★「ミモレットの誤解」と選挙

   森喜朗元総理のあの「干からびたチーズ」の映像は何度見ても面白い。実に滑稽なのだ。この人が映画俳優だったらいぶし銀のいい味を出す名脇役になっていたに違いない。

    今月6日夜、小泉総理に衆院解散を思いとどまらせようと森氏が官邸を訪ねたが、「殺されてもいい」と拒否された。その会談で出たのが缶ビールとツマミの「干からびた」チーズだった。会談後、森氏はわざわざ握りつぶした缶ビールと干からびたチーズを取り囲んだ記者団に見せ、「寿司でも取ってくれるのかと思ったらこのチーズだ」「硬くて歯が痛くなったよ」と不平を漏らした。あの映像を見た視聴者は「小泉は命をかけているんだ、本気だな」との印象を強くしたのではないか。選挙のドラマのエピローグはここから始まったように思えてならない。

    この話には後日談があって、あの干からびたチーズはフランス産高級チーズ「ミモレット」だった。ミモレットはカラスミに似た深い味わいで日本酒にもあう。18カ月もので100㌘750円ほど。干からびた風合いが一番おいしいそうだ。もし、森氏が「小泉さんが高級チーズで歓待してくれたよ」と自慢していれば、国民の反感を買って、今ごろ小泉総理に逆風が吹いていただろう。そう考えると、ひょっとしてこれは日本の政治史に「ミモレットの誤解」として語り継がれるかもしれない。

    マスメディアはそれぞれ1週間ぐらいの間隔で世論調査を行い選挙動向を分析しているが、各種の調査は内閣支持率が50%を超えたと伝えている。インターネットでもいろいろなアンケート調査があり、たとえば「goo」のブログサイトが行っている公開アンケートでは、小泉総理による「郵政解散を支持するか、しないか」の設問がある。24日現在で「支持する」が68%、「支持しない」が27%でダブルスコア以上に差が開いている。インターネットを利用するのは比較的若い世代なので、この調査からは若い世代の考えのおおまかな傾向をつかむことができる。

    さらにちょっと踏み込んで考えてみると、今回の選挙は「デジタルっぽい」感じがする。「郵政民営化」にイエスかノーか、すべての小選挙区に賛成の候補(自民)と反対の候補(自民造反組、民主ほか)がいる。「0」 と「1」 とで表現されるデジタル信号のようにも考えられ、今回の選挙はインターネットとの親和性が随分あるようにも思える。そして、「白黒をつける」という分かりやすさが内閣支持率を押し上げているのではないかと考えたりもする。もちろん、小選挙区は「ドブ板」と「しがらみ」のアナログ的な要素があり、デジタルっぽさが内閣支持率を押し上げたとしても投票行動とは必ずしもリンクしない。こうした諸条件を勘案すると、「内閣支持率50%超え」という世論調査はそこそこに的を得た数字ではないかと思う。

    選挙が行われる9月11日まであと17日。TVメディアはそろそろ当日の選挙特番の打ち合わせに入るころ。番組タイトルは「YESかノーか小泉郵政民営化、国民の審判下る!~選挙劇場ライブ2005~」といった感じだ。そして番組構成として、冒頭にこれまでの選挙の「振り返り」VTRを流す。5分ぐらい。そのVTRのスタートのシーンは例の森氏の「干からびたチーズ」のはずだ。VTRが終わると西日本の四国や山陰あたりの小選挙区の当確の速報が早々と流れ始め、大勢の判明は午後11時ごろ。選挙結果を受けての番組第2部の討論コーナーのスタートは11時半ごろか。

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