複数展示は珍しいというので、きょう訪れた。係りの人は「トキのくちばしは湾曲しているので、ドジョウをついばむのは苦手だったかもしれない」などと熱心に説明してくれた。
能登半島にトキが舞う日を夢見ている人がいる。半島突端の珠洲市で小学校の校長をしている加藤秀夫さん。「トキの野生化計画が進んで仮に放鳥が始まれば、佐渡から真っ先に飛んでくるのは奥能登なんです。何しろ佐渡から能登は見える距離なんですから。飛来したときに田んぼに水がはってあれば必ず舞い降りるはず」と熱く語る。そこで、冬の田んぼの水はり運動を農家に呼びかけている。その効果があってか、実はことし1月にはコウノトリの飛来が1羽観測されている。
加藤さんの試みはまだ孤軍奮闘の状態。分散飼育が具体化して機運が盛り上がれば、加藤さんの運動の輪も広がるのかもしれない。
⇒9日(土)夜・金沢の天気 はれ