★「ミモレットの約束」と同調

   この「ミモレット」をめぐる選挙のコラムは3部作シリーズのようになってしまった。意図したわけではない。選挙をめぐる動きが急なのである。

   さて、25日夜の小泉総理、総裁派閥会長の森氏、武部党幹事長による会食では、ミモレットを話題にしながらも次なる選挙の秘策が交わされたと私は推測している。会食は、民主の小沢氏が「年金問題」をクローズアップさせるため「一対一の党首討論」を持ち出してきたことがきっかけだった。会食の席で、森氏は「総理も年金を一本化すると派手にぶち上げたらいい」と提案した。しかし、小泉総理は「総裁任期は来年9月までと公言しており、法案整備に数年かかる年金問題をいま声高に持ち出せば、野党が矛盾だと突いてくる」と渋った。そこで、森氏が「任期延長(小泉続投)もありうる」と地ならしをした上で、選挙最終盤になって小泉総理が「郵政民営化法案の可決後に直ちに年金一本化に着手する」とぶち上げ一気に追い込みに入る、というシナリオが出来上がった。話がまとまり、会食に集った自民首脳はほくそ笑みながら「選挙に勝ってミモレットをツマミに祝杯を上げよう」と約束した。私はこの推論上の秘策のシナリオを「ミモレットの約束」と名付けることにした。

    話はローカルになる。25日午前10時ごろ、金沢大学角間キャンパスにある郵便局の前を横切ると、「奥田と言います。よろしく」とパンフを渡された。ふいだったので思わず手に取った。顔を見ると、郵便局から出てきたのは石川1区の民主・奥田建氏本人だった。かつて取材したことがあり、「奥田さん大変ですね」と今度はこちらから声をかけた。すると本人は「本当に大変なんです。よろしくお願いします」と。会話はそこまで。本人は足早に次の郵便局へあいさつ回りに向かった。

    なぜ2日前の話を持ち出したかというと、小泉総理がきのう26日夕、自民党本部で記者団の質問に答えた内容が気になったからだ。 衆院選で与党が勝利した場合、郵政民営化法案への対応から民主が分裂して一部が自民に合流する可能性について、「民主党の中でも、本音では民営化賛成の人がかなりいるだろう」と総理が自信ありげに語ったという記事だ。奥田氏のように多くの民主の候補者は公示以前からこまめに郵便局回りをしているはずだ。ということは、逆にいま郵便局回りをしていない民主の候補者はひょっとして当選後に造反する可能性があると見てよい。これは私の推測だ。

       経団連が自民支持を鮮明に打ち出すとの記事も先日流れた。かつての「総資本VS総労働」(自民VS民主)の構図が浮き上がってきた。郵政民営化に賛成か反対か、労働側の支援を受けるのか受けないのか。いくつかの対立軸のはざ間で相当動揺している「自民に近い民主」の人たちも確かにいるだろう。関が原の戦いで、同調に躊躇(ちゅうちょ)していた小早川秀秋が、徳川家康に大砲を撃ち込まれた。「決断せい」とのシグナルと受け取った小早川軍勢が西軍に反旗を翻し、これが西軍全体の動揺となり総崩れとなる。

    先の小泉総理の言葉は、同調者を揺さぶり出すと言っているようにも聞こえる。選挙後にどのような「決断の大砲」を撃ち込むのか。選挙という戦(いくさ)はリアリズムに満ちあふれている。この膨大なリアリズムの糸の中から本筋をたどり、切れている箇所を冷静に推論しながら繋いでいく。すると一本に繋がったリアリズムの糸の先に近未来のシナリオが見えてくることがある。その「発見」はささやかな喜びにもなる。

⇒27日(土)夕・金沢の天気    晴れ