★京に見る町家の美学

 京都を仕事で訪れた16日は祇園祭の宵山の日だった。先方と待ち合わせた円山公園は、浴衣がけの女性らも繰り出して大勢の人でにぎわっていた。園内にある野外音楽堂では、高石ともや、上条恒彦、永六輔らが出演する「宵々山コンサート」と銘打ったコンサートが午後4時から本番とあって、リハーサルにもかかわらず、上条恒彦のボリューム感のある声が園内に響き渡っていた。人のにぎわいと音で騒然としていた、と表現した方が分かりやすいかもしれない。

  その音楽堂近くの路地の一角の民家にふと目をやると、一瞬、雑踏が遮断されたかのような静寂の世界に入る思いがした。すべての感覚がその光景に集中してしまったのである。民家の玄関入り口は一坪もないほどの庭である。その庭にはジグザグに敷石と波型の瓦の縁を幾何学模様に配してあった。瓦と瓦の間隙には緑色のコケがはえて、これが何ともいえない色彩美を醸し出しているのである。この種の瓦を配した作庭は以前、金沢でも見たことがある。が、京都のそれは時間に馴染んで趣(おもむき)があった。

  心を動かされたのは庭だけではない。屋根もである。かやぶき。京都の市内中心部で初めて見た。かやぶきとこの玄関の庭の絶妙なバランスが周囲にこの民家の風格をにじませているようにも感じる。

 しばし眺めているだけで、この家に住む人びとの美的センスというものを感じさせ、ひょっとしてこの家に京都の美的エッセンスというものが凝縮されているのはないか、と思ったりした。素材にしても、フォルムにしても西洋的なにおいを一切感じさせない、純粋な和の質感。隙のない建築美。それでいて、この屋根の形状からも伺える伸びやかで柔軟なフォルム。この家には和の輝きがある。それはまた、グローバルに通じる美の世界ではないだろうか。

⇒17日(月)朝・大阪の天気  くもり