「iPS細胞」という言葉は知っていたが、この目で初めて視たのは去年開催された大阪・関西万博の会場だった。「PASONA」パビリオンで展示されていた「iPS心臓」。円筒形の容器の赤い培養液の中でドク、ドクと動いていた=写真=。大阪大学の研究チームが作成したもので、コラーゲンの土台にiPS細胞由来の心筋細胞を植え込み、3.5㌢ほどの原型をつくった(説明書より)。この「小さな心臓」に血液を循環させる本来の心臓の機能はないが、鼓動するその姿は生命の神秘を感じさせると同時に、生命の可能性について期待を持たせてくれたことを覚えている。そのiPS細胞がいよいよ実用化に向けて動き始めたようだ。

メディア各社の報道によると、上野厚労大臣は6日の閣議後の記者会見で、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた2つの再生医療の製品を、条件と期限付きで承認したと発表した。薬事承認されたのは、大阪大学発の再生医療ベンチャー企業「クオリプス」(東京)が開発した、重い心不全患者向けの心筋細胞シート「リハート」と、住友ファーマ(東京)によるパーキンソン病向けの「アムシェプリ」。「リハート」は、軽度の手術によって心臓に貼り付ける形で使用することができ、貼り付けた後には心臓に新しい血管が形成され、組織を修復する効果がもたらされる。また、「アムシェプリ」は、パーキンソン病患者に不足する神経伝達物質ドーパミンを出す神経細胞のもとになる細胞を脳に注入することで、患者の運動機能を改善する効果が期待される。
承認後は中央社会保険医療協議会(厚労大臣の諮問機関)が公的保険で扱う際の価格を決め、早ければ夏ごろに市販される見通し。市販後に有効性などが検証できれば、医薬品や医療材料として本格承認となる。厚労省の専門部会が2月19日にこの2つの製品についての製造販売を了承していた。iPS細胞を使った製品の実用化は世界初となる。
これはまさに、「医療イノベーション」ではないだろうか。iPS細胞は患者自身の細胞から創ることができるため、拒絶反応のリスクが低く、倫理的問題も少ないという利点があると言われている。京都大学の山中伸弥教授(ノーベル医学生理学賞・2012年受賞者)が2007年にiPS細胞を生成する技術開発に成功し、世界的な注目を浴びてから19年だ。心不全やパーキンソン病の患者にとって朗報に違ない。心不全は世界で3800万人以上が罹患し、パーキンソン病も世界で600万人以上の患者がいるとされる。
クオリプス、住友ファーマの両社は今回の製品を「第1弾」との位置づけで、国内発売で成功事例をつくり最大市場であるアメリカでの展開につなげる戦略のようだ(メディア各社の報道)。今回の承認を起爆剤に難病に根本的治療法が確立されることを願う。
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