☆あすからニッポンの選挙

    あすは総選挙の公示日だ。この日を境にしてマスメディアの取材対応は新聞もテレビもがらりと変わる。やけに公平、ことに客観的、妙に紳士的になる。たとえば、公示日の各候補者の動きを報じるテレビの「お昼のニュース」を見てほしい。トリキリと言って各候補者の第一声をそのまま流す。各候補者のトリキリ(15秒程度)の秒数は同じだ。つまり平等だ。仮にこれがA候補が10秒で、B候補が12秒だとすると、A候補の選挙事務所から「なぜウチの候補者の声が短い」と抗議の電話がかかってくる。対応がまずかったりすると「公平性を欠く」「選挙妨害」と総務省にねじ込まれたりもする。特にテレビ局の場合は放送法で選挙に関する公平さが法律で規定されている。

     おそらくそれを見越しての自民党の動きである。新聞各紙によれば、自民党は28日、郵政民営化法案に反対した前衆院議員への対立候補について「刺客」という言葉を使わないよう報道各社に文書で申し入れた。郵政民営化反対派への強硬策あるいは見せしめなどを意図する言葉としてマスメディアは使っている。これが選挙区に送り込んだ相手が女性だと「くノ一」などと、いずれもイメージの悪い死語を用いている。申し入れの理由については「刺客は暗殺者を意味し、候補の呼び名としてふさわしくない」「自民党とその候補のイメージダウンを図る効果が生じている」としている。自民党とすれば申し入れは当然だろう。真面目に争点を論じようにも、「くノ一の刺客」などとマスメディアに喧伝(けんでん)されてはかなわない。

     この措置は、自民党選対本部が総務省と連絡を取り合って、公職選挙法(選挙妨害)や放送法(報道の公平性)などの法律に抵触するかどうか相談した上でのことだろう。つまり、「予め警告しておく。公示以降は法的な措置も検討する」という意味合いだ。しかし、これを受けた29日の紙面は対応がバラバラだ。相変わらず「刺客」と使っている紙面もあれば、「郵政民営化法案に反対した前職に党本部が公認候補らをぶつける郵政分裂型の選挙区」(朝日新聞)などとすかさず対応している新聞社もある。

     しかし、あす30日からは、みなが紳士的になり、「くノ一の刺客」やホリエモンという言葉は使わないだろう。「郵政民営化に賛成の自民党の女性候補」「堀江貴文候補」となる。そして、9月11日午後8時の投票終了以降はまた「くノ一の刺客」やホリエモンに戻る。こうしたマスメディアの対応を外国人ジャーナリストが記事にすれば「選挙に見るニッポンの奇観」との見出しが立つのではないか。

    それではインターネットのブログは自由に書けるのか。公職選挙法では、公示日から投票日までは立候補者や政党はホームページの更新や開設が原則禁止となる。候補者はもちろん、関係のない個人であってもメールやブログ、掲示板で特定候補への投票呼びかけは禁止である。違反した場合は2年以下の禁固、もしくは50万円以下の罰金だ。日本の選挙はかくのごとく厳粛なのである…。

 ⇒29日(月)午後・金沢の天気  晴れ